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~4小節(くらい)ずつ作るオリジナルソング~
【第2回】
まずはリズムから作ってみよう
(01/09/21)
ケケ中
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オンラインソフトで作ったオリジナルソングを全世界に発信しよう! というちょっと大げさなこの企画。何を間違ったか窓の杜編集部にやってきた歌手志望の青年「ケケ中」は果たしてデビューできるのか? それはすべてプロデューサーであるモッティの手腕というか力量というか気まぐれにかかっているのだ!!
今回は、音楽の土台、リズムからいってみるぞ。4小節(くらい)ずつ、ゆっくりアバウトに作ってみよう!
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モッティ
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「ちょっとトロピカルなフュージョンっぽい歌謡曲」は、リズムから……
ある日、リットーミュージックをたずねるはずだったのに、何を間違ったか窓の杜編集部にふらりとやってきてしまった歌手志望の青年、ケケ中は、ワタクシことネタに詰まったライターのモッティに言いくるめられて、本連載の実験台……じゃなくてモデルとなり、オンラインソフトでオリジナルソングを作って歌手デビューを目指すことになってしまった。その風貌から、彼に与えられた名前は「ケケ中正義」。オリジナルソングの曲調は「ちょっとトロピカルなフュージョンっぽい歌謡曲」に決定した、というのが前回のあらすじだ。
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気持ちよさそうに音楽を聴くケケ中 |
ポマードで頭を固め、心なしか日焼けしたようなケケ中だが、問題はその音楽の趣味。持ってきたCDやMD、MP3ファイルはユーロビートやゲームミュージックだらけだったのだ。いや、その音楽の趣味がイケナイというのではない。ケケ中正義のイメージにそぐわないのだ。やはり、青い空、白い砂浜、オープンテラスのテーブルには青いカクテル。この風景にユーロやゲームミュージックは似合わない。
モッティ: |
「つーことで、今日から曲作りをするんだけど、8ビートって感じじゃなくて、16ビートだよねぇ、やっぱり」 |
ケケ中: |
「え? 8ビットとか16ビットとか、そんな時代やないでしょ?」 |
モッティ: |
「誰がビートとビット間違えるなんてベタなネタをしろって言ったんだ?つーか、ホントに知らないの?」 |
ケケ中: |
「はぁ、楽器とか楽譜はまるでダメなんで……」 |
モッティ: |
「おいおい、そんなんで歌手志望してくるなよ……」 |
と、ピントの外れた会話の後、モッティは8ビートと16ビートの違いをケケ中に教えるハメに陥った。
モッティ: |
「じゃぁ、まずは8ビートから。これはロックでよく使われる基本的なパターン。『ツ・ツ・タ・ツ・ツ・ツ・タ・ツ』で1小節になるリズムだ。じゃぁ、『ツ・ツ・タ・ツ・ツ・ツ・タ・ツ』って口で言ってみて」 |
ケケ中: |
「ツ・ツ・タ・ツ・ツ・ツ・タ・ツ」 |
モッティ: |
「とりあえずできるようだな。じゃ、16ビート。ファンク系やダンス系でよく使われるパターンだ。『ツクツクタクツク・ツクツクタクツク』って感じ。『タ』を強調するとうまくいくぞ」 |
ケケ中: |
「ツクツクタツ…ツタトテ…スプ…ツケケタ」 |
モッティ: |
「できてねーじゃん。このリズム感じゃ言葉じゃ曲調を説明できないな。仕方ない。まずはアレを使うか」 |
ケケ中のリズム感のなさに失望しながら、モッティはPCに向かって、あるソフトを立ち上げた。
まずは自動作曲させてみる
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「自動作曲システム」は、曲のスタイルを選ぶだけのお手軽作曲ソフト |
立ち上げたソフトは、その名も「自動作曲システム」。曲調を指定すると、自動的にMIDIファイルを生成してくれるというシェアウェアだ。曲調は「スタイル」という単位でまとめられていて、ポップス系、ジャズ系から民族音楽まで幅広くプリセットされている。音楽的な知識のある人なら、独自のスタイルを作成することもできる。このソフトでは、スタイルをもとにしてランダムに作曲されるので、生成されたMIDIファイルがきちんと作曲された音楽になっているとは限らないが、曲調を決めるときや、リズムやメロディを作るときの参考には十分だ。
さて、今回のお目当てはフュージョン。「自動作曲システム」のスタイルには、「フュージョン」と「フュージョンギター」という、そのものズバリのものがあるから、これを使って何回か自動作曲してみた。この中から、なかなかイイ感じにでき上がったMIDIファイル「autocomp01.mid」をサンプルとして用意した。ダウンロードして聴いてみてほしい。ドラムパートの音量が少し小さいので肝心のリズムが聴き取りにくいかもしれないが、しっかりと16ビートを刻んでいる。曲のテンポもゆったりめだから、「ちょっとトロピカルな」感じも出ているようだ。
ケケ中にこのMIDIファイルを聴かせたところ、やっとこちらの意図を汲んだらしい。
ケケ中: |
「モッティさんの言ってた『ちょっとトロピカルななんとか』って、こういう音楽だったんや。なんやケッタイな殺し屋みたいなカッコさせられたんで、いったいどんなんやと思うてましたわ」 |
モッティ: |
「殺し屋って、結構似合ってるぞ、そのカッコ」 |
ケケ中: |
「ヤなこと言わんといて。でも、このソフトで自動作曲させて作曲はしまいでっか?」 |
モッティ: |
「いや、もちろんこれは参考だ。このMIDIファイルからリズムの部分を抜き出してみよう」 |
MIDIってなに?
次に立ち上げたソフトは、フリーのMIDIシーケンサー「Cherry」だ。しばらくバージョンアップされていないが、それは必要十分な機能を備えていることの証でもあるだろう。即座に先ほどのMIDIファイルをCherryに読み込みたい欲求に駆られるが、その前に覚えておくべきMIDIの基本的な用語の解説をしておこう。
そもそもMIDIというのは、音楽機器を制御する信号の規格だ。この信号の上には、主に音色(楽器音)、音の高さ、強さ、長さなどの情報が流れている。このMIDI信号のデータを記したファイル(MIDIファイル)を作成、編集するのが「Cherry」などのMIDIシーケンサーソフトだ。またPCで一般的に使われるMIDI音源とは、ピアノ、管楽器、弦楽器、打楽器などいろいろな楽器音が出せるハードウェア。ソフトウェアでエミュレートする「ソフトウェアMIDI音源」もある。しかし、たとえばピアノの音を出すための信号が音源ごとに異なっていたら、MIDIファイルの汎用性は乏しくなってしまう。そこで策定されたのが「GM」(General MIDI)という規格だ。128の楽器音が規定され、GM準拠の音源でGM準拠のMIDIファイルを演奏すると、だいたい同じように聞こえるようになっている。本連載では、GMに準拠したMIDI音源を使うことを想定するぞ。
さて、MIDI音源の楽器音は「チャンネル」という単位で扱われる。たとえばチャンネル1にはピアノ音、チャンネル2にはベース音、チャンネル3にはギター音というように、チャンネルごとに楽器音を割り当てられる。GM音源では合計16のチャンネルがあるが、チャンネル10だけはドラム音に固定されている。
シーケンサーでは、「トラック」という単位で演奏データを管理している。各トラックにはひとつのチャンネルが割り当てられる。たとえば、チャンネル1にピアノ音を割り当て、トラック1にチャンネル1を割り当てると、結果としてトラック1の演奏データはピアノ音の演奏データになる。また、同じチャンネルを複数のトラックに割り当てることもできる。上記の例に加えてトラック2にもチャンネル1を割り当てれば、トラック1がピアノの左手用、トラック2がピアノの右手用というMIDIファイルを作ることもできるのだ。
自動作曲されたMIDIファイルからからリズムを抜き出して……
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自動作曲されたMIDIファイルを「Cherry」で開く |
「Cherry」に戻ろう。起動時したらメニューバーで[設定]-[環境設定]-[MIDI OUT]で、PCに接続または内蔵されたMIDI音源のうち、どれを使うかを決める。通常「Port A」で「Midi Mapper」を選んでおけば問題ない。「Module」の項には「0:GM Compatible」を選択しておこう。設定が終わったら「autocomp01.mid」を読み込む。「Track List」ウィンドウに表示されている表から「A10」と書かれた部分を探してみよう。これがチャンネル10、つまりドラム音が割り当てられたトラックだ。ここを右クリックして「開く」を選択して、「Track #7[]」というウィンドウが開いておこう。
「Track #7[]」ウィンドウの水色に塗られた部分の左側には、「Kick」、「Hi-Hat Close」や「Snare」といった文字が並ぶ。これは、バスドラム、ハイハット、スネアといったドラムキットの音色を示すもの。そしてその右側がいわゆる譜面にあたる部分で、それぞれの音色の時間的な位置と大きさ、長さを表している。譜面にあたる部分には、タテに線が引かれている。これは「拍」を表す区切りだ。
では、バスドラムの列とスネアの列に注目だ。ここでバスドラムは「ドン」という低い音のドラム、スネアは「タン」となる高い音のドラムといえば想像がつくだろう。バスドラムは1拍目と3拍目に、スネアは2拍目と4拍目に必ず鳴っているのがわかるだろうか。次にバスドラムとスネア以外の音色を見ると、1拍の間に計4回、つまり16分音符でなっている。これらはハイハットを中心とした「ツクツク」とか「チッチッ」と聞こえる高い金属音だ。16ビートの基本は、「ドン・タン・ドン・タン」というバスドラムとスネアのリズムの上に「ツクツクツクツクツクツクツクツク」というハイハット系のリズムが重なってできているのだ。
この基本リズムに、バスドラムやスネアを少し足したり、ずらしたりするとリズムのバリエーションができてくる。ちょっとアレンジしたリズムパターンのMIDIファイル「rhythm01.mid」を用意したので参考にしてほしい。
神出鬼没の師匠、フランクン古田って誰だ?
とりあえず、ケケ中がもっていたMDやCDはすべて没収、MP3プレイヤーの中のファイルもすべて削除して、この16ビートのリズムパターンをループさせるようにしておいた。ちょっとかわいそうな気もするが、ケケ中を「ちょっとトロピカルなフュージョン風」な男に改造するためにはやむをえまい。
で、次回はいきなりメロディ、それも「サビ」の部分を作ることにした。曲のメインテーマでもある「サビ」。これが決まると曲のイメージも固まってくるハズ。でも、いざ本格的に曲作りになると、ちょっと不安な点もある。モッティはもちろんフュージョン系の音楽は好きだしよく聴くのだが、それよりもジャズロックというかプログレッシブロック系の方が好きなのだ。サビでいきなり5拍子や7拍子が出てきたり、奇妙なコード進行が顔を出してしまったら、それはとても万人受けするものとは言いがたい。どうしよう……。
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白衣も不思議だけど、なぜ聴診器???? |
すると、「何、気にすることはない。いつでも相談に乗るぞ」と肩をたたく人がいる。誰だ? と顔を上げると、そこにはモッティの学生時代の先輩にして、現在CMの音楽制作をしているフランクン古田先輩がいるではないか。正直、びっくりした。
ポカンとするモッティを尻目に、古田さんは「分からないことがあったらメールしろよー」と言い残して立ち去ろうとする。何でここにいるんだ? という疑問はさておき、心強い味方を得たことになる。果たしてケケ中はデビューできるのか!? 注目せよ!!
でも、古田さん、音楽制作者なのに、何で白衣なんだ??
今回使用したオンラインソフト
(文:モッティ 監修:フランクン古田)
記事中の楽曲のうち「自動作曲システム」で作曲したサンプルファイル「autocomp01.mid」は、自由に使用・配布することが認められています。
アレンジしたリズムパターンファイル「rhythm01.mid」の制作者は望月 貞敏氏です。著作権は同氏に帰属しますので、こちらのファイルの無断転用・転載は著作権法違反となります。