特集

共演者募集中!オンラインソフトらしさを地でいくWebブラウザー「Vivaldi」

Vivaldi共同創設者・冨田龍起氏への取材でわかったその熱いユーザー志向

Vivaldi Technologies社の共同創設者である冨田龍起氏

 いつからだろうか、オンラインソフトのひとつとしてWebブラウザーを選び・使う楽しみが薄れてしまったのは。“Webブラウザー戦争”と呼ばれるシェア争奪戦は「Google Chrome」の登場をピークに沈静化し、コモディティ化した主要なWebブラウザーは外観的にも機能的にも大きな違いを見出せなくなった。

 これはWebブラウザーがOSに近づいたためであり、昔とは役割が変わったことを意味する。パソコンの主役がWebコンテンツである今、Webブラウザーは脇役であるほうが望ましい。実際、高速リリースサイクルを採用するWebブラウザーはメジャーバージョンアップという概念を捨て、大きな変化を避けつつ、Web技術のトレンドへ合わせて基本性能やセキュリティの向上に注力中だ。

 一方、「Internet Explorer」「Opera」「Firefox」「Google Chrome」などのWebブラウザーがそれぞれの時代で凌ぎを削っていた時期は、ベンダー各社が新機能やパフォーマンスを積極的にアピールしていた。ユーザーにとってもバージョンアップへの期待は高く、窓の杜の特集記事も含めて、乗り換えを前提とした比較検証が活発だった。

 ユーザーがユーザーであることを誇り、ときには派閥争いを楽しめる、オンラインソフトらしい雰囲気がそこにあったのではないだろうか。そんな古きよき時代を筆者が思い出すきっかけとなったのは「Vivaldi」であり、そのマーケティングを担当する冨田龍起氏への直接取材だ。

Vivaldi Technologies社の主要メンバー(同社公式ブログより引用)

 周知の通り、「Vivaldi」はユーザー志向を強く謳っている。そもそも、ユーザー志向でないWebブラウザーは存在しないはずなので、「Vivaldi」が目指す場所とは何か、冨田氏の発言をもとに探ってみたい。

 「Vivaldi」を開発するVivaldi Technologies社のCEOは、言わずと知れたJon Stephenson von Tetzchner氏であり、共同創設者の冨田氏を含めて、開発チームの人材もその8割がOpera社からの移籍組だという。そして、同社が想定する「Vivaldi」のコアユーザー層はまさに、かつての「Opera」を愛用していた人たち。

 「Opera」は「Google Chrome」と同じWebレンダリングエンジン“Blink”へ移行するときに、それまで親しまれていた機能をリセットし、まったく新しいWebブラウザーとして生まれ変わった。その結果、旧シリーズの「Opera 12」を使い続ける“Webブラウザー難民”が取り残されたという話だ。

 おそらく、無関係な第三者が旧シリーズの「Opera」を復活させても意味はないのだろう。大西洋横断遠泳に挑戦してしまうほど熱くユニークなTetzchner氏とその仲間が制作・公開することにこそ意味がある。

 「Vivaldi」の開発拠点は現在、ノルウェーのオスロとアイスランドのレイキャビク。Tetzchner氏はアイスランドの血を引いており、金融危機後の同国を「Vivaldi」で盛り上げたいとも考えているらしい。彼の熱い姿勢は健在だ。

「Vivaldi」Technical Preview 4

 近年のWebブラウザーは拡張機能でカスタマイズすることを前提としている。単純に多機能性や高カスタマイズ性を望むなら、拡張機能を導入すればよく、かつての「Opera」、そして「Vivaldi」のように標準機能でそれを実現する必要はないだろう。

 しかし、それはWebブラウザーのベンダーがユーザーの細かい要望に応えていないとも言え、Webブラウザーそのものへの期待が低下してしまった要因のひとつかもしれない。Vivaldi社はユーザーと開発者をつなぐコミュニティに重点を置き、ユーザーと一緒に「Vivaldi」を開発していく方針を取っている。

 たとえば、世間全般では需要が低いメールクライアントの実装を決めたのは、コミュニティ内でそれを望む声が挙がっていたからだという。Webブラウザーに内蔵されたメールクライアントは旧シリーズの「Opera」を象徴する機能だったが、今後は「Vivaldi」のユーザー志向を象徴する機能へと変わっていくかもしれない。

 「Vivaldi」は最新プレビュー版にて、「Google Chrome」形式の拡張機能に対応した。それでも将来的には、独自の拡張機能システムを導入したいとのこと。コミュニティ内で開発された拡張機能が「Vivaldi」へ反映されるといった流れを生み出せたら、コミュニティとの協力体制がより強固なものとなるだろう。

 冨田氏によれば、「Vivaldi」は「Google Chrome」や「Opera」と同様に“Blink”を採用しているものの、高速リリースサイクルを導入する予定はないという。マイナーバージョンアップでWebレンダリングエンジンを更新しつつ、メジャーバージョンアップで新機能を追加するトラディショナルなスタイルだ。

 自分たちの要望が反映されるメジャーバージョンアップをお祭りごとのように待ちわびながら、その準備にも参加する、そんなオンラインソフトらしい姿が「Vivaldi」には見える。予定通りなら今年中に登場するであろう最初の正式版は、いわばオペラコンサートの鑑賞チケット。そこから一歩踏み出せば、共演者としての楽しみも待っている。

(中井 浩晶)