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「Claude」のAnthropic、東京オフィスを開設、法人向けに注力

楽天やみずほ、メルカリでの事例を紹介

 Anthropicは、東京オフィスを開設した。アジア圏では初の拠点となる。

Anthropic Japan 代表執行役社長の東條英俊氏

 Anthropic Japan 代表執行役社長の東條英俊氏は、「日本では、すでに数100社の企業がAnthropicのClaudeを利用している。そこで、日本において、技術サポートや、ユースケースの発掘などを、いち早く行うことが必要だと考えた。LLMの適用領域は、業務コストの削減や、社内の生産性向上などが多いが、今後は、顧客接点や収益向上のツールとしての活用提案をしていきたい」と述べた。

 また、「日本は、安心、安全に対してセンシティブである。Anthropicのミッションである安全性を最優先にしたAI研究の考え方とも親和性が高い。これも、日本に進出した理由のひとつである」とも述べた。

「安心、安全を担保することに注力」

 Anthropicは、2021年に設立。AIアシスタントのClaudeは、Fortune 500の大手企業から、政府機関、中小企業、個人に至るまで、毎日数100万人のユーザーが利用しているという。

 「Anthropicは、安全で、有益で、解釈可能なAIシステムを構築しているフロンティアAI企業であり、パワフルな言語モデルを提供し、正確なアウトプットを提供するとともに、AIがどんな考え方をしているのか、どんな構造をしているのかということを解明していくことにも取り組んでいる」としたほか、Anthropicそのものが、公益法人であることにも言及。「安心、安全を担保することに注力している点が特徴である。AIモデルの安全基準を規定し、責任あるスケーリングポリシーによって、すべてのモデルリリースを管理し、リリースを行う前に徹底した安全対策を講じている。リリースを優先し、問題が起きてから対策するのではなく、発生しそうな問題を把握し、事前に対策を行っている」とした。

日本でも、楽天、みずほ、メルカリが活用中

 日本での利用事例もあげた。楽天では新機能の市場投入時間を80%短縮したほか、みずほフィナンシャルグループでは3万人の社員がClaudeを利用。メルカリではClaude Codeの活用により、エンジニアリングの速度を劇的に加速した事例などがあるという。

 「日本では、自動化よりも、コンテンツやトピックについて、より深く、学ぶためのツールとして利用する傾向がある。また、翻訳サービスとしての活用が、全利用の4.2%を占めており、グローバル平均の1.5倍になっている。日本では翻訳に対するニーズが高い」とも述べた。

「日本文化を理解、きちっとした敬語も使える」

 日本市場に対する投資の考え方についても説明。「日本のあらゆる組織と人が、最適に利用ができるようにするため、ローカライゼーションでは、ネイティブレベルの流ちょうな日本語を実現している。日本の文化や商習慣も学習し、きちっとした敬語の表現もできる。また、データレジデンシー、コンプライアンス、ガバナンスといった観点から日本のニーズを理解している」とした。

 最新のClaude Sonnet 4.5では、AWSのAmazon Bedrock で利用した場合には、日本国内に閉じた利用が可能であり、データを海外に持ち出すことなく、推論ができるという。

「日本の企業をサポートするために、十分なスタッフを揃えていく」

 また、日本におけるGo-To-Market戦略についても発表。「エンタープライズ向け営業チームを組織化し、技術営業によるブリセールスを行い、ユースケースの発掘にも乗り出す。また、パートナーエコシステムを構築し、SIerやAI関連パートナーによる販売も推進する。さらに、デベロッパーコミュニティを通じて、意見交換などが行える環境を用意。Claude Codeを活用したソフトウェアのコーディングエンジニアの生産性向上にも貢献したい」という。

 まずは、東條社長を含めて3人体制でのスタートになるが、今後、増員を図っていく。

 ソリューションアーキテクト、プロダクトエンジニアによる技術営業部門を設置するほか、パートナー部門、マーケティング部門、ガバメントリレーション部門、法務部門などを整備。「日本の企業をサポートするために、十分なスタッフを揃えていく。日本のお客様に対して、ClaudeおよびClaude Codeの利用提案が行える体制を整える。パートナープログラムの整備も進めることになる」とした。

 中長期的な観点では、日本にも研究機能を持ち、日本におけるモデルの性能や精度の向上に寄与する考えを示した。

「B2CのAI開発企業とはフォーカスが違う」

 なお、Anthropicのダリオ・アモデイCEOは、10月29日、高市早苗首相と会談し、AI評価手法に関する協力のため、AIセーフティ・インスティテュート(AISI)との覚書に署名したことを発表。さらに、「広島AIプロセスのフレンズグループ」に参加し、森美術館とのパートナーシップを拡大することも発表した。

Anthropic グローバルアフェアーズ(国際関係)責任者のマイケル・セリット氏

 Anthropic グローバルアフェアーズ(国際関係)責任者のマイケル・セリット氏は、「AIリスクの評価手法や、AIトレンドの把握、AIの安全性などで協力していくことになる。AISIに参加することで、日本の文化に根づいたセーフティの考え方を理解することができる。ユーザーが安心、安全に、責任あるAIを活用することにつながる」と語った。

Anthropic 最高商務責任者(CCO)のポール・スミス氏

 一方、Anthropic 最高商務責任者(CCO)のポール・スミス氏は、「AIによる変革は、わずかな期間に、大きなインパクトをもたらすという点で、これまでの変革とは大きく異なる。これまで数10日かかっていた作業が、わずか数時間で終わるだけでなく、数%の改善には留まらず、数倍の改善が起き、生産性が何倍にも高まるといったことが起きる。人を採用する際には、その仕事に最も知識を持ち、適した人物を選ぶように、AIも同様の選定基準で選ばれている。最もインテリシェンスがあり、信用ができ、安全性が高い人が採用されるのと同じことがAIでも起きている。だからこそ、我々はClaudeに多額の投資を行い、信用して使ってもらえるAIを開発している。最大のフォーカスエリアはB2Bであり、B2CのAIを開発する企業とはフォーカスの仕方が違う。Constitutional AIと呼ぶアプローチにより、規律を持ったAIを開発することに努めている。この考え方は、我々の施策とか、ポリシーとかではなく、モデルそのものに組み込まれている姿勢である。そして、説明可能な透明性を持つことも、エンタープライズAIにとっては重要なことである」としたほか、「Claudeは、日本語の正確度に対する評価が高い。これからも日本語の言語力を高めることに投資をしていく。エンタープライズ企業に、Claudeのインテリジェンスを活用してもらい、より良いサービスの創出に貢献したい」と述べた。

Anthropic 国際事業マネージングディレクターのクリス・シアウリ氏

 また、Anthropic 国際事業マネージングディレクターのクリス・シアウリ氏は、「かつての技術は、これがワークするのかという議論が多かったが、AIの場合には、より速く、より大規模で利用するにはどうしたらいいのかといった議論ばかりである。Claudeの特徴は、文化的なニュアンスを理解できる点にある。すでにClaudeを導入しているパナソニックグループからは、Claudeは日本のビジネスにおけるコミュニケーションの仕方や、上下関係のつながりなどを理解しており、B2Bに必要な要素を持っているというフィードバックをもらっている」と発言。

 「Anthropicは日本において、長期的なパートナーシップを構築したいと考えている。日本の企業のCEOの多くは、AIの利用においては安全が第一だと言っている。日本は世界のなかでもリスク管理を重視する国である。Anthropicの安全性を重視するアプローチが、日本の市場で受け入れられている。エンタープライズ企業が健全に活用できる水準を実現し、健全に振る舞うことができるかどうかを重視している。また、日本ではパートナーが重要な役割を果たす市場であり、Anthropicはそこも注力をしていく。日本で事業を拡大させるには、パートナーとの連携が不可欠である。日本は戦略的に重要な国であり、アジアのなかで、最初に進出した理由もそこにある」とした。