余裕がないときの心の整え方 特別出張版

転職するかしないか悩む【禅マインドフルネス】

仕事の成果が出る「あるある」

この集中連載では、医師であり禅僧の川野泰周氏がストレス社会の「あるある」問題の向き合い方について教えてくれる著書『「あるある」で学ぶ 余裕がないときの心の整え方(できるビジネス)』から抜粋した“心が折れるその前に、あなたの心を整える方法”を、心がざわつく年末に、短期集中連載というかたちで忙しいビジネスパーソンの皆さま、家庭を支える主婦の皆さま、将来を模索している学生の皆さまにお届けします。

転職するかしないか悩む

どちらの道を選択しよう?

 キャリアアップのための転職が当たり前になった現代社会では、転職の悩みは、誰しも一度や二度は抱いたことがあるでしょう。

 転職という人生の岐路を目の前にすると、将来への不安、自信のなさ、現職を捨てることへの未練など、さまざまなネガティブ想念が心の中に渦巻きます。そのような想念を「無毒化」する秘策が、ほかならぬマインドフルネスにあるのです。

三つの神経ネットワーク

 最近の研究では人間の脳内に、かつては解明されていなかった高度で複雑な神経ネットワーク構造があることが分かってきました。そのうちとりわけ大切な三つのネットワークを紹介しましょう。

図1:三つの神経ネットワークの役割
  • DMN」(デフォルト・モード・ネットワーク)
  • CEN」(セントラル・エグゼクティヴ・ネットワーク)
  • SN」(セイリエンス・ネットワーク)

 DMNは、解決方法の定かでない問題についてあれこれと思案しているときに活性化しているネットワークです。心ここにあらずのマインドワンダリングの状態とも言えるしょう。この働きが過剰な状態は、うつ病や不安障害、注意欠陥障害(ADD)などで見られます。

 CENは、目標に向かって計画し、意思決定し、注意をその取り組みに集中させるという能力をつかさどっています。

 SNは、体内の感覚や、外部からの刺激による感覚の中から、適切な行動をとるために最も関連性の高い感覚を選択する機能を担っています。つまりSNは気づきを感知するネットワークであり、野球チームにたとえるなら、監督とでも言うべき存在です。そしてSNは、DMNとCENを切り替える能力を持っています。

 野球の試合でチャンスが巡ってきたとしましょう。そのときの打順がたまたまプレッシャーに弱い選手(DMN)だったら、監督(SN)は、代打として別の選手(CEN)を送り込むことができる、といった関係性が成り立っているのです。

転職は正解がない悩み

「今の会社より、悪い職場だったらどうしよう」

「お金はいいけど、今よりハードワークになる」

など、こういう問題には正解がありません。正解がない問題を考えているときは、DMNが働きます。しかし、ぐるぐる考え込んでしまったとき自分自身で判断を下すことが容易ではありません。まさに、心ここにあらずのマインドワンダリング状態。

 そこで監督のSNを使い、CENに切り替えたいのです。

迷いを断ち切るには

 近年の研究では、瞑想によってSNとCENが活性化されることが明らかになりつつあります。そこで転職するか否か、迷いの中で答えを絞り出すのではなく、まずは静かな場所で五分でも十分でも呼吸瞑想を行うことをお勧めします。

 瞑想によって落ち着いた心の状態になったら、あらためて

「今の仕事を続けている自分」

「新しい仕事をしている自分」

の二つの自分を、順にイメージするのです。より明るい気持ち、ポジティブな気持ちになれたのはどちらでしょうか?

 SNが十分に活性化された瞑想後の状態で自分の心に問いかけることにより、ネガティブな想念に支配されることなく、冷静な判断を下せるようになるのです。

 転職が正解だったかどうかは、実際に転職してずっと時間が経たなければ分かりません。瞑想はあなたの悩みを断ち切る手助けをしてくれるでしょう。

【POINT!】
転職するかしないかに正解はない
脳内のネットワーク機能を知る
迷いを断ち切って自分自身で判断を下す
川野泰周(かわの たいしゅう)

精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職

精神保健指定医・日本精神神経学会認定専門医・医師会認定産業医。

1980年横浜生まれ。2004年慶応義塾大学医学部医学科卒業。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行。2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内にあるクリニック等で精神科診療にあたっている。

うつ病、神経症、PTSD、睡眠障害などに対し薬物療法と並び禅やマインドフルネスの実践を含む心理療法を積極的に取り入れた診療に当たっている。またビジネスパーソン、看護職、介護職、学校教員、子育て世代の主婦などを対象に幅広く講演・講義を行っている。