#モリトーク

第43話

最速リモートデスクトップへの道

 リモートデスクトップソフトでお馴染みのオンラインソフト作者、IchiGeki氏が先日、歴代最速の動作を謳う新作リモートデスクトップソフト「Vritra」を公開した。Windows標準機能以外のリモートデスクトップソフトといえば、そのほとんど海外製であり、純国産である同氏のリモートデスクトップソフトはあらゆる意味で貴重な存在だ。しかも、多くのリモートデスクトップソフトが企業やオープンソースプロジェクトによって開発されている中、同氏は個人で活動しているから驚かされる。

 IchiGeki氏が制作するリモートデスクトップソフトの魅力は第一に、デスクトップ画面の描画速度を追求していることだが、ほかにも特長がある。それは、ソフトのメジャーバージョンアップを実施するときに毎回、ソフト名を変更した上で後継ソフトとしてリリースする点だ。そのため、同氏のリモートデスクトップソフトがどのように進化してきたのか、また各ソフトがどのように関連しているのか、わかりにくいとも言える。そこで今回は、同氏が制作したリモートデスクトップソフトの歴史を整理してみたい。

 同氏初のリモートデスクトップソフトは、2006年3月に窓の杜で紹介した「IgScope」であり、このときはまだ“IchiGeki”名義ではなかった。「IgScope」はDirectXの技術をベースに開発され、ゲームをプレイできるほど画面の描画が高速だったが、用途は限られていた。それから約2年後、「IgScope」の後継ソフトとして公開された「IgRemote」はDirectXに加えてGDI+の技術も導入し、描画速度に磨きをかけつつ、音声転送やクリップボード共有にも対応し、前作よりも汎用性の高いソフトへと進化する。

「IgScope」
「IgRemote」

 第3弾となる2009年3月公開の「ZeroRemote」では、前作の「IgRemote」で採用したGDI+を取り止め、任意のコーデックを選択可能な、独自の映像圧縮エンジンを開発し、デスクトップイメージの転送速度を大幅に向上させる。続く2010年2月に公開された「TrueRemote」では、マルチコアCPUに対応した独自の映像コーデック「GaeBolgVideoCodec」も開発し、映像圧縮機能を完結させたものの、残念ながら音声転送が非対応になってしまった。

「ZeroRemote」
「TrueRemote」
「Brynhildr」の名を引き継ぐ予定の「Vritra」

 2012年に入ると、「TrueRemote」では非対応だった音声転送を実装した、2つの後継リモートデスクトップソフトが登場する。先に公開された「Brynhildr」は画質が優れるため静止画用に、後発の「Orthros」は描画速度が優れるため動画用にと分かれた。ところがIchiGeki氏のブログによると、この時点では描画速度の面で「TrueRemote」のほうが両ソフトよりも優れていたため、3つのソフトを現行製品と位置付けていたとのこと。

 その後、同氏は「Orthros」の改良を“Vritra”というコードネームの下で続け、「TrueRemote」以上の描画速度を達成。これでいよいよ「TrueRemote」が役割を終え、その正統な後継ソフトをリリースする準備が整う。それが、冒頭で挙げた「Vritra」になるが、ソフト名は“Brynhildr”を引き継ぐ予定だという。

 「Brynhildr」「Orthros」以降の話が少しややこしいのでまとめよう。正統な後継ソフトとなる予定だった「Brynhildr」が速度面で不十分だったため、同氏は別路線で「Orthros」の開発を進める。それが順調に進んだ結果、「Orthros」の中身と「Brynhildr」のソフト名を合体することになり、その工程のコードネームを“Vritra”と命名したというわけだ。「Vritra」はこれまでの集大成であるとのことなので、「Vritra」改め「Brynhildr」が正式に公開されるのを楽しみに待つとしよう。

(中井 浩晶)