余裕がないときの心の整え方 特別出張版

集中力がなく仕事がはかどらない!【禅マインドフルネス】

仕事の成果が出る「あるある」

この集中連載では、医師であり禅僧の川野泰周氏がストレス社会の「あるある」問題の向き合い方について教えてくれる著書『「あるある」で学ぶ 余裕がないときの心の整え方(できるビジネス)』から抜粋した“心が折れるその前に、あなたの心を整える方法”を、心がざわつく年末に、短期集中連載というかたちで忙しいビジネスパーソンの皆さま、家庭を支える主婦の皆さま、将来を模索している学生の皆さまにお届けします。

集中力がなく仕事がはかどらない!

目の前の仕事に集中していますか?

 たとえばデスクワーク中に、晩御飯のこと、今朝見たニュースのこと、恋人のことなどを考えていませんか? 私たちはそのこと自体に集中しているかといえば、必ずしもそうではありません。むしろ気が散ってしまい、ほかの雑念が浮かぶことの方が多いのではないでしょうか。

 会社のミーティングのときに注意が逸れているため、内容を十分に理解できないこともよくあります。

 もともと人間は長時間一つのことに集中することが苦手です。私も三年半にわたって禅の修行を実践しましたが、三十分というわずかな坐禅の時間に一度も注意が逸れなかったことは、ほんの数回しかありませんでした。マイクロソフト社の発表によれば、人間が本当に集中を持続させている時間はわずか八秒にすぎないというデータもあるほどなのです。

 集中力を高めるためには意識を呼吸に集中させ、さまよっている雑念を打ち消していくことが大切になります。

特効薬は「ラベリング」

 ここでは「ラベリング」というテクニックを紹介します。

 古来インドより伝えられる「ヴィパッサナー瞑想」(※1)という瞑想法の中で、特にマハーシ派と呼ばれる一派のメソッドで指導されてきましたが、現在では広くマインドフルネス瞑想の一つとして知られています。

 私はマインドフルネス瞑想を患者さんやお寺にいらした方々へお伝えする中で、このラベリングがとても有効であることを実感しています。

※1

インドの最も古典的な瞑想法の一つで、約二五〇〇年前、仏教の始祖ブッダにより再発見されました。現代においては、ミャンマー上座部仏教の僧侶レディ・サヤドーから受け継がれた瞑想が、マハーシ・サヤドーやサティア・ナラヤン・ゴエンカにより世界中に流布したのです。マハーシ派では「ラベリング」を重視しますが、ゴエンカ派では言葉にとらわれることに警鐘を鳴らしており、実践法に若干の違いがあります。

雑念を単語に置き換える

 いざ、目の前の仕事に集中しようと思ってもさまざまな雑念が浮かんでくることは避けようがありません。「今日のこの後の予定は何だったっけな?」「こんなことをしていて本当に意味があるのかな」と自然に別の考えが浮かんできてしまいます。

 「ラベリング」とはこのような雑念の内容を簡単な単語に置き換えて心の中で反芻(はんすう)することを言います。そのとき心に浮かんだ雑念を単純な言葉にして心の中で唱えるのです。

 たとえば「背中がかゆい」ということに注意が逸れた場合には「かゆみ」という単語を、「ハエが横切った」ことに気が散った場合には「ハエ」という単語を何度も唱えるといった具合です。また「雑念」という単語そのものをラベリングするのも効果的です。

 このようにラベリングした単語を何回か心で繰り返し唱えてから、

よし、仕事に戻ろう

と唱え、再び今集中したい仕事に意識を向けるのです。雑念が浮かぶたびにラベリングすることで、何度となく意識がずれても、結果として多くの時間を集中できます。サッカーでPKのときにゴールキーパーが「集中、集中」と唱えることがよくありますが、これもラベリングの一種と言えます。

雑念を「ラベリング」してみよう。心に浮かんだ雑念を単語に置き換えて心の中で何度も唱えます。

「ラベリング」の本当の目的とは?

 このラベリングの本当の目的は、雑念によって注意がさまよっている状態を瞬間的に「止める」ことにあるのです。

 たとえば車を運転しているときに、走りながらそのまま路肩に駐車するのは難しいですよね。いったん車を止めてからハンドルを操作して駐車スペースに入れると、きっちりと止められます。これと同様に、さまよい動いている注意をそのままの状態で呼吸に戻すことは至難の業ですが、一度ピタッと思考を止めてから呼吸に注意を向け直すのは簡単なのです。ですから、ラベリングを行う際にはその単語に集中しすぎるのではなく、あくまで注意をリセットするための助けとして用いるようにするのが大切です。

 逆に、「ラベリング」はこだわりすぎてしまうとそれに縛られてしまう傾向があります。あくまでも集中が途切れたときの小技の一つです。

【POINT!】
浮かんだ雑念を単語に置き換えて唱える
さまよっている心をいったん止める
「よし、仕事に戻ろう」と唱える
川野泰周(かわの たいしゅう)

精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職

精神保健指定医・日本精神神経学会認定専門医・医師会認定産業医。

1980年横浜生まれ。2004年慶応義塾大学医学部医学科卒業。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行。2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内にあるクリニック等で精神科診療にあたっている。

うつ病、神経症、PTSD、睡眠障害などに対し薬物療法と並び禅やマインドフルネスの実践を含む心理療法を積極的に取り入れた診療に当たっている。またビジネスパーソン、看護職、介護職、学校教員、子育て世代の主婦などを対象に幅広く講演・講義を行っている。