クリエイターが知らないと損する“権利や法律”
トレースしよう
~第5章:先生……二次創作がしたいです~
2016年8月19日 07:20
オンラインソフト作者に限らず、あらゆるクリエイターが創作活動を続けるために、著作権をはじめとして知らないと損する法律や知識はたくさんある。本連載では、書籍『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』の内容をほぼ丸ごと、三カ月間にわたって日替わりの連載形式で紹介。権利や法律にまつわる素朴な疑問に会話形式の堅苦しくない読み物でお答えする。
前回掲載した“他人の作品を模倣していいのか”の続きとして、今回は“トレースしよう”というテーマを解説する。
トレースしよう
ちょっと前に記事で読んだんですけど、プロの漫画家の作品が『トレースだ!』と言われて問題になって、連載中止になったことがあるんですね。
何がいけないんですか?
末次由紀さんの漫画『エデンの花』ですね。
トレースというのは、元の写真や絵を透かして線をなぞって描く技法です。著作権法上は複製にあたります。
アナログ的に手で書き写すのも複製の一種でしたっけ。
そう。だから、自分が撮った写真や自分が描いた絵を、自分でトレースするなら、まったく問題ありません。
どんどんトレースしましょう。
自分に複製権があるからですね。
そうそう。ただしもちろん、トレース元の写真や絵が著作権を侵害していたらダメですけどね。
そりゃそうですね。
つまり、他人が撮った写真や、他人が描いた絵を無断でトレースすると複製権侵害になる可能性があるのです。
『トレースではなく模写だから問題ない』なんて言ってる人を見かけたこともあるんですけど……。
トレースと模写は絵を描く技法の違いであって、どちらも元の絵に依拠していることに変わりはありません。
問題になるのは類似性です。
トレースの方が模写より似やすいでしょうけど、絵が上手い人なら模写でもそっくりになりますからね。
そういえば『トレース疑惑の検証』とかいって、絵を重ねて『完全に一致』なんて糾弾をしてる検証サイトがありますけど、その検証行為そのものって著作権侵害ではないんです?
著作権法32条の『引用』にあたるかどうか、または、41条の『時事の事件の報道のための利用』として正当な範囲内かどうかです。
個々に状況は異なりますから、一概に侵害とは言えないですね。
ええっと、引用として認められるには、必然性、明瞭な区別、主従関係、出所明示の4つが重要なんでしたっけ。
ウェブサイトって、報道と言えるのかな?
難しいところで、著作権法には『報道』の定義がありませんし、判例もほとんどありません。
条文が書かれた当時には、新聞、雑誌、ラジオ、テレビといったマスメディアが想定されていたはずですが、今やインターネットを使えば誰でも情報発信できますからね。
個人ブログであっても、マスメディア顔負けの立派な報道記事を掲載しているところもあります。
逆にマスメディアでも、首を傾げたくなるほどレベルの低い報道ってありますね……。
実際の報道現場でも、著作権法41条に基づき無断で利用してもいいかどうかの判断には悩むことが多いようです。
他方、そもそも許諾があれば問題ないわけですから、例えばTwitterに投稿された写真の利用許可を、マスメディアの方が求めている場面をよく見かけるようになりましたね。
著作者の許可を取るのが、一番問題ないわけですね。
許可がいつでもすんなり取れるなら、ですね。
だから話を戻すと、トレースだろうと模写だろうと、原著作者が許可しているなら問題ないのですよ。
ただ、報道や批評、まして批判目的のときに、果たして簡単に相手が利用に同意するかです。
なるほど……。
次回予告
今回の続きとして次回は“コスプレしてもいいですか”というテーマを解説する。
原著について
『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』
(原著:鷹野 凌、原著監修:福井 健策、イラスト:澤木 美土理)
クリエイターが創作活動するうえで、知らないと損する著作権をはじめとする法律や知識、ノウハウが盛りだくさん! “何が良くてダメなのか”“どうやって自分の身を守ればいいのか”“権利や法律って難しい”“著作権ってよくわからない”“そもそも著作権って何?”といった疑問に会話形式の堅苦しくない読み物でお答えします!