週末ゲーム
第610回
圧倒的なボリュームで紡がれるダークファンタジーRPG「ワールドピース&ピース」
確率を制御して連続行動をキメる“プログレッションバトル”など3つの戦闘システムを搭載
(2015/9/11 17:44)
『週末ゲーム』では、インターネット上でたくさん公開されているゲームの中から、編集部がピックアップした作品を毎週紹介していく。今回は、長編RPG「ワールドピース&ピース(World Piece & Peace)」を紹介しよう。
流浪する魔女の長い旅路を描くダークファンタジーRPG
「ワールドピース&ピース」は、魔女と人間が対立する世界を舞台にした長編RPG。確率制御による連続行動が肝となる独自性の高いコマンドバトルに加え、シミュレーション、アクションと合わせて3つの戦闘システムを備えているのが特徴。また、公称プレイ時間は約35~50時間とされており、二十名を越える登場人物達による重厚なドラマも見所となっている。
物語の主人公は、人間にも薬を売ることから魔女社会で孤立している魔女の薬師“トレス・ベルグラーノ”。彼女はパートナーである意志をもつ箒“ホウキ”や、ある事情から“カラス”を名乗る蝙蝠と共に、人間の親友である“リーズ・ランフォード”を訪ねるため人間の王都“エンフェルマ”へと向かう。しかしそれは、長く続く流浪の旅の始まりでもあった……。
またそれと時を同じくして魔女社会の独裁者である“ブルハリスタ”の軍勢は、エンフェルマ襲撃を企てる。一方で王都に住む真面目な青年“フランツ・エーベルハルト”やジャーナリストの“アルベール・オリヴィエ”といった人間側のキャラクターも描かれ、物語は多面的に進行していく。
事態の裏側では不気味な鴉達が暗躍したり、トレスからの扱いに不満を持つホウキへ“不条理のゴミ箱”なる謎の場所から仲間になるよう呼びかけがあったり、トレス達が“悪魔の家”へ訪れることになるなど、幻想的でダークな世界観も特徴。うっそうと茂った森や雨の中など、全体的に薄暗いマップも作品世界の雰囲気作りに一役買っている。
ゲーム内容は基本的に一本道で、旅路の中でダンジョンを踏破しつつ進行していく。仕掛けや謎解きなど趣向が凝らされたダンジョンも多く、戦闘だけでなく探索の面でも遊び応えのある作品だ。
確率を味方につけろ!冷静な判断とアツい博打が絡み合うプログレッションバトル
メインの戦闘システムはトレス、ホウキ、カラスの3人パーティと、最大3体の敵が交互に行動するコマンド選択型。最大の特徴は、さまざまな条件によって“プログレッション”と呼ばれる連続行動が発生し1ターンに最大5回まで追加で行動可能な点で、“プログレッションバトル”と名付けられている。
1回の行動は、3人から行動するキャラクターを選び、通常攻撃やキャラクターごとの魔法・特技、防御といったコマンドを選択して行う(道具の使用などキャラクターを選ばない行動もある)。このとき選択した行動に応じた確率でプログレッションの発動判定が行われ、発動すれば改めてキャラクターを選んで再行動が可能。さらにこの際、連続行動の回数に応じてステータスにプラス補正が付く。
このプログレッション発動率はコマンドや使用する魔法などにより異なるほか、プログレッションの回数を重ねるたびに落ちていく、同じキャラクターの連続行動や同じコマンドの連続使用で著しく落ちるなど、さまざまな要素により変化する。そして発動率を大きく跳ね上げることが期待できる“イレギュラー”という仕組みが存在し、これによる確率操作が本作のバトルを大きく左右する。
“イレギュラー”とは、1回の行動ごとにランダムに提示される“この行動を行うとプログレッション発動率がこれだけ上がる”という値。たとえば次に通常攻撃するとプログレッション発動率が25%という時に、“通常攻撃 +40%”というイレギュラーが提示されれば、発動率を65%に引き上げることができる。
イレギュラーは敵を倒すと経験値とは別に手に入る“I.C.Sポイント”を消費して提示されるものを増やしたり、その最大確率を10%→20%→40%……などと上げていくことが可能。ただし、常に最大確率が出るわけではなく、提示されるイレギュラーの内容もその確率もランダムとなっている。I.C.Sポイントを投入して、“より有利な確率が出る確率を上げる”というわけだ。
端的には、高いイレギュラーが提示されている行動を取り続けていくのがよい、ということになるが、同じキャラクターや同じコマンドを続けて使うとイレギュラーの恩恵も打ち消すほどにプログレッション発動率が下がるため、状況に応じて1ターンの行動計画を立てつつ、イレギュラーの内容次第で柔軟に戦術を組み直す……といった機転も必要となる。戦術とランダム性が噛み合い、うまく連続行動を畳みかけられた時の爽快感はなかなかのものだ。
さらに、トレスとホウキの使う魔法は、プログレッションの段階に応じて1つの魔法から最大3レベルまで派生し、別の魔法に変化する。この際、攻撃魔法の場合は基本的に威力が上がる形だが、魔法によっては敵を眠らせる魔法から沈黙状態にする魔法、麻痺状態にする魔法……といった派生もあるため、単純にプログレッションの段階が上なら強力というものばかりではない。
とくに各種ステータス強化や状態異常の付与、回復といったサポートを得意とするホウキは魔法の派生が独特なものが多く、どの段階でどの魔法が使えるか、把握しておくことで戦闘を有利に進められるだろう。また魔法や、カラスが使う特技の習得などにもI.C.Sポイントを使う仕組みで、ポイントを確率操作と戦力増強にどう割り振るかというのも重要な戦略だ。
イレギュラーの存在により、たとえ同じ敵であっても全く同じシチュエーションにはならず、一手ごとにめまぐるしく判断し続けていくのが本作の戦闘の醍醐味。プログレッションは敵の行動でも発生するためザコ戦でも気が抜けないほか、強力なボスとの戦いや、休憩なしの連続バトルなどもあり、システムを活用することを前提とした歯応えのあるバトルを存分に堪能できる。
なかなか頭を使う戦闘だが、コマンド選択時には発生中のイレギュラーに加え、敵の属性耐性や状態異常にかかる確率といった情報も自由に確認できるようになっており、判断材料はオープンな情報として十分に揃っている。
プログレッション数が最大の5に達すると、そのターンに敵から受けるダメージが半減など付加効果もあるほか、戦闘で入手できる経験値やお金、I.C.Sポイントが2倍になるというボーナスもあり、狙えるなら狙っていきたいところ。冷静に判断しつつも、ときには『確実なHP回復を捨ててでもプログレッション継続に賭ける』など博打を打たずにいられない場面もあり、ほどよく射幸心を煽られるのが面白いところだ。
別の立場の戦いを描くために用意された、本格的なシミュレーション・アクションバトル
本作の残りの戦闘システムである“シミュレーションバトル”と“アクションバトル”は、物語が進むとイベントとして発生。それぞれ、トレス達とは別の立場のキャラクターを操作して戦うことになる。トレス達3人チームのコンビネーションを表現したプログレッションバトルに加えて、人間達による集団戦、そしてある男の独りきりでの戦いを描くためにそれぞれのシステムが用意されているといった趣だ。
シミュレーションバトルでは、一般的な交互ターン制のシミュレーションRPGに近い形で数人のキャラクターを操作して戦う。カーソルキーで移動、決定キーで攻撃が可能と操作は簡略化されているが、行動力に相当する“AP”を消費して移動や攻撃などを行ったり、キャラクターごとに異なる特殊行動があったりなど、内容は本格的なものとなっている。
アクションバトルでは、さまざまなダンジョンへ突入して剣を振るい、敵を倒しながら先へと進んでいく。HPの他に攻撃で消費する体力(スタミナ)の要素があり、攻撃範囲が広い“斬り”、正面しか攻撃できないが威力の高い“突き”、体力を消費しないが数に限りがある飛び道具“ナイフ”の使い分けがポイント。仕掛けやトラップなども多く、こちらもかなりの本格派だ。
圧倒的なボリュームで紡がれる、幾人もの半生の軌跡
クリアまでのプレイ時間は冒頭で公称35~50時間と述べたが、筆者の実際のプレイ時間は90時間を越えている。そのうちイベントシーンの比率は、ざっくりとした感触だが半分程度といったところ。筆者の文章を読む速度が遅いというのもあるだろうが、そこを差し引いても普通にプレイして50時間を切ることはまずないのではないかと思う。1つのイベントシーンが数十分から1時間以上にわたって続くことも珍しくない。
その圧倒的なボリュームで紡がれるのは、トレスと彼女が関わっていくことになる人達の、半生そのものとでも言うべき膨大な道筋だ。数十章におよぶ物語の中では、主要人物だけでも十人を越える人々の今の姿から、そこに至るまでの経緯や抱えている業、やがて各人物のルーツへと遡るように掘り下げられていき、それぞれの人物の意外な繋がりなども明らかになる。とくに、ある事件を契機としてトレスと深い因縁をもつことになる“ある男”は、本作のもう一人の主人公とも言える存在になっていく。
また、章によっては“ある裁判の陪審員の手記”や“鼠を使った実験のレポート”なども唐突に挟まれ最初は戸惑うが、これらもやがて物語の中心へと収束していく。舞台劇のような言い回しや例え話などを豊富に盛り込み、ときには古典文学の引用なども交えたテキストも特徴的だが、決して衒学的ではなく文章自体は平易で読みやすい。
とはいえほぼシリアス一辺倒で、復讐心や嫉妬といった負の感情とも徹底的に向き合うことになるシナリオは人を選ぶのも確か。筆者としては『刺さる人にはとことん刺さる』としか言えないが(筆者には刺さった)、冒頭をプレイして『このノリが数十時間続いたあとに希望の光が見えてくる』という展開をアリと感じられるなら、その先に待っている物語は掛け替えのないものになるのではないかと思う。終盤にかけて人々が集い、大きな敵へ立ち向かっていく熱い展開も見所だ。
また戦闘の難易度という面でも、終盤はシステムを最大限に活用してもなお一筋縄ではいかないボス戦なども多く、筆者も二度ほど心が折れかけた。ただそれだけに、そこを越えた時の達成感、開放感はひとしおだ。なお難易度は下げることもでき、(筆者は試していないが説明を読む限り)その場合はプレイ時間もかなり短縮されるものと思われる。
筆者としては、なるべく標準難易度でチャレンジしつつ、難易度変更機能は詰んでしまった時のための保険とするのがお勧め。ボリューム的にも難易度的にも最近のホスピタリティに富んだ作品ではなかなか味わえない“遠慮のなさ”は本作の貴重な味であり、最後までやり遂げたことがRPGプレイヤーとしてなにがしかの自信に繋がるゲームだと感じさせられた(……と言うと言い過ぎだろうか)。章分けされているのでたとえば1日1、2章ずつでも、じっくり取り組んでほしい作品だ。
ソフトウェア情報
- 「ワールドピース&ピース」
- 【著作権者】
- T-FTA 氏
- 【対応OS】
- Windows 98/Me/2000/XP/Vista/7/8
- 【ソフト種別】
- フリーソフト
- 【バージョン】
- 1.1