【第8話】
2つのOpenOffice
(12/05/15)
無償で利用できるオフィススイートといえば、多くの人が「OpenOffice.org」の名を挙げるだろう。しかし「OpenOffice.org」はすでに開発が停止し、「LibreOffice」「Apache OpenOffice」という2つのソフトに分裂している。今回はその経緯について復習しよう。
「OpenOffice.org」は2000年から10年間にわたり、オープンソース活動に積極的だったサン・マイクロシステムズ社の外部プロジェクトとして開発されてきたが、2010年1月、オラクル社がサン・マイクロシステムズ社を買収したことにより、「OpenOffice.org」のプロジェクトもオラクル社へ移行することになる。これが分裂の始まりである。
移行後まもなくして、「OpenOffice.org」の独立性とオープン性、そしてコミュニティ活動を重要視したプロジェクトメンバーの一部が、新しい組織“The Document Foundation”を外部に設立し、「LibreOffice」というソフト名で再出発することを決める。2011年1月には、開発途中であった「OpenOffice.org」v3.3.0をベースにした「LibreOffice」v3.3.0が同組織初の正式版として公開された。
一方のオラクル社も「OpenOffice.org」の開発を継続し、「LibreOffice」v3.3.0の公開を追うように「OpenOffice.org」v3.3.0をリリースした。このときのバージョン番号は「LibreOffice」「OpenOffice.org」ともに同じだが、「LibreOffice」はSVG画像への対応、「OpenOffice.org」はグラフ機能の強化といったように、更新内容は異なっている。
「LibreOffice」はその後、2011年6月と2012年2月に2回の大きなバージョンアップを順調に実施し、現在は実務向けのv3.4.6と、熟練ユーザー向けのv3.5.3が日本語版も含めて公開されている。こうして波に乗ってきた「LibreOffice」とは異なり、「OpenOffice.org」は2011年6月、Webサーバーソフト「Apache HTTP Server」の開発で知られる非営利団体“The Apache Software Foundation(以下、Apache)”へ譲渡される。
そして、Apacheへ譲渡された「OpenOffice.org」は「Apache OpenOffice」へと名称を変えたため、Apacheが「Apache OpenOffice」v3.4.0を初リリースすると同時に、「OpenOffice.org」の名が正式に途絶えることになった。ちなみにApacheは、「OpenOffice.org」v3シリーズの派生版である「Lotus Symphony」を開発したIBM社の協力も得ている。
このように企業買収の影響を受けて消滅することになった「OpenOffice.org」の正式な後継ソフトは「Apache OpenOffice」であり、Apacheのブランド力と技術力も獲得した。しかし、「OpenOffice.org」がコミュニティの活動とともに成長してきたソフトであったことを忘れてはならない。そのコンセプトとコミュニティを受け継いだのは「LibreOffice」であろうし、もしかすると今回の分裂をきっかけに、コミュニティの絆がより深まったかもしれない。いずれにしても「OpenOffice.org」がユーザー主義であったことを考えると、どちらが“本家”なのかという問いは、ユーザーの手に委ねられているはずだ。