知られざるNASの世界

第2回

“昔のPC”をNASに保存、さらにリモートでも使用可能に!

古い環境を「VirtualBox」で仮想化してNASから起動する方法

古いPCが捨てられない……

ASUSTOR社のNAS。今回はこのNASにWestern DigitalのNAS向けHDD「WD Red」を組み合わせて検証した。

 ソフトの互換性問題などから、古いPCをなかなか廃棄できない……というのはよくある話。新しいPCに環境を構築しようとしても、必要なソフトのインストールディスクを紛失してしまっており、にっちもさっちもいかない……という経験は、多くの人にあるのではないでしょうか。

 こうした場合、古い環境をまるごと“仮想化”してしまえば、実際のPCを片付けてしまい、別PCからリモートで呼び出して使う、なんということができるようになります。さらに応用すれば、古いバージョンのWindowsやLinuxなど、作成したさまざまな環境をNASに格納しておき、必要に応じて起動し、動作を確かめるということもできてしまいます。

 ASUSTORのNASは、こうした仮想化ソフトのひとつ「VirtualBox」をサポートしていますので、上記のような使い方が可能です。古い環境の物理ドライブをまるごと仮想化する場合、何百GBというディスク容量が必要になりますが、テラバイト級の容量を持つNASであれば、こうした容量面での心配もいらず、複数台の仮想環境を保存するのも朝飯前です。

 今回は、この「VirtualBox」を使い、古いWindows 7 PCをそのままNASに移行し、利用できるようにするまでの手順を紹介しましょう。

【PCを仮想化する場合はライセンスに注意】

 PCを仮想環境に移行する場合、OSやソフトウェアのライセンスに気をつける必要があります。

 例えば一般的なプリインストールOSであるOEM版Windowsのライセンスはハードウェアに紐付いており、その場合、そのハードウェアを使わないように「仮想化」してしまうとライセンス違反になってしまいます。Windows 7などで販売されていたリテールパッケージ版Windowsなど、ハードウェアに紐付かないライセンスを利用している場合は仮想化しても問題ありませんが、その場合でも、移行元PCのWindowsは削除するか、別ライセンスを用意する必要があります。

 その他のソフトウェアのライセンス形態は様々ですが、PCハードウェアに紐付いているものは仮想化することでライセンスを失ってしまうので、その点は気をつけましょう。

まずはNASに「VirtualBox」をインストール

 さて、古いWindows 7 PCを“仮想化”してNASに格納し、リモートで呼び出して使えるようになるまでの設定手順は、大きく分けて以下の3つに分けられます。

  1. ASUSTOR NASにNASアプリ「VirtualBox」をインストール
  2. 古いWindows 7 をディスクイメージに変換
  3. 「VirtualBox」で新しい仮想マシンを作成し、手順2で作成したディスクイメージを指定

 ではさっそく設定手順を順に見ていきましょう。まずはASUSTOR NASにログインし、NASアプリのライブラリである“App Central”から「VirtualBox」を探してインストールを行います。この際、「VirtualBox」を動作させるために必要なソフトや設定が指示されますので、併せてインストールおよび設定を行います。作業そのものはまったく難しくなく、ものの5分もあれば完了します。

まずはWebブラウザー経由でADM(ASUSTOR NASのOS)にログインし、[App Central]をダブルクリックして開きます
App CentralからNASアプリ「VirtualBox」を探してインストールを行います。利用にあたってはASUSTOR IDが必要になります
「VirtualBox」を動かすのに必要なアプリが表示されますので、こちらも併せてインストールを行います
利用にあたっては[サービス]-[Webサーバー]画面で[Webサーバーを有効にする]にチェックを入れておく必要があります

古いPCの物理ディスクをまるごとイメージに変換

 次いで、古いWindows 7 PCの物理ディスクを「VirtualBox」で使用するディスクイメージに変換します。わかりやすく言うと、OSを含むハードディスクの領域をまるごと、ひとつのファイルに変換してしまうわけです。感覚的にはCDやDVDを焼くのと同じです。

 ディスクイメージの作成にあたっては、フリーのユーティリティ「Disk2vhd」を利用します。サイトからダウンロードしたのちダブルクリックして起動、保存先を指定して[Create]ボタンをクリックするだけです。形式は“vhdx”ではなく“vhd”を指定します。

物理ディスクをVHD形式に変換するユーティリティ「Disk2vhd」。米Microsoftが運営するWindows Sysinternalsのサイトからダウンロードできます
ダウンロードしたEXEファイルをダブルクリックで起動し、[Create]ボタンをクリックしてディスクイメージへの変換を実行します。保存先はNAS上であればどこでも構いません。なおデフォルトでは右上の[Use Vhdx]にチェックが入っていますので、これは外しておきましょう

 気を付けたいのは、OS(今回の例ではWindows 7)がインストールされたハードディスクをまるごとひとつのイメージファイルに変換するため、ファイルサイズが非常に大きくなることです。たとえばハードディスクの容量のうち100GBを使用しているのであれば、生成されるイメージファイルもおおむねそれと等しいサイズになります。

 もっとも今回は、NASにこれらのイメージを保存して利用することがあらかじめ決まっていますので、「VirtualBox」を実行するNASを保存先に指定し、ダイレクトに保存するのがよいでしょう。これならば容量的にも余裕があるはずですし、別の場所に保存したのち移動やコピーを行うことによる手間や時間も掛けずに済みます。保存先のフォルダーは、NAS上であればどこでも構いません。

「VirtualBox」で古いPCがそのまま動く!

 ディスクイメージが用意できたら、「VirtualBox」でそれを読み込み、実際にNAS上でWindows 7を動かしてみましょう。

 NASにインストールした「VirtualBox」のアイコンをダブルクリックしてログインし、[仮想マシン]-[新規]メニューをクリックします。設定はウィザード形式になっていますが、ハードドライブについて設定するところで、今回作成したイメージファイル(VHD形式)を指定して[作成]ボタンをクリックすることで、「VirtualBox」の仮想マシンとして認識されます。仮想マシンを選択した状態で[起動]ボタンをクリックすると、画面右上にWindows 7が起動する様子が表示されるはずです。

 なお、ウィザードで表示されるメモリなどの必要量は、あくまでも最低限必要な容量でしかありませんので、そのままではOSの動きが遅かったり、起動が途中で止まってしまう場合があります。必要に応じて大きな値に変更するとよいでしょう。

 ちなみに筆者が今回試用した際は、ストレージがデフォルトの“SATA”のままではうまく起動せず、“IDE”に変更することで正しく起動できました。こうした挙動は、もとの物理マシンのハードウェア構成とも関係しますので、うまくいかないようであればパラメーターを変更して試してみることをお勧めします。

ADMの中に先ほどインストールした「VirtualBox」のアイコンがありますので、ダブルクリックして起動します
画面はWebブラウザーの新しいタブで表示されます。ユーザー名およびパスワードはいずれも“admin”でログインできます。すべての手順が完了したあと、独自のユーザー名とパスワードに書き替えておきましょう
「VirtualBox」が起動しました。初期状態では英語ですので、設定画面から日本語表示に切り替えておきましょう
ではさっそく仮想マシンを作成し、先ほどのディスクイメージを読み込みます。まずは[仮想マシン]-[新規]メニューをクリックします
名前とオペレーティングシステムを入力します。今回は名前は“test”とし、タイプはインストール内容に合わせてそれぞれ“Microsoft Windows”“Windows 7 (32-bit)”を選びます
メモリーサイズを設定します。最低容量として512MBが指定されています。必要に応じて増やすことで動作がスムーズになります
ハードドライブとして“すでにある仮想ハードドライブファイルを使用する”を選び、先ほど保存したディスクイメージを指定します
作成が完了しました。作成した仮想マシン“test”を選択した状態で左上の[起動]ボタンをクリックすれば起動します
画面右上のプレビューに、イメージ化したWindows 7のデスクトップ画面が表示されれば成功です。なおこの画面で“ディスプレイ”の項に表示されている“リモートデスクトップサーバーポート”の情報は、のちほどPCから接続する際に必要になります
今回の筆者の環境では、“ストレージ”のコントローラーが“SATA”のままではうまく起動せず、“IDE”に変更する必要がありました。このほか、うまく起動しなかったり、スピードが遅い場合は[設定]ボタンをクリックしてメモリーサイズやビデオメモリーサイズなどを調節します

作成した仮想マシン、どうやって操作すればよい?

 さて、仮想化したWindowsを実際にマウスやキーボードで操作するには、2つの方法があります。ひとつはWindows標準の「リモート デスクトップ接続」を使ってアクセスする方法です。先程の手順のように「VirtualBox」上でWindows 7の起動を確認したあと、手元のPCで「リモート デスクトップ接続」を起動し、指定のIPアドレスを入力して[接続]ボタンをクリックします。

 これにより、仮想化したWindows 7にリモートで接続し、操作することが可能になります。同様の手順で、iOSやAndroid向けに用意されているリモートデスクトップアプリを使ってアクセスし、操作することも可能です。

Windowsの“アクセサリ”の中にある「リモート デスクトップ接続」に、「VirtualBox」のIPアドレスおよびポート名を入力して[接続]ボタンをクリックします。IPアドレスおよびポート名は、先ほどの「VirtualBox」の画面の“ディスプレイ”の項に記されています
仮想化したWindows 7環境の起動に成功しました。あとはマウスなどを使って操作します
インストールされているソフトもそのまま利用できます。前述の通り、ソフトウェアのライセンスについては注意しましょう
「リモート デスクトップ接続」で接続した場合、デスクトップ上にもうひとつデスクトップが表示されうような状態になります。全画面表示にすれば、さも直接インストールしたOSのように扱えます
NAS背面のHDMI端子から、HDMIケーブルを経由してテレビに映像を出力することもできます

 もうひとつは、HDMI経由でディスプレイに直接出力する方法です。ASUSTOR NASは本体背面のHDMI端子にケーブルを接続することで、HDMIポートを搭載したテレビにアプリの画面を表示する機能を備えています。あとはキーボードをNASにつなぐことで、そのままWindows 7マシンとして使えてしまうというわけです。

 今回は、既存のWindows環境を移行する方法を紹介しましたが、新規にWindowsをインストールしたり、Linuxなどの環境を仮想化することも可能です。さまざまなプラットフォームを手軽に試せることが仮想化の大きな利点ですが、NASであれば容量も大きいことから複数の仮想マシンを保存するのに向いています。

 また「VirtualBox」は一般的にはPCにインストールして使用しますが、今回のようにNASにインストールして使う場合、LAN内のどのマシンからも利用できるのが利点です。ASUSTORのNASを購入したらぜひ使ってみたい、便利な機能の1つと言えるでしょう。

[制作協力:ASUSTOR / ユニスター]