柳谷智宣のAI ウォッチ!
“答えだけください”を極めたAI「Jev」、チャットしないAIで300件の問い合わせを一気に仕分けてみた
文章すら返さない判断特化型AIとはなにか[前編]
2026年10月16日 09:00
ChatGPTやClaudeのようにユーザーの問いに文章で答える生成AIが当たり前になっている。とはいえ、「この問い合わせは急ぎか」「どの部署に回すべきか」といったシンプルな判断をしてもらいたいだけなのに、毎回文章を生成する必要はない。そこで注目したいのが、判断に特化したAI「Jev(ジェヴ)」だ。
開発した米TypeSafe AIは、現地時間2026年9月15日に「Jev」を公開した。20日に登録受付を開放すると利用者が急増し、わずか2日後には新規登録を一時停止。処理能力を増強し、27日に受付を再開した。文章生成が主流の生成AI市場において、その用途を“判断”に絞ったモデルがどこまで使えるのかは、気になるところだ。
今回は、この注目のAI「Jev」の仕組みを解説しながら、実際の使い勝手をレビューする。Webコンソールの「Playground」で手軽に試す方法から、仮想的な業務システムを構築して大量のデータを仕分けるテストまで試してみた。
文章ではなく「選択」「採点」「はいの確率」を返す
一般的なLLMでも、Structured Outputs(構造化出力)やJSON Schemaを使えば、「billing」「technical」のような決められた形式で結果を返すことはできる。ただし、LLMは文章生成を前提とした汎用モデルで、結果だけを返すにはオーバースペックともいえる。その点、「Jev」は最初から、ソフトウェアが利用する判断結果を型付きで返すことに特化している。
Jevでは、判断材料を「state」として渡し、そのstateについて知りたいことを「question」として指定する。問い合わせメールなら本文がstateとなり、「どの担当が対応するか」「どの程度急ぐべきか」などがquestionになる。
questionには「Choice」「Score」「Noul」の3種類が用意されている。
Choiceは用意した候補から1つを選ぶ方式で、問い合わせの分類や担当部署の振り分けに向く。選択肢は最大255個まで設定でき、それぞれに「この候補は何を意味するのか」という説明も付けられる。
Scoreは、順番のある基準に沿って評価する方式だ。「急がなくてよい」「今日中」「直ちに対応」のような段階を用意すると、そのどこに位置するかを数値で返す。結果は整数とは限らず、2つの段階の中間に相当する値が返ることもある。
Noulは、YesかNoで答えられる問いに使う。「返金を求めているか」「人による確認が必要か」といった質問を与えると、Yesである確率を0~1で返す。0.95ならYesの可能性がかなり高く、0.5付近なら判断が割れていると考えられる。
ChoiceとScoreには、答えに加えて確率分布と0~1の「confidence(確信度)」も付く。Choiceでは1つの候補に確率が集中するほどconfidenceが高くなる。Scoreでも各段階への確率の広がり方からconfidenceが算出される。Noulには別のconfidenceはなく、Yesの確率そのものから迷い具合を判断する。
この数字は自動処理の境界を決めるときに使いやすい。例えば、確信度が十分に高い問い合わせは自動で担当部署へ送り、判断が割れたものだけを人が確認する仕組みにできる。送金の承認のように間違えたときの影響が大きい処理なら、より厳しい基準を設定すればよい。
さらに、1つのstateに対して複数のquestionを同時に指定することも可能だ。公式ドキュメントでも、必要な質問は1回のリクエストにまとめる方法が推奨されている。それぞれのquestionは同じstateを見ながら独立して評価されるため、分類、緊急度、返信の要否を個別に実行する必要はない。
TypeSafe AIは、Jevの学習に「RLCD(Reinforcement Learning for Calibrated Decisions)」という手法を採用している。目指しているのは、例えば0.8という確率を返した判断を多数集めたとき、実際にもおよそ80%が正解するように、予測確率と現実の正答率を近づけることだ。個々の判断が「80%の確率で正しい」と保証されるわけではなく、多数の結果を集めたときに、Jevが示した確率と実際の正答率がおおむね一致するよう調整するという。
共同創業者兼CEOのディオゴ・アルメイダ(Diogo Almeida)氏は、OpenAIでInstructGPTやRLHFの研究に携わった経歴を持つ。人の評価を使って望ましい応答を学ばせる研究に関わってきた人物が、現在は文章生成ではなく、確率を伴う判断をソフトウェアへ返すAIを開発しているわけだ。
Playgroundでは3種類の質問をまとめて試せる
JevはAPIを組み込まなくても、TypeSafe AIのWebコンソールにある「Playground」で試せる。ログインして左側のメニューから[Playground]を開くと、上部に判断材料を入力する「State」、その下に質問を設定する「Questions」があり、右側に実行結果が表示される。
まずは、請求書をダウンロードできず、支払期限も迫っている、という問い合わせを判定させてみよう。Stateには次の1文を入力する。
請求書のPDFをダウンロードできません。支払期限が今日なので、至急確認してください。
QuestionsはJSON形式だが、最初からすべて手入力する必要はない。
Questions欄をクリックすると「Select primitive type」が表示されるので、Noul、Score、Choiceから使いたい種類を選ぶ。すると、それぞれに必要なJSONのひな型が自動で挿入される。質問名やinstructions、criteriaを書き換えればよく、2問目以降も同じ要領で追加できる。
今回は、担当部署を選ぶChoice、緊急度を評価するScore、返信が必要かを判断するNoulを1つずつ設定した。Questionsの完成形は以下のようになる。
{
"department": {
"type": "choice",
"instructions": "どの担当が最初に対応すべきですか?",
"criteria": {
"billing": "料金・請求・支払い",
"technical": "画面・機能の不具合",
"sales": "導入・契約の相談"
}
},
"urgency": {
"type": "score",
"instructions": "対応の緊急度は?",
"criteria": [
"低い:数日以内でよい",
"中:当日中が望ましい",
"高い:直ちに対応"
]
},
"needs_reply": {
"type": "noul",
"instructions": "担当者からの返信が必要ですか?"
}
}
Choiceではcriteriaに選択肢と判断基準を記述する。Scoreは低い方から順番に評価基準を並べ、NoulはYesかNoで答えられる質問なので、この例ではinstructionsだけでよい。長い指示文を書くより、「担当はどこか」「どれくらい急ぐか」のように、1つのquestionで1つの判断を求める方が設定しやすい。
3つのquestionを設定したら[Run]をクリックしよう。右側のResponse欄にdepartment、urgency、needs_replyの結果がまとめて表示される。今回の例では、departmentはbillingが57%、technicalが43%で、confidence(確信度)は35%となった。一方、urgencyは1.96/2で確信度93%、needs_replyはYesが93%だった。
ここで注目したいのは、担当部署ではbillingとtechnicalに判断が割れた一方、緊急度と返信の要否では高い確信度を示したこと。同じ問い合わせでも、何を尋ねるかによってJevの迷い具合が異なり、その差を数値で確認できるのがユニークだ。
今回の例では日本語でも意図通りに判定できた。ただし、TypeSafe AIは英語を主要な学習言語としており、現時点では英語で最も高い精度を発揮するとしている。日本語も扱えるが、業務へ組み込むなら、実際のデータを使って判定結果や確信度を確認しておきたい。
また、Jev 1.13は計算や正確なカウント、日付の比較、何段階もの推論も苦手とのこと。Choiceでは選択肢の並び順が結果に影響する場合があり、stateにモデルを誘導するような文面が含まれると判定が動く可能性もある。通常のプログラムで処理できる部分はコードに任せ、Jevには文章の意味を読まなければ判断できない部分を担当させるのがおすすめだ。
なお、9月27日の新規登録再開後は、それまで新規ユーザー向けに提供されていた5米ドル分の無料クレジットが付かなくなった。現在は利用した入力トークンに応じて料金が発生する。
Claude Codeで300件を一括判定するWebアプリを作る
Playgroundで仕組みを把握したところで、次はもう少し実務に近い形でテストしてみよう。
研修や受講に関する問い合わせを想定し、ダミーの問い合わせ300件をExcelに用意した。料金や使い方の質問だけでなく、フィッシング風のメール、脆弱性の報告、罵倒を含むクレーム、AIへの指示を聞き出そうとする文面、英語の問い合わせ、不在通知や配送エラーなども混ぜてある。
多数のstateを手作業で入力するのは現実的ではないため、まずClaude CodeでローカルWebアプリを作った。最初に「TypeSafe社の判断モデルJevを使った、Excel一括判定のローカルWebアプリをPythonで作ってください」と伝えた。さらに、Stateの前提やChoice、Score、Noulの質問をWebブラウザーから変更できること、最初に10件だけ試してから全件を並列処理できること、失敗した行だけ再実行できることも条件に加えた。
数分で一通り動くシステムが完成した。ちなみに、こうした小さな業務ツールを、その場で形にできるのはバイブコーディングの面白いところだ。
今回、Jevには問い合わせごとに「カテゴリ」「緊急度」「返信の要否」の3項目を判定させた。カテゴリはChoiceで、使い方・機能、ログイン・アカウント、不具合・障害、契約・料金・請求など、8種類から選ばせる。
選択肢には名前だけでなく、「ログインできない」「支払い内容を確認したい」といった判断の手掛かりとなる説明も加えた。Jevは質問をかなり文字通りに読む傾向があるため、分類がぶつかりやすいケースでは各候補の境界をcriteriaへ書いておくと調整しやすい。
緊急度はScoreで0~3の4段階にした。0は通常対応、1は数日以内、2は当日中の対応が望ましいもの、3は直ちに上長への報告が必要なものとし、情報漏えいや法的な要請、脅迫、拡散予告などを最高レベルの例として設定した。返信の要否はNoulで「サポート担当者からの返信や対応が必要ですか?」と入力した。
まず先頭10件だけを処理すると、7件は明確な結果となり、アプリ側で設定した基準に従って3件が要確認に回った。この3件を見ると、Jevがどこで迷うのかがよくわかる。
1件目は「【重要】お客様のアカウントが一時停止されました」で始まり、URLへのアクセスを促すフィッシング風のメールだ。「スパム・不審・宛先違い」を選んだものの、カテゴリのconfidenceは0.49だった。文面だけを見ればログイン問題にも読めるため、候補が割れたようだ。
2件目は、URLのIDを書き換えると別の受講者の修了証を閲覧できるという脆弱性の報告だ。カテゴリは「不具合・障害」でconfidence 0.55と迷った一方、緊急度は2.98、confidenceは0.98だった。何という種類の問い合わせかは迷っても、急いで対応すべきという判断はほぼ揺れていない。
3件目は「本当に使えない」などの強い言葉を交えながらエラーを訴える問い合わせで、「クレーム・苦情」のconfidenceは0.45だった。不具合報告として扱うこともできるため、人が見ても分類に迷うケースだ。
先頭10件で挙動を確かめた後、300件すべてを処理してみた。
結果はExcelのC列以降に追加され、「カテゴリ」「緊急度」「返信の要否」について、Jevの判定と確信度を一覧で確認できた。アプリ側では、ChoiceとScoreはconfidenceが低いもの、NoulはYesの確率が0.5に近く判断が割れているものを「要確認」とし、該当する行を色付けするようにした。
もちろんJevの用途は問い合わせ対応だけではない。口コミやアンケートの自由回答の分類、営業リードの優先順位付け、SNS上の評判分析、ECの商品分類、契約書の条項確認など、文章を読んで一定の基準で振り分ける業務なら応用できそうだ。
試しに、自社名を含むSNS投稿をエゴサーチで収集し、200件を「投稿内容の分類」「感情の評価」「対応が必要か」の3項目で判定させてみた。200件を4.6秒で処理し、133件はそのまま判定でき、確信度の低い67件が要確認に回った。問い合わせとは異なるデータでも、分類基準を入れ替えるだけで同じ仕組みを利用できた。
1件1,000トークンなら10万件で630円、現行上限では理論上約21分
Jevの料金は入力100万トークンあたり0.042ドルで、出力トークンには料金がかからない。
今回のような問い合わせ本文と3つの質問、選択肢の説明を合わせて1件1,000トークンと仮定すると、1件当たり0.000042米ドルとなる。1万件なら0.42米ドル、10万件では入力が合計1億トークンなので4.2米ドルだ。1米ドル150円で計算すると630円となる。仮に1件2,000トークンまで増えても、10万件で1,260円だ。
比較用に、Claude Sonnet 5.5のAPIで同じ量を処理するケースも計算してみよう。
入力1億トークン、さらに1件100トークンのJSONを出力すると仮定すれば、入力200米ドルと出力100米ドルの合計300米ドル、1米ドル150円なら4万5,000円となる。もちろん、JevとClaude Sonnet 5.5では用途も能力も違う。文章を生成したり複雑な推論をしたりするならClaudeの出番だが、用意した選択肢への分類や短い採点を大量に繰り返す仕事では、Jevの料金は格安といえる。
大量データを扱う際は、処理速度も見逃せない。
2026年10月4日時点で、Jev 1.13の通常アカウントには毎秒10万トークン、毎秒80リクエストの上限が設定されている。1件1,000トークンなら80リクエスト側が先に上限となり、10万件を送る理論上の最短時間は約1,250秒、約21分だ。実際には通信時間や再試行も発生するため、そのまま処理完了時間になるわけではないが、大量処理を前提に設計されたサービスらしいスピードだ。
ChatGPTのようなAIを想像してJevを開くと、文章すら返さないことに最初は拍子抜けするかもしれない。しかし、大量の仕事を処理するプログラムが欲しいのは、もっともらしい文章ではなく、次の処理を決めるための答えであることも多い。仕事で大量の情報を扱っているなら、Jevに任せられる判断がないか探してみると面白そうだ。
著者プロフィール:柳谷 智宣
IT・ビジネス関連のライター。キャリアは26年目で、デジタルガジェットからWebサービス、コンシューマー製品からエンタープライズ製品まで幅広く手掛ける。近年はAI、SaaS、DX領域に注力している。日々、大量の原稿を執筆しており、生成AIがないと仕事をさばけない状態になっている。
・著者Webサイト:https://prof.yanagiya.biz/
















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