知られざるNASの世界

第3回

LANにつなぐリムーバブルHDD? NASの“MyArchive”機能を使ってみた

NASのカートリッジがリムーバブルディスクに……

NASが“LANにつなぐリムーバブルHDD”に!?

カートリッジタイプのNAS。一般的には障害発生時のドライブ交換を容易にするための機構ですが、ASUSTOR NASでは“MyArchive”機能によりリムーバブルディスクとして利用できます。利用しているHDDはWestern DigitalのNAS向けHDD「WD Red」。

 NASと呼ばれる製品には、カートリッジ機構を採用したモデルが多数ありますが、それらはドライブに障害が発生した際に交換を容易にするためのものであり、平常時にその機構を使うことはほとんどありません。特に個人利用であれば、予備のカートリッジを用意して故障に備えている人は、きわめて稀でしょう。

 もっともNASの中には、これとは異なる使い方が可能な製品もあります。ASUSTORのNASでは、NASのカートリッジをリムーバブルディスクとして、用途に合わせて差し替えながら使えるようになる“MyArchive”機能が利用できます。言うなれば“LAN接続型のリムーバブルドライブ”としてNASを使えるようになるのです。

 NASのカートリッジをリムーバブルドライブとして使えれば、たとえば月単位でバックアップを取って保管するなど、かつてのテープドライブのような使い方が可能になります。NASに保管しているファイルが、繰り返し参照するデータと、ほとんど参照することなく長期保存だけを目的とするデータにはっきり分かれている場合、後者の保存先をMyArchiveに設定し、容量がいっぱいになるたびに新しいドライブに交換するフローを構築すれば、1台のNASをより長期間使えるようになります。

市販のHDDに専用トレーを装着することでカートリッジとして利用できます
カートリッジ化したHDD。この状態で対応NASへの抜き差しを行ないます

 今回は、ASUSTOR NASの独自機能であるこの“MyArchive”について、その特徴や具体的な使い方を、4ベイモデル“AS6204T”を例に紹介しましょう。

 なお、ASUSTORのNASには、カートリッジタイプ以外に内蔵タイプの製品もあり、こちらはNAS本体を開封してドライブを組み込む必要があることから、MyArchiveは利用できません。本稿を読んで製品の購入を検討する際は、対象の製品がMyArchiveをサポートしているか、あらかじめ確認することをお勧めします。

“ベイ数-1”本のドライブをMyArchiveとして利用できる

 MyArchiveとして利用できるNASのカートリッジ数は“ベイ数-1”本。つまり4ベイのNASであれば最大3本、2ベイのNASであれば最大1本を抜き差し可能なリムーバブルドライブに変身させられます。NASのシステムをインストールする1本は必ず残しておく必要があります。

 MyArchiveを利用するには、初回導入時に全ドライブでRAIDを構成するのではなく、MyArchiveに使うドライブを割り当てから外してセットアップを実行します。セットアップ完了後にADMから[ストレージマネージャ]画面を開き、[作成]→[MyArchive]を選択すると、どのドライブをMyArchiveに使うか尋ねられますので、セットアップ時に割り当てから外したドライブを選んだのち、フォーマット(ext4/NTFS/HFS+のいずれか)を指定して実行するだけです。

 このほか、すでにNASがセットアップ済みであれば、同じく[ストレージマネージャ]画面からRAIDの構成を変更して割り当てのないドライブを作り、それをMyArchiveに指定することもできます。

 なおNASの特徴の1つに、RAIDによる冗長化が挙げられますが、MyArchive用にドライブを割り当てた場合も、残ったドライブを使ってRAIDを組むことができます。たとえば4ベイのNASであれば、3本でRAID5を構成し、残り1本をMyArchiveに割り当てることができます。あるいは、2本でRAID1を構成し、残り2本をMyArchiveに割り当てることも可能です。ただしMyArchiveで使用するドライブそのものを複数束ねてRAIDを組むことはできません。

MyArchiveを利用するには、セットアップ時にMyArchiveで使用するドライブを省いてセットアップを行います。この例では4番のドライブをMyArchiveで利用することを前提に、1~3番のドライブでRAID5を構築しています
セットアップが完了したあとADMにログインし、[ストレージマネージャ]画面でボリュームのセットアップウィザードを実行します。選択肢に[MyArchive]が表示されますのでチェックを入れて[次へ]ボタンをクリックします
MyArchiveで使用するドライブを選択します。ここでは先ほどのセットアップ時に除外した4番のドライブにチェックを入れ、次へ進みます
ファイルシステムを選択したのち、適当なエイリアス名を入力して次へ進みます
MyArchiveの作成が完了しました。もともとあったボリュームとは別のドライブとして認識されていることがわかります
さきほどの例では3台をRAID5化し、残り1台をMyArchiveに割り当てましたが、同時に2台のドライブをMyArchiveに割り当てることもできます。この例では3~4番のドライブをMyArchiveのために残し、1~2番のドライブでRAID1を構築しています

選べる3つのフォーマット、PCからも直接読み取れる

WindowsのエクスプローラーでNASを表示した状態。MyArchiveドライブがひとつの共有フォルダーとして表示されます

 作成したMyArchiveは、それ自体がひとつの共有フォルダーと見なされます。一般的な共有フォルダーと同様、アクセス権限の設定にも対応しますので、管理者からは“読み書き可能”、その他のユーザーからは“読み出しのみ”といった具合に、権限をユーザー単位またはグループ単位で設定することも可能です。

NASの[アクセスコントロール]画面で共有フォルダーを表示すると、こちらもやはりMyArchiveがひとつの共有フォルダーとして認識されていることがわかります
MyArchiveドライブは、通常の共有フォルダーと同じようにユーザーもしくはグループ単位でアクセス権限の設定が行なえます

 ドライブのフォーマットは、ext4/NTFS/HFS+の3種類から選べます。たとえばWindowsで用いられるNTFSでフォーマットしておけば、取り外したドライブをUSB接続のHDDケースに入れ、そのままWindowsで読み取ることも可能です。

MyArchiveはext4のほか、Windowsで用いられるNTFS、Macで用いられるHFS+でフォーマットすることも可能です
Windowsの場合、予めNTFSでフォーマットしておけば、MyArchiveドライブを取り出してUSB接続のHDDケースに入れ、PCで直接読み取ることも可能です

 MyArchiveで複数のドライブを利用する場合、ドライブは1台ずつ別々の共有フォルダーとして認識されますので、たとえば4ベイNASで3つのドライブをMyArchiveとして利用する際、ext4/NTFS/HFS+がそれぞれ1台ずつといった具合に、フォーマットが混在してもまったく問題ありません。ドライブ間のデータコピーももちろん可能です。

USB接続したMyArchiveドライブ(NTFS)をWindowsのエクスプローラーで表示すると、中にMyArchiveという名前のフォルダーがあることがわかります。データはこの中に入っています
1台のNASで複数のMyArchiveを利用する場合、フォーマットは混在させても問題ありません。この例ではMyArchive1/2/3にそれぞれHFS+/NTFS/ext4のドライブを割り当てています
MyArchiveドライブが複数ある場合、複数の共有フォルダー(MyArchive1/2/3)として扱われます
Windowsから表示すると、やはりそれぞれのMyArchiveドライブが別々の共有フォルダー(MyArchive1/2/3)として認識されていることがわかります

 では逆に、すでにWindowsなどで使用しているドライブを取り外し、MyArchiveのドライブとして中のデータを読み取らせることはできるのでしょうか。残念ながらこれは『NO』です。MyArchiveハードディスクとして使うためには、あらかじめNAS側で設定ファイルを書き込んでおく必要があるため、それらの処理を行っていないドライブを接続しても、MyArchiveドライブとしては認識できません。もちろん、前述の[ストレージマネージャ]画面でセットアップを行えば新しいドライブとして使うことはできますが、その場合は中のデータは消えてしまうことになります。

NAS間のデータ交換にも使える

 このほか、MyArchiveの便利な使い方として、ほかのASUSTOR NASへのデータ移行、およびコピーが容易になることが挙げられます。抜いたドライブを他のNASにつなぐだけで、再フォーマットをすることなくMyArchiveドライブとして認識され、それらのNASでもともと使っていたかのように違和感なく扱えるというわけです。

 ちなみに今回の試用ではWestern DigitalのHDD“WD Red”を使用していますが、NASの「ファイルエクスプローラ」を利用したドライブ間のファイルのコピー速度は約150MB/sで、2GBを超えるファイルでもわずか十数秒でコピーが完了しました。これならば、MyArchiveを用い、複数のNASにテラバイトサイズのデータをコピーして回るのも、十分に実用的です。

MyArchiveドライブを取り外すには、ストレージマネージャで[取り出し]ボタンをクリックし、確認のダイアログが表示されたら[適用]ボタンをクリックします
イジェクトボタンを押してMyArchiveドライブを引き抜きます。NASの電源は入ったままで問題ありません
抜いたドライブを別のASUSTOR NASに挿入します
挿入先のNASでMyArchiveドライブとして認識されました

 また、今回の試用では、近頃市場に出回り始めたばかりの10TBの大容量ドライブについても試しましたが、まったく問題なく認識でき、利用できました。古いOSではドライブの容量を正しく認識できないケースもありますが、たとえそのような場合も、本製品に組み込んだ上でネットワークドライブとして扱うようにすれば、問題なく利用できるというわけです

容量10TBのHDD(Western Digitalの“WD Gold”)も問題なく利用できます
[ストレージマネージャ]画面で10TB HDDを表示したところ。サイズ9.10TBのドライブとして認識されています

NASの使い方をこれまで以上に広げてくれる“MyArchive”

 以上のように、MyArchiveは、NASの使い方をこれまで以上に広げてくれる機能です。購入してすぐにこの機能を使わなくとも、将来的にNASを新しいモデルに入れ替えてお役御免となった際、バックアップの役割を担わせて継続利用することが可能になります。同じカートリッジタイプのNASでも、他社の製品ではこうした使い方は不可能です。

 また、NASではなくリムーバブルケースを探している人にとっても、この機能は注目すべきといえます。USB接続のリムーバブルケースに比べると本体の価格は高めですが、本製品であれば利用スタイルが変わっても使い続けることができ、かつ単品のHDDトレイも同じモデルが長期にわたって継続販売されており入手性も高いとなれば、最終的にはこちらを選んでよかった……となる可能性も高そうです。NASの機能や価格が横並びになりつつある今、こうした特徴的な機能で製品を選ぶという選択肢は、賢い方法の1つといえるのではないでしょうか。

[制作協力:ASUSTOR / ユニスター]