クリエイターが知らないと損する“権利や法律”
詠み人知らずはちょっと寂しい
~第3章:著作権について詳しく教えて!~
2016年7月27日 07:00
オンラインソフト作者に限らず、あらゆるクリエイターが創作活動を続けるために、著作権をはじめとして知らないと損する法律や知識はたくさんある。本連載では、書籍『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』の内容をほぼ丸ごと、三カ月間にわたって日替わりの連載形式で紹介。権利や法律にまつわる素朴な疑問に会話形式の堅苦しくない読み物でお答えする。
前回掲載した“お金と名誉ふたたび”の続きとして、今回は“詠み人知らずはちょっと寂しい”というテーマを解説する。
詠み人知らずはちょっと寂しい
ではまず、著作者人格権から説明しましょう。
著作物を創作した人のことを、『著作者』といいます。
著作者人格権は、著作者だけが持っている権利で、誰かに売ったり譲ったりはできません。
こういう権利を『一身専属権』といいます。
自分だけの権利ってことですか。
そうです。
そして、著作者人格権というのは主に『公表権』『氏名表示権』『同一性保持権』の3つの権利のことです。
おお、なんか権利がいっぱいだ。
どんな権利なんです?
まず公表権は、著作物を公表するかどうか、いつ、どういう方法で公表するかを決められる権利です。
公表は『公衆』に見られる状態にすること。
公衆は、不特定の人もしくは特定多数の人です。
特定多数というのは、例えば同じサークルのメンバーなどの場合を指します。
著作権法18条(公表権)
著作者は、その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。以下この条において同じ。)を公衆に提供し、又は提示する権利を有する。
公表しないことも選べるんですか。
どういう場合だろう?
もし、好きな人に渡したラブレターが、知らないうちに誰でも見られる場所に晒されていたら?
死にたくなりますね。納得。
ちなみに人格権は一身専属なので、死んでしまうと理屈上は消滅します。
ただ、生前であれば著作者人格権の侵害にあたるような行為は禁止されているため、遺族が公表権侵害にあたるとして訴えることは可能です。
著作権法60条(著作者が存しなくなつた後における人格的利益の保護)
著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、その著作物の著作者が存しなくなつた後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は、この限りでない。
例えば、三島由紀夫さんの死後、非公開の手紙が無断で本に掲載される事件がありました。
遺族は裁判を起こし、その本は出版差し止めになりました。
死後にラブレター晒されたら、もう1回死にたくなりそう。
人間は1回しか死ねません。
冷静なツッコミありがとうございます。
次に氏名表示権。
これは著作物を公表するときに、著作者の名前を表示するかどうか、どういう名前を表示するかを決められる権利です。
実名でもペンネームでも構いません。
著作権法19条(氏名表示権)
著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。
表示しないことも選べるわけですか。
例えば和歌集の『万葉集』では、著作者の名前が『詠み人知らず』になっていることがあります。
名前が出るのが政治的にまずいので、あえて隠している場合もあるそうです。
もっとも、万葉集の時代にまだ著作権の概念はありませんが。
某巨大掲示板の『名無しさん』みたいな?
そうそう。あれは投稿者自身の意志で匿名にしているわけですよね。
他にも、著名な人の代理で文章などを書くゴーストライターは、契約によって名前を出さない形になっています。
そうか、幽霊だから見えないわけだ。
ところがインターネット上では、著作者は名前を公表したいと思っているのに、名前と作品が勝手に切り離され『詠み人知らず』になってしまっていることも多いのです。
インターネットで素敵なイラストを見つけても、誰が描いたイラストなのかわからないこと、結構ありますよね……。
残念なことです。
名前が売れれば、次の仕事に繋がるかもしれませんから。
お金にならないような仕事を受ける場合でも、名前を出すことにはこだわった方がいいですよ。
まずは名誉というか、評判を上げるべきってことですね。
そうです。
最後に、同一性保持権。
これは著作物を他人に無断で改変されない権利です。
例えば悲劇が喜劇にされるなど、勝手に内容を変えられてしまったら、著作者が伝えようとしていた思想や感情とは違うものになってしまうかもしれませんよね。
それを防ぐことができる権利です。
著作権法20条(同一性保持権)
著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
よくインターネットで、漫画のセリフを改変したコラ画像を見かけますよね。
『働きたくないでござる!』とか。あれは?
元ネタは和月伸宏さんの『るろうに剣心』ですね。確かにコラ画像は、同一性保持権侵害の可能性があります。
元のセリフ、知っています? 『それだけは絶対に許さんッ!』なんですよ。
ひえぇ。
ただし、『元の作品に別の情報を乗せただけとはっきりわかる場合は、改変とはいえない』という意見もありますね。
次回予告
今回の続きとして次回は“手で書き写すのもコピーの一種”というテーマを解説する。
原著について
『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』
(原著:鷹野 凌、原著監修:福井 健策、イラスト:澤木 美土理)
クリエイターが創作活動するうえで、知らないと損する著作権をはじめとする法律や知識、ノウハウが盛りだくさん! “何が良くてダメなのか”“どうやって自分の身を守ればいいのか”“権利や法律って難しい”“著作権ってよくわからない”“そもそも著作権って何?”といった疑問に会話形式の堅苦しくない読み物でお答えします!