体験レポート

見て触れて感じた「Net LineDancer」

新米シス管を助ける強力なネットワーク管理ツール

 以前本誌でネットワーク管理ツール「Net StreetDancer」の無償版を紹介したが、思いも寄らないほどの反響を呼んだ。そこでオンラインソフトを中心にピックアップする本誌としては異例ながら、今回はその延長として同ソフトの上位版にあたる有償製品「Net LineDancer」をご紹介する。

 ただし、「Net LineDancer」はCiscoやAllied Telesisといったエンタープライズ向けネットワークデバイスがターゲットとなるため、一介のライターには機材を揃えるのも一苦労である。そこで本ソフトの開発・販売元である(株)ロジックベインにお邪魔し、「Net LineDancer」のデモンストレーションを行って頂いた。本稿では筆者が体験した「Net LineDancer」の機能を紹介していこう。

ロジックベインが用意した各種ネットワークデバイス。「Net LineDancer」はこれらのコンフィグレーションを管理し、日々のネットワーク管理を容易にするという

 実際のレポートに入る前に、「Net LineDancer」の概要を説明しよう。本ソフトはエンタープライズ向けルーターから収集したデバイスコンフィグを、インストールしたPC上のデータベースに格納。そして、本来ならシリアルや端末(ターミナルエミュレーター)で接続してコマンドライン操作しなければならない各種コンフィグレーションのバックアップや比較といったメンテナンス作業を、Webブラウザー経由で実行するというものだ。前回紹介した「Net StreetDancer」と基本的な機能は同じながらも、管理可能なネットワークデバイスは最小構成で50ノードに対応するほか、各種ユーザーサポートが用意されている。

Webブラウザー内で操作を完結

 デモンストレーションは未設定の状態から始まり、管理するネットワークデバイスの登録やパスワード設定などを経て、現在のネットワークデバイスが保持するコンフィグレーションと新たに投入したコンフィグレーションの比較が行われた。たとえば一方から削除された文字は赤色でハイライト表示され、変更は黄色、追加は緑色と異なる配色が用いられる。通常であればDiffコマンドやテキスト比較ツールなどを用いるが、「Net LineDancer」内で比較操作を完結できるため、作業履歴が一目瞭然となる。新米システム管理者にとっては大きなメリットだ。

ネットワークデバイスの準備が整った状態。個人的な意見だが簡素な画面の中にデバイスの写真が現れると楽しくなってくる
異なるコンフィグレーションを比較した状態。削除や変更、追加要素は異なる色でハイライト表示される
画面下部、“IOS Show コマンド”と書かれたウィンドウには、Cisco製ルーターからのメッセージがそのまま表示されているため、端末の直接操作から移行したユーザーにもわかりやすい。現場の声を反映させた機能だという

 “Webブラウザー内で大半の処理を行える”という印象を強くもったのが、ネットワークデバイスが発するコマンドを表示するウィンドウを備えている点。この手のネットワークデバイス管理ツールはデバイスが発する情報を隠すことで、新米システム管理者でも扱えるようにするのが一般的だ。だが、「Net LineDancer」はシステム管理者のルーチンワーク軽減や、新米システム管理者でもネットワーク管理を理解できるようにするため、必要な部分は“見せる”手法を選択している。

変数の活用で大規模なデバイス管理を実現

変数を用いることで、各ネットワークデバイスごとに異なる値を設定することが可能になる

 運用の現場で問題となるのが、複数のネットワークデバイスに対して異なる値を設定しなければならないケースだ。例えば複数の支店にルーターを設置・運用する際、デバイス名やIPアドレスなど、異なる値を設定しなければならない。これらを個別のテンプレートとして作成し、管理運用することもできるが、往々にしてトラブルの原因となってしまう。

 そこで「Net LineDancer」は、複数のネットワークデバイスに投入するテンプレートと、ネットワークデバイスごとに適用する変数を準備することで、多台数へのコマンド投入を効率的に行える機能を用意した。同社の説明によれば、膨大な大企業ネットワークデバイスのコンフィグレーション構成管理を行っている(株)NTTデータSMSへの導入事例では、同一IPアドレスを含む多数のコンフィグレーションの管理として「Net LineDancer」を用いているという。

端末操作の記録でセキュリティも万全

 高いセキュリティを求められるのは、ネットワーク基盤を管理する企業ならどこも同じだが、「Net LineDancer」が備える各ネットワークデバイスへの端末接続がセキュリティの向上に役立つという。「Net StreetDancer」の記事でも紹介した端末による接続機能はパスワードの入力などが不要なため、迅速な操作を実現できる。さらに「Net LineDancer」が推奨する「Tera Term」を使用する場合、操作履歴の確認も可能だ。

 本機能に関する導入事例で面白いのがソフトバンクテレコム(株)の、自社の法人向け回線サービスに関するネットワーク保守管理。ロジックベインや協力保守会社による設定変更履歴やアクセスログを一元管理することで、トラブル発生時の原因を明確にしたという。さらに対象ネットワークに接続したデバイスのIDやパスワードを知らない状態でも、「Net LineDancer」はプロキシーサーバー経由で保守対象に接続するため、クリティカルな情報に触れることなくメンテナンスを行えたという。

ネットワークデバイスへの端末接続も、最初にパスワード設定を行っているため簡単にログインできる
端末接続による操作結果は「Net LineDancer」側で確認可能。さらにログイン・ログアウトなどの履歴情報も残される

“Zero-Touch”で遠方のルーターの初期設定も可能

 個人的に興味をもったのが“Zero-Touch”と呼ばれる機能。ネットワークデバイスの初期導入時は、SEが現地に出張するのが通常である。だが同機能を使えば、ネットワークデバイスの配送とネットワークケーブルの接続をするだけで、リモートからコンフィグファイルの送信が可能になるため、遠方での初期コンフィグレーション導入を可能にするという。実際にデモンストレーションも拝見したが、“リモートコントロールできれば確かに便利だ”というのが正直な感想だ。

 こちらも導入事例として、(株)セガのアミューズメント施設運営の話を伺った。同社のアミューズメント施設を結ぶネットワーク“ALL.Net”の海外設置にあたり、当初は担当者が日本から現地に出張していたが、この場面でも「Net LineDancer」の“Zero-Touch”機能が役立ったという。また企業名は明かされなかったが、同機能に対しては大手コンビニエンスチェーン会社や携帯電話販売店をチェーン展開する企業なども興味をもったそうだ。

事前に送信するコンフィグレーションを作成する。なお、対応デバイスは現時点でCiscoのみとのこと
デモンストレーションでは、実際にCiscoのルーターに対してコンフィグレーションの設定が行われていた

新米システム管理者にネットワーク管理を任せても安心

 このように、大量のネットワークデバイスを管理する場面で発生しがちな不便を解消する「Net LineDancer」の存在意義は大きい。もちろん同様の製品は多数リリースされているが、同ソフトは自社開発のため、サポートに問い合わせても一度開発元に質問を送るといった遅延が発生することはないという。さらにYAMAHAやNEC、富士通といった国産のネットワークデバイスをサポートしているのは大きな強みだ。

 確かに「Net LineDancer」はエンタープライズ向け製品のため、安価とは言い難い。たとえば50デバイスをサポートするライセンスの価格は651,000円(税抜き)だが、本体価格の10%を月額料金として契約できる“クラウドバージョン”が用意されており、試しに導入してみたいという企業には有用な選択肢の1つとなる。また、30日期間限定の評価版もダウンロードできるため、稟議を上げる前に試してみたいユーザーにお勧めだ。

 ネットワークデバイスの保守管理は自身で独自のマクロを組み、半自動化を行っている方も少なくない。そのようなシステム管理者が社内にいる場合「Net LineDancer」は不要だろう。しかし、そのシステム管理者が退社したり別部署に異動する可能性を踏まえると、わかりやすいUIで操作できる本製品の優位性に気付くはずだ。興味をもたれた方は、公式サイトで概要や評価版をチェックすることをお勧めする。

(Cactus:阿久津 良和)