杜のVR部

第49回

VRで“一緒に楽しむ”アプリ「Oculus Social Alpha」がGear VR向けに登場

Facebookも注目するソーシャルVRへの動きが始まった

 10月29日、サムスンのVRヘッドマウントディスプレイGaer VR向けにOculus公式から1つのアプリが公開された。そのアプリの名前は「Oculus Social Alpha」。アプリの内容は非常にシンプルで、VR内の小さな部屋で世界中から接続した他のプレイヤーと一緒に、音声通話をしながら動画を視聴するというもの。アルファ版ということでまだ非常に試験的な試みだが、“VRの中で誰かと一緒にいる体験”は、これもまたVRによってもたらされる新しい体験だと感じられる。

 このソーシャルVRとも言うべき取り組みは、すでにさまざまなところで始まっている。Oculus自身がソーシャルVRを積極的に進めており、昨年Oculusを約2,000億円相当で買収したFacebookのCEOマーク・ザッカーバーグ氏も注目している。

 今回は、OculusのソーシャルVRの幕開けとも言える「Oculus Social Alpha」を紹介しながら、ソーシャルVRについて考えてみたい。

「Oculus Social Alpha」のアイコン

世界中のプレイヤーと“同じ部屋にいる感覚”を実現する「Oculus Social Alpha」

 「Oculus Social Alpha」を起動すると、まずはアバターを選択する画面が現れる。目線でアバターを選ぶと、次は接続する部屋の選択だ。現在対応している動画配信サービスは、ゲーム実況サービスのTwitchと動画共有サイトのVimeoの2つ。それぞれ3部屋ずつ計6部屋が用意されているので、適当に部屋を選んで入ろう。

アバターを選択する画面。2画面もあり、さまざまな種類のアバターが用意されている
動画サービスによって部屋が分けられている。2種類3部屋ずつで6部屋だ。各部屋には5人までアクセスすることができる

 部屋に入ると、目の前には大スクリーンがあり、そのスクリーン正面に一人用のゆったり座れる椅子が5つほどやや弧を描くように並んでいる。アバターはその上にポンと現れる。なお、他の人の入退室時にはメッセージが表示されるようになっている。

部屋の中の様子。時期的にハロウィンのアイコンが多いため、こうやって遠景で見ると不気味ではある

 アバターはプレイヤーの頭の動きに合わせて動くため、隣の人に話しかける場合は横を向けばよい。そのまま話せば通話状態になっているため、他の人と話すことができる。Gear VRはサムスンのスマートフォンGalaxy S6/S6 edgeを使って動かしているため、マイクはそのまま電話用のマイクが使われる。話をしている他の人のアバターには話し中のマークが口の前に現れ、誰が話しているかがわかりやすくなっている。

 なお音はスマートフォンのスピーカーから流れるが、イヤホンかヘッドホンを使用することをお勧めする。360度サウンドの効果により、他の人の声が“その人がいる方向から聴こえる”からだ。

 筆者が体験した時は、同じ部屋にワシントン州とフロリダ州に在住のアメリカ人が2人いたのだが、彼らのアバター(かわいいクマのアバターだった)と実際に向き合って話をすると、まるで実際に話しているような感覚になる。クマが顔をこちらに向けて話している時に、質問をしながら首を横に傾けた時はびっくりするほどの人間らしさを感じてしまった。実際には数千キロ離れた海の向こう側にいるにも関わらず、その距離がなくなったことを感じさせられる体験だった。

 米国のVR専門メディアRoad to VRが体験している様子を動画撮影することに成功しているので、そちらの動画も合わせて紹介しておきたい。

そして手を動かして“一緒に遊ぶ”「Toybox」へ

 「Oculus Social Alpha」はOculusによるソーシャルVRの初めての取り組みではない。一般公開はされていない技術デモだが、「Toybox」というデモが今年6月から一部のイベント等で展示されている。

 この「Toybox」は、VR内で自分の手を動かすことのできるデバイスOculus Touch用の技術デモだ。名前のごとくVR内には“おもちゃ箱”が広がっている。積み木やロボットの人形、ラジコン、光線銃など色々なものが散らばっているので、手で掴んだり、操作できるというものだ。このデモでは、ネットワークを介して別のプレイヤーとともに2人で遊ぶことができる。光線銃で撃ちあったり、卓球のラケットを取ってピンポンをしたりすることが可能だ。この「Toybox」も通話しながら、3Dサウンドで相手のいる方向から声が聴こえてくる。頭の動きだけでなく、手の動きも見えることで、相手の“人間らしさ”は一気に増し、一緒にいる感覚は半端ない。

Oculus公式が公開した「Toybox」の映像

 「Oculus Social Alpha」で“一緒にいる”体験を可能にした後は、「Toybox」のような“一緒に遊ぶ”といったインタラクティブな関係性をVR内で実現する方向にOculusが向かうのは確実だ。実際に、OculusのCTOジョン・カーマック氏はTwitterで「Oculus Social Alpha」の次の取り組みとして「ちょっとしたゲーム」を作っているということを明らかにしている。

ソーシャルVRの追求の先にあるもの

 FacebookのCEOマーク・ザッカーバーグ氏は、氏が体験したOculusのデモの中で最もクレイジーだったのは、「Toybox」のデモだということを自身の投稿で述べている。人と人がつながり共有する場を提供しているFacebookだからこそ、VRという新たなプラットフォームでの人と人の関係性には強く関心があるのだろう。

 VR空間を自由に動き回り、一緒にゲームをしたり、映像を見るアプリケーションとしては、サードパーティによる「Altspace VR」がOculus Rift DK2向けにリリースされている。このアプリでは、VRデバイスを持たないユーザーも普通のモニターからアクセスすることができる。他にもHTC ViveやGear VRなどさまざまなVRデバイスからの接続を実現するVR空間を目指しており、すでに何度かベンチャー・キャピタルからの資金調達も果たしている期待のサービスだ。

 インターネットの登場により、メール、掲示板やチャットが生まれ、現在ではSNSが広まっている。スマホの普及とともにLINE、WhatsAppなどのメッセンジャーアプリが出現したことで物理的には一人でも常に誰かとつながっている感覚は増し続けており、それは人間の社会性に則ったものなのだろう、とも考えられる。現実にはできない体験を可能にするVRの世界でも、一人ではなく、“誰かと一緒に”体験することが可能になることは間違いない。

ソフトウェア情報

「Oculus Social Alpha」
【メーカー】
Oculus
【開発者】
Oculus
【対応ハードウェア】
Gear VR Innovator Edition for S6
【ソフト種別】
フリーソフト
【バージョン】
0.7.0.0

(もぐらゲームス:すんくぼ)