使ってわかるCopilot+ PC

第115回

新しい「Surface」シリーズからCopilot+ PCのロゴが消えたのはなぜか?

「Surface」シリーズのWebサイト

新しい「Surface」はCopilot+ PCとは呼ばない?

 タイトルを見て、『やっぱりCopilot+ PCは失敗だったんだ』という声が聞こえてきそうだが、もちろん筆者はそうは考えていない。結論を先に言うと、Copilot+ PCは今後も存在し続ける。

 本題に移ろう。マイクロソフトは自社ブランドのノートPCの新製品となる「Surface Laptop Ultra」を10月16日に発売すると発表した。また今年6月には、「Surface Laptop」と「Surface Pro」の新製品も発売されている。

 「Surface」の公式サイトを見ると、これらの製品ラインナップが紹介されているのだが、旧製品では目立つ位置に描かれていたCopilot+ PCのロゴが、現在はどこにも見当たらない。紹介文にもCopilot+ PCの文字は出てこない。マイクロソフトが現行世代の製品からCopilot+ PCの呼称を意図的に外したことになる。

 これを見た方は、『やっぱりCopilot+ PCは失敗だったんだ』と思ってしまうかもしれないが、そうではない。過去の経緯と今後の展開を考察しながら説明していこうと思う。

Copilot+ PCであることに変わりはない

「Surface Pro」のWebサイト。Copilot+ PCのロゴは見当たらない

 まず、新しい「Surface」シリーズはCopilot+ PCであることを明言しておく。Webサイトからロゴは消えたものの、各Webサイトの最後にある解説には、いずれの製品もCopilot+ PCであることが書かれている。「NVIDIA RTX Spark」の強力なGPUを搭載する「Surface Laptop Ultra」ですら、NPUを内蔵するCopilot+ PCであると説明がある。

「Surface Laptop Ultra」もNPUを搭載するCopilot+ PCであると書かれている

 「Surface」シリーズがCopilot+ PCではなくなるわけではないし、マイクロソフトもCopilot+ PCを過去のものにしてしまうつもりはない。製品はCopilot+ PCであり続けるが、あえてCopilot+ PCであることを前面には押し出さないようにした……というのが答えだ。

 この動きは、6月に発売された「Surface」シリーズの製品からはっきりしている。本製品を紹介するマイクロソフトの公式ブログにおいて、Snapdragon X2を搭載し、AIの活用などについて書かれているが、Copilot+ PCという文字は不自然なほど出てこない。

 ではなぜマイクロソフトはCopilot+ PCという名前を出さなくなったのか。これについて公式の発表はないようだが、いくつか想像できることはある。

第2世代Copilot+ PCの登場

 最も考えられるのは、新製品のマーケティングの都合だ。旧製品ではCopilot+ PCと書いておくことが、最新のAI PCであることを示す指標になっていた。ユーザーに対して、せっかく買うなら最新技術を搭載したものにしようという購買意欲を持たせられる。

 しかしCopilot+ PCの登場から2年経ち、モデルチェンジした今回の新製品ではどうか。同じCopilot+ PCのロゴが描かれた製品が並んでいて、旧型になるSnapdragon Xを搭載したPCの方が安く売っていたら、『新しい「Surface」を選ぶ理由って何だ?』とユーザーを困惑させてしまう。

「Surface Laptop」のラインナップ。旧製品から外見に大きな変化がなく、見た目で違いを伝えづらい

 旧製品でCopilot+ PCを大々的にアピールし、大きく目立つようにロゴを描いたからこそ、新製品であることをアピールするにはロゴを外した方が効果的になる。イメージ戦略的にはそう考えるのが自然だ。

 それに、今後の製品は全てCopilot+ PCになるはずで、他社のPCもCopilot+ PCである割合はどんどん増していく。するとCopilot+ PCであることが製品のアドバンテージにはならなくなっていく。差別化できないものをマーケティング的に使い続けるのは難しい。

 第2世代Copilot+ PCという売り方もあったかもしれないが、これも第1世代との違いがわからず混乱を招いてしまう。モノはCopilot+ PCであっても、大きくロゴを掲げるのはそろそろ止めた方がいい、という判断をしたのだろう。

「Surface Laptop Ultra」もCopilot+ PCだが……

 ただ、せっかく浸透してきたCopilot+ PCのブランドを、あっさり見えなくしてしまうのももったいない話だ。以前ほど目立たないようにはしつつ、端の方に描いておくくらいでも良かったのではないか?

 これは「Surface Laptop Ultra」の存在が少なからず影響しているのではないか、と筆者は思っている。NVIDIA製のGPUに大容量メモリを搭載できる本製品は、さまざまなAI用途が考えられる。

大規模なAIモデルをローカルで動かせるのが「Surface Laptop Ultra」の特徴

 NPUを使ったAI処理は、高性能よりも低消費電力が売りだ。GPUを使ったAI処理は、汎用性が高く高性能ではあるが、そのぶん消費電力や発熱も大きくなる。NPUは少ない電力で、ユーザーが気づかないほど静かに、裏でこっそり動かすのに適している。バッテリー消費も抑えられるので、ノートPCとの相性もいい。

 NPUのこういった特性から、自動でスナップショットを収集・分析する「リコール」や、カメラ映像をリアルタイムに加工する「Windows スタジオ エフェクト」といったアプリが有効に働く。これをGPUにやらせたら、バッテリー消費や発熱、ファンの騒音が大きくなり、快適性を損ねるだろう。

 しかし「Surface Laptop Ultra」は、そんなことは承知の上で扱う、モバイルAIワークステーション的な存在だ。NPUによるCopilot+ PCの機能は依然として有効活用できるものの、Copilot+ PCを使いたくて本製品を選ぶとは考えにくく、ユーザーの多くはもっと高負荷で高度なAI処理を求めているはずだ。

 であれば、「Surface Laptop Ultra」もCopilot+ PCですよと喧伝する意味はない。むしろNPUのAI処理性能が比較的低いことを、無理解に揶揄されかねない。Copilot+ PCではあっても、アピールする必要はないと判断するのは正しいと思う。

Windows PCにおけるAIの基盤になっていく

 あとはCopilot+ PCのイメージがそれほど良くならなかった、ということもあるだろう。発表時に最も強くアピールされた「リコール」は、プライバシー保護の観点から導入が遅れ、現在もまだプレビュー版のままだ。初期展開でしくじった印象が未だに払しょくしきれていない。

「リコール」は現在もプレビュー版扱い。機能的に制約なく使用できる状態にはなっている

 またAI全般においても、チャットAIは広く認知されているが、それ以外のものは必要性を感じないという方が多いだろう。クラウド型のチャットAIの利用にNPUは必要なく、AI PCとしてのCopilot+ PCの魅力が広く浸透しづらいと感じられる。

 もっともこれは時間の問題で、人類が今後もAIを必要とするのは間違いなく、クラウドAIだけでなくローカルAI、エッジAIも自ずと活用が広がっていく。一般ユーザーが知らず知らずのうちに、ローカルAIの恩恵を受けている状態になることが理想で、遅かれ早かれそうなると思っている。

 もしかしたら『Copilot+ PCって何なのかよくわからない』という声もあるかもしれない。そういう方には、その内容を115回にわたって余すことなく書き綴った本連載をお勧めしていただきたい(笑)。

 まとめると、Copilot+ PCはなくならず、Windows PCにおいて標準装備のものになり、AI PCの基盤になっていくということだ。

Copilot+ PCは今後も存在し続けるが、ユーザーからは見えにくくなっていくだろう

 今回の話は以上だが、本連載について1つお知らせがある。これまで2年少々、Copilot+ PCの話題を取り上げてきたが、今後はもう少し幅を広げて、Windows PCにおけるAIの話題をお伝えする。ソフトウェアはローカル・クラウド問わず、ハードウェアもNPUやGPUを問わず、その時々の面白い話題をピックアップしていく。引き続きお楽しみいただければ幸いだ。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身。金沢工業大学 工学部情報工学科卒。

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜で連載『石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』』(AKIBA PC Hotline!に移動)、『使ってわかるCopilot+ PC』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/