イベントレポート
インディーゲームの祭典“BitSummit 2014”会場レポート 第3回
トップクリエイター達が語る「俺たちのインディーゲームは世界にむけて売れるのか?」
(2014/3/12 16:33)
3月7日から9日までの3日間、京都市勧業館みやこめっせにて、インディーゲームの祭典“BitSummit 2014”が開催された。7日は関係者やメディアなどのビジネスデイ、8日・9日は一般開放日で、入場料は500円。
会場レポート第3回は、イベント2日目に行われた「俺たちのインディーゲームは世界にむけて売れるのか?」をテーマにしたトークイベントを紹介する。登壇者は、「東方Project」を手がける上海アリス幻樂団のZUN氏、「LA-MULANA2」を開発するNIGOROの楢村匠氏、PS向けの異色RPG「moon」などを手がけ、今回新作「Million Onion Hotel」を出展したOnion Gamesの木村祥朗氏。
3氏の立ち位置は、ZUN氏が同人ゲーム出身、楢村氏はインディーゲーム出身、木村氏は商業ゲーム出身と、同じゲームイベントに集まった面々でいながらバラバラ。それぞれの代表という立場から、テーマに対する持論を展開した。
ものすごく面白いゲームを作れば世界で売れる
トークイベントは、ZUN氏が「喉が渇きましたね」と言うと、すかさずスタッフが缶ビールを差し入れ、3人で乾杯するところからスタート。「俺たちのインディーゲームは世界にむけて売れるのか?」というテーマも3人で決めたものだそうで、予想通りの緩いトークが展開された。
最初の話題は、「LA-MULANA2」のKickstarterによるクラウドファンディング。楢村氏は「ゲームを作る前に資金が要る。前作は資金がないまま始めたので、外注の仕事を請けていた。その最中は制作の手が止まってしまう」とクラウドファンディング採用の理由を説明した。それに対してZUN氏は「(そういう苦労は)ない。1人で作るから安い」と一言。
そのZUN氏は「世界に向けて売りたい?」と問われると、「10年くらい前はそうでもなかった。世界に理解してもらえないと思うし、説明もめんどくさい。でも今は理解してくれている」と述べた。そして続けて、「世界に参加したい。ダウンロード販売で」と、「東方Project」のダウンロード販売に着手したことを初めて明かした。
翻って「世界の人は日本のゲームをやりたいのか?」という問いに、ZUN氏は「外国の人がコミケツアーと言って買いに来ている。結果として世界で売れたら嬉しいけれど、積極的に出そうという同人クリエイターは少ないのでは」と述べた。同人とインディーズの意識の違いが垣間見えるところだが、楢村氏は会場を見渡し、「今日は同人の人たちも結構いる」とコメント。
では世界に広めるためには何が必要か。楢村氏は「ものすごく面白いものを作ればいい」と述べた。当たり前のようにも聞こえるが、楢村氏自身、「昔はその気はなかったが、翻訳したいという声がかからなければ海外を意識しなかった」と語っている。またZUN氏も「コンシューマーゲームは開発の途中で海外に目を向けるけれど、ゲームは日本の中で人気が出たら世界に売れるはず」と持論を展開した。
そのコンシューマーゲーム出身の木村氏は、「自分が思った通りのものを作るには、限りなく個人制作に近い方がいい。プログラムも音楽も絵も宣伝もひとりでできるなら、商業の世界から抜けられる。でも僕はできないから仲間でやる。自分のイメージが伝わる仲間でやろうと言っている」と語った。
イベントは重要だが、コミケはゲームに不向き?
話題は開発からイベント関連へと移った。ZUN氏はコミケでの経験について、「イベントでは開発者が直に見える。楽しそうに見えるから、憧れてもらえる」と、同人ゲームの裾野を広げるためにイベントが重要だということを示した。
しかしコミケそのものについては、木村氏が「ゲームがいっぱい出ているけれど、コミケはコミックのイベント」と語るとZUN氏も同調し、「ゲームはよそ者扱い」と答えた。その理由として、「まず電源がない。それにデモプレイや試遊できるものを置いても、通路が混んできたらどいてもらわないといけない。秩序ありきでゲームに向いていない」と言う。
それに対して、昨年からはインディーゲームのイベントが増えてきている。第1回BitSummitの他にも、東京ゲームショウのインディーゲームコーナー、東京ロケテゲームショウ、デジゲー博など、急に増えた印象だ。木村氏が「インディーゲームはいま来ている」と言うと、楢村氏は「来ているけれど、今年か来年には参加していないと間に合わない。今日はSCEとマイクロソフトが来ていてるが、彼らはインディーの人たちを獲得したがっている。でも「Mighty No.9」(稲船敬二氏が開発中の作品)が出るまでに出すか、出る時に乗っかるか。そこで(インディーゲームが)儲からなかったら、もう誰もインディーとは口にしないと思う」と辛口なコメント。
これに対して木村氏は、「世界に広まって売れることはゴール。でも売れるから幸せなのではない。好きなものをアイデアを込めて、ずっと続けている人がいる。インディーがブームになって、XboxやPlayStationで目立つことはある。でもそれより、インディーで作り続けていることにパワーを感じる。僕がZUNさんと楢村さんを好きなのは続けていること」と述べた。
話を戻して、イベントは常時開催されてはいないものの、ダウンロード配信はできる環境がある。それによってゲームは広がるのか?
ZUN氏は「わからない」と答えた。「『東方Project』を海外に出しても、それは既に広まっているところにいる人が買ってくれることを見込んでいる。それによって広まるかどうかは何ともいえない」と言う。
楢村氏はその広がりに関して、「東方Project」の二次創作について言及。「最初から広めるために二次創作を認めたわけではない。ZUNさんは二次創作したいと言われたから許可を出しただけ。でもその途中で“ゆっくり”(「東方Project」の登場キャラクターが「ゆっくりしていってね!」と言うアスキーアート)が生まれるとは思わなかった」と、違う形で広がりの読めなさを語った。
ただしZUN氏は、自らが手がけるシューティングゲームというジャンルについて、「見た目もわかりやすく派手で、売りやすい。音楽も万国共通なので、海外には売りやすい」とも語った。
楢村氏は「LA-MULANA2」のKickstarterの呼びかけの際のエピソードを披露した。「苦労していたのは、海外で広げること。知っている人は認めてくれるが、Kickstarterで告知して広めるのは大変だった。PLAYISMさんにお願いして英語関係のやり取りをお願いしたが、以前Wiiウェアとして海外で出した時に取材を受けた人を覚えておいて、その人にプレスリリースを送ったりもしていた」という。
作り続けられれば成功
最後の話題は、「インディーはどれくらい売れたら成功なのか?」というもの。楢村氏は、「続けているのがいいと言われたが、まさしくそこ。自分の好きなものを作って継続できるだけのお金が入ってきたらそれでいい」と述べた。
木村氏は、「ゲームを作り続けたい。自分が面白いと思うゲームを作り続けるために、家族や仲間が食べ続けられるだけ売れればいい。1万本、2万本売れたらペイできるという座組みができるならそれでいいし、5千本で済むならそれでもいい。100万本も売れなくていい」と語った。
ZUN氏は、「誰もが遊ぶゲームより、弾幕シューティングが好きな人に少しずつ売れればいい。インディーゲームはゲームを作って完成させれば成功。30人くらいにしか売れないと思っても、完成させたら成功。そうでないと継続して作れない。最初はこういうゲームが好きだからと思って作る。そこからは、自分の作ったところが気に入らないと思ってまた作るようになる」と述べた。
ゲーム開発者という立場は同じながら、それぞれに異なる考え方をもった3氏の回答は、長く最先端を走るクリエイターの重みが感じられた。インディーゲームの祭典である“BitSummit”の会場ならではの共通項は、みんな自分の好きなゲームを作りたいと思っている、というところだろう。
最後にZUN氏が「最終的に1人になったらすごく安く作れる」とオチをつけ、ビール缶で再度乾杯して(ZUN氏のビールは空になっていたが)トークイベントの幕を閉じた。