余裕がないときの心の整え方 特別出張版

どう見られている? 自分の評価が気になる【禅マインドフルネス】

人間関係が良好になる「あるある」

この集中連載では、医師であり禅僧の川野泰周氏がストレス社会の「あるある」問題の向き合い方について教えてくれる著書『「あるある」で学ぶ 余裕がないときの心の整え方(できるビジネス)』から抜粋した“心が折れるその前に、あなたの心を整える方法”を、心がざわつく年末に、短期集中連載というかたちで忙しいビジネスパーソンの皆さま、家庭を支える主婦の皆さま、将来を模索している学生の皆さまにお届けします。

どう見られている? 自分の評価が気になる

裏を返せば、人に認められたい

「上司は私のことを評価していない」

「既読スルー。嫌われてしまったのかな?」

「みんなができていることができない。自分はダメだなぁ」

など、人の評価が気になったり、周りと比べてしまったりして凹んだ経験はありませんか。もちろん私もあります。

 アメリカの心理学者のアブラハム・マズローが提言した「マズローの欲求五段階説」[図1]というものがあります。

 人からの評価が気になることは、それはマズローの言う第四欲求の「承認欲求」です。裏を返せば人から認められたいという人間なら誰しも持っている欲求、すなわち「自己愛」の一種なのです。

「自己愛」という魔物

「自己愛」は本来、悪者でも何でもありません。適度な自己愛は自分を支えてくれるものです。

 たとえ話をしましょう。生まれて間もない赤ちゃんは自分と他人の違いを認識できません。しかし次第に脳機能を発達させて父親や母親と関わる中で、自分が他者と違う存在であることに気づいていきます。これが「自我」の芽生えです。やがて成長して学校や社会に出るようになると、今度は周りと自我との間に摩擦が生じます。この摩擦が人から認められたい、すなわち「承認欲求」へと変化するのです。

 承認欲求があること自体は悪いことではありません。しかし強すぎる承認欲求は自己愛を肥大させます。これが厄介なのです。現代社会に多い心の病のほとんどは、肥大化した自己愛が引き起こしていると私は考えています。では、私たちは自己愛とどのように向き合えばいいのでしょうか。

あなたの自己愛は健全?

健全な自己愛と肥大化した自己愛を見分ける一つの方法は、そこに不安を感じるかどうかです。たとえば、

「努力する自分を褒めてあげよう」

「自分はこんなに頑張っているのに報われない」

後者の自己愛には不安が見えます。自分の評価が気になってしまっている人の多くは、肥大化した自己愛に気づくことなく過ごしています。しかし無自覚なままで苦しむのは「苦しみの連鎖」を呼びかねません。

 まずは自分の心の状態に気づくこと。自分の心に、他者から認められていないことによる不安が強くあると正確に知ることが第一歩です。

 不安や悩みに気づきながら瞑想を継続させることで、徐々に悩みからは解放されていくでしょう。

【POINT!】
誰しも人から認められたい欲求がある
肥大化した自己愛が自分を苦しめる
自分の不安を正確に知る
川野泰周(かわの たいしゅう)

精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職

精神保健指定医・日本精神神経学会認定専門医・医師会認定産業医。

1980年横浜生まれ。2004年慶応義塾大学医学部医学科卒業。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行。2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内にあるクリニック等で精神科診療にあたっている。

うつ病、神経症、PTSD、睡眠障害などに対し薬物療法と並び禅やマインドフルネスの実践を含む心理療法を積極的に取り入れた診療に当たっている。またビジネスパーソン、看護職、介護職、学校教員、子育て世代の主婦などを対象に幅広く講演・講義を行っている。