#モリトーク

第115話

無保証が基本であること

「瀬戸フォント」

 先週、無料の手書き風日本語フォント「瀬戸フォント」がオープンソースライセンスを採用すると同時に、その配布場所が作者サイトから“SourceForge”へと移った。派生版の制作や再配布が可能になるなど、歓迎すべきニュースと受け取った人も多いだろう。しかし本当は、手放しで喜べることではなかった。

 詳しくは「瀬戸フォント」の作者サイトをご覧いただくとして、簡単に説明すれば、今回のオープンソース化はフリーフォント制作からの撤退と、これまで公開していた全作品の公開中止を意味している。つまり、「瀬戸フォント」は原作者の手から離れたと考えてよい。その理由は、ユーザーからの悪質なメール、とくにスマートフォンユーザーから無理な要求が続いたことだという。

「たぬき油性マジック」

 本コラムの第16話と第17話でも取り上げているように、デザインでもあるフォントの取り扱いはオンラインソフトのそれ以上に気をつけなければならない。たとえ無料で公開されていても、なにもかもがフリーというわけではないのだ。そのため、フォントの使用条件は細かく書かれていることが多く、ユーザーは作者へ質問する前にそれを熟読する必要がある。

 また、フォントを含む無料のオンラインソフトは基本的に無保証であることも忘れてはいけない。同じく手書き風フォントの定番として知られている「たぬき油性マジック」の作者は今回の件を受けて、『フォントを作る労力のみを無償で提供したつもりだったのに、その後のサポートまで無償労働を現在進行形で強いられてる』という趣旨の発言をTwitter上でしている。

 「瀬戸フォント」の一件で感謝の意味も込めて覚えておきたいのは、同作品が手書き風日本語フォントの最高峰と言える存在であること、作者の善意によってオープンソース化されたことの二点だ。繰り返しになるが、「瀬戸フォント」は実質的に作者の手から離れているので、再び作者を巻き込むことだけは避けてほしい。

(中井 浩晶)