特集

“IT 勉強会スタンプラリー”で行く、全国コミュニティ探訪 第6回

勉強会に参加する意義、勉強会を継続する意味

“IT 勉強会スタンプラリー”

 “IT 勉強会スタンプラリー”に参加する勉強会を訪ねる本企画。最終回となる今回は少し趣向を変え、これまで参加した勉強会を振り返りつつ、筆者の体験も踏まえながら、勉強会に参加する意義、勉強会を継続する意味について考えてみたい。

    なぜ勉強会に参加するのか

    IT勉強会(“Hokuriku.NET”での様子)

     筆者が初めて勉強会に参加したきっかけは、よく覚えていない。おそらく“Twitter”で誘われたりしたのがきっかけであったように思う。しかし、休みの日にわざわざ遠いところまで出かけ、見ず知らずの人たちの間に入っていくことには、やはり高い心理的ハードルを感じていた。

     それでも筆者が勉強会に参加したのは、漠然とした不安があったからだ。

     ソフトのニュースやレビュー記事を書くには、一般的なソフト利用者の目線も大事だが、それと同じぐらい作り手である開発者の目線に立つことも重要だと思う。単に便利で価値があるから紹介するというのも、それはそれでひとつのやり方だが、その機能を提供するためにどのような技術上の工夫を凝らされ、努力が注がれてきたかも、ソフトの価値であるはずだ。そのためには、日頃から開発技術に対する知識をできるだけ多く仕入れておくのも、記者の重要な仕事のうちのひとつだと言える。

     しかし、開発技術というのは日進月歩。“自分では積極的に知識を習得しようとしているつもりでも、実は進歩にまったく追いついていけていないのではないか”という不安が拭いきれなかった。独学で新しい概念を習得するのは難しいし、ましてや知りもしない分野へ目を向けるのは困難だ。

     その点、IT勉強会というのは自分にとって好都合なものだった。多くの人が、さまざまな分野からさまざまなスキルをもち、さまざまな興味をもって集まっている。さまざまなことを教えてもらえるし、未知の分野の話も聞ける。

    “プログラミング生放送”では、ニンテンドーDSi/3DS用BASIC「プチコンmkII」を使ったプログラミングが紹介された(お土産にペーパークラフトをいただく)。携帯ゲーム機に縁のない筆者には未知の世界だ
    開発したばかりのゲームをPSPで楽しむ
    わんくま同盟勉強会公認の同人誌『わんくまさん?』
    “スマートフォン勉強会”では、異常な数のSIMカードや端末を披露するパワーユーザーも

     しかし、IT勉強会で得られるのは新しい情報や知見、視野だけではない。筆者にとって一番の収穫は、“自分がいかに知らないか、何を知らないのか”を知ることができたことだった。“何を知らないということを知る”ことによって、参加する前に抱いていた“漠然とした不安”はいつの間にか感じなくなった。逆に、今まで知らなかったことを、より広く深く知りたいと思えるようになったほどだ。

    仮装する登壇者

     また、IT勉強会によって得られるのは実利だけではない。興味を共有できる仲間と時間を共有できるという楽しみもある。筆者のように呑み会が好きな人間にとってはなおさらだ。“人脈作り”という言葉は個人的にあまり好きではないが、確かに新しい人間関係を築く場としては有用だろう。

     以上は筆者の考えであり、勉強会にどんな意味を見出すかは参加する人によってさまざまだろう。しかし、そういった“さまざまな人”を繋げていることにこそ、IT勉強会コミュニティの魅力があるように思う。

    IT勉強会コミュニティ=異質なものの架け橋

    iOS、Android、Windows Phone、BlackBerryなど、さまざまなプラットフォームでの体験・知識を持ち寄る

     たとえば、“スマートフォン勉強会”(第4回)では『異なるプラットフォームを繋げること』『スマートフォンに興味を持つ開発者とユーザー』の関係が重視されていた。IT勉強会と言えば兎角開発者向けというイメージがあり、技術者以外は立ち入り禁止といった印象が強い。しかし、実際に参加してみるとプログラミング言語には疎いデザイナー志向の人もいれば、開発ではなく専ら使うことが専門のパワーユーザーもいることに気づく。

    スマートフォンに興味をもつ開発者とユーザーを繋げる

     そのようなさまざまな人の“交流の場”であることは、どのコミュニティにも共通している。“Windows Phone Arch”(第5回)のように、異質なものの架け橋であることを意識して、それを名前に冠しているコミュニティもあるほどだ。“ニコニコ動画”というプラットフォームでゆるく繋がっている“プログラミング生放送”(第1回)であっても例外ではないだろう。

     また、この繋がりが“IT”にとどまらない意味をもつこともある。たとえば、“Hokuriku.NET”(第3回)は、同じ地域に住むという共通項で繋がるだけでなく、その地域の活性化をも目論んでいるようだ。

    コミュニティを運営することの難しさ――循環の維持と拡大再生産

    インターネットでセッションを配信する勉強会も少なくない。まずはそれを視聴してみてもよいだろう

     このような繋がりを育んでいくには、“1回限り”の開催では到底不可能だ。継続的に活動を行い、できれば拡大再生産していく必要がある。

     しかし、この一年間で北海道から大阪、そして個人的に愛媛まで足を延ばし、日本全国のさまざまな勉強会に参加してみて思ったのは、コミュニティを継続することの難しさだった。一口に勉強会を開催するといっても、さまざまな雑務を手分けしてこなす必要がある。

    • 会場の選定・予約
    • 講師の選定・交渉
    • 必要であれば機材の準備
    • 集客
    • 出欠管理(イベント開催支援サービス“ATND”など、名札の用意)
    • 出納管理
    • 出席者の交流促進(各種イベント、“セキココ”などの座席表サービス)
    • 当日の司会・運営(会場を返却する際の掃除、ゴミの処理まで)
    • 参加者からのフィードバックのまとめ(アンケート、ブログ)
    横浜・中華街で行われた“わんくま同盟 横浜勉強会 #04”(第2回)
    “プログラミング生放送勉強会”(第1回)ではバーコードで出欠管理。自己紹介を円滑にするための名札や、記念品のハガキとしての役割も担う

     このように、1回の勉強会開催だけでも非常に手間がかかっている。理想は「みんながホストで、みんながゲスト」といったように、全員が積極的に参加して協力するのが望ましいが、初めて参加する場合だったり、大規模な勉強会になると、なかなかそれも難しい。

     しかし、直接的な協力は難しくても、間接的に協力することでコミュニティを盛り上げることはできるだろう。たとえば、アンケートへできるだけ積極的・率直に答えたり、体験したことをブログに綴って公開するということにも、一定の効果があるのではないだろうか。

     また、運営側の“モチベーション”を下げるようなことも避けたいものだ。たとえば、連絡なしでドタキャンされれば運営する側はガッカリするし、見込みよりも大幅に参加者が少なければ、徴収した参加費が運営費に足りず、金銭的な損害が発生する場合さえある。会場や備品を丁寧に扱わなかったり、参加者間で諍いを起こすといったことも望ましくない(幸い、今回参加した勉強会でそのようなことはほとんど見かけなかったが)。

     そして、1回の勉強会をつつがなく終わらせるだけでなく、次回開催への布石も重要だ。

     その点で興味深いのは“Hokuriku.NET”(第3回)。毎回の勉強会のテーマに緩い関連性を持たせるようにしているのだという。なるべく興味をもって継続参加してもらえるようにする工夫と言える。そうでなくても、次回のテーマを早めに告知したり、テーマを広く募ってより多くの人を巻き込んでいく施策も重要になるのかもしれない。

    “Hokuriku.NET”(第3回)では、地元のグルメランチを教えてもらった(ソースかつ丼)。遠方からの参加者に対するホスピタリティが素晴らしく、また参加したいと感じさせられた
    “Windows Phone Arch”(第5回)ではハッカソンに挑戦。勉強会の最後では、次回の内容に関する短いプレゼンテーションが行われ、継続的な参加を促していた

     また、これは勉強会だけでなく、個人個人に対しても言えることだろう。勉強会に参加してばかりでその内容を消化しきれないというのでは元も子もないが、毎回席についてほかの人の話を聞いているだけというのも芸がない。ちょっとしたテーマをまとめてライトニングトークで披露してみるとか、セッションを受け持ってみるといった挑戦をして、ぜひあなたも勉強会を盛り上げる一員になってもらいたい。

    とにかく参加してみよう!

     なにはともあれ、もし体験したことがないのならば、まずは参加することから始めたい。「IT 勉強会カレンダー」などで興味ある勉強会、アクセス可能な勉強会、自分に合った勉強会をみつけてほしい。

     また、直近では5月11日(土)に“Community Open Day 2013”と呼ばれる大きなイベントが開催される。

     これは札幌、仙台、東京、名古屋、福井、大阪、広島、九州、沖縄の8会場(四国会場は調整中)で一斉に行われるオフラインイベントで、各地のIT勉強会コミュニティが一堂に会する。日頃どのような活動をしているのかを知ったり、自分にあった勉強会コミュニティを探すにはうってつけの機会と言えるだろう。

    スタンプラリーで集めたスタンプと記念品の交換

     “IT 勉強会スタンプラリー”で集めた各地の勉強会のスタンプは、記念品と交換することが可能。一度でも参加したことがあるならば応募資格があるので、下記のWebページで詳細を確認してほしい。

     応募期限は4月中となっているので注意。早めに手続きを済ませたい。

     なお、今年の“IT 勉強会スタンプラリー”の開催は、残念ながら今のところ未定。当初は30程度のコミュニティで始まったこのイベントだが、最終的には70に迫る数のコミュニティの参加を得、一定の成果を残したといえるのではないだろうか。次回の開催に期待したい。

    (柳 英俊)