特別企画
「Office 2010」テクニカルプレビュー版レビュー 前編
大幅に高速化された起動速度と、着実な進歩を見せる第2世代のリボンUIが目玉
(09/07/30)
“Microsoft Office”シリーズの次期バージョンとなる「Microsoft Office 2010」(以下、「Office 2010」)のテクニカルプレビュー版が、14日に公開された。なかにはさっそくテスター登録をして、実際に試用しているというユーザーもいるかもしれない。
しかし、“Office”は日常の業務で利用するアプリケーションである上、テクニカルプレビュー版は同社の運営するテスター向けのコミュニティサイト“Microsoft Connect”を通じた招待制になっていることもあり、興味はあっても試用に及び腰なユーザーも多いと思う。
そこで、窓の杜では2回に分けて「Office 2010」の新機能を紹介していく。前編となる今回は、「Office 2010」の各ソフトに共通の使用感、画面デザイン、改善点などをご紹介する。
なお、本稿はテクニカルプレビュー版をもとにしているため、最終的な製品とは機能・デザインが異なる場合があり得る。あらかじめご了承いただきたい。
軽快な動作――Web版「Office」とも十分差別化できる?
「Office 2010」テクニカルプレビュー版を利用して、まず驚いたのがその起動速度の速さだ。インストール後の初回起動時こそ従来版と同程度の時間を要するものの、2回目以降はほとんど一瞬で起動する。記事執筆のためにスプラッシュウィンドウのスクリーンショットを撮ろうとしたが、スプラッシュウィンドウの表示時間が短すぎて、何回も失敗してしまったほどだ。
使い始めてからの動作に関しても、従来版と同等以上の軽快さを見せる。「Word 2010」の[詳細設定]画面では、“ハードウェアのグラフィック アクセラレータを無効にする”という項目も用意されており(初期設定ではOFF)、内部ではハードウェア支援による描画も行われているようだ。また、描画以外に関してもチューニングが進められているようで、バックグラウンドで行われる自動バックアップ作業のせいで、入力が滞るということもない。以前のバージョンを利用する際はときおり入力の引っ掛かりを感じることがあったが、その点が改善されているのはうれしい。
「Office 2010」といえば、Webブラウザー上で動作する“Web版”に注目が集まりがち。Windows Live IDさえもっていれば無料で利用できることも相まって、“Web”版への期待は高く、これさえあれば個人ユーザーはデスクトップ版「Office 2010」を買い控えるのではないかとの見方も強い。しかし、デスクトップ版の安定した軽快さを体験すると、必ずしもそうは言えないのではないかと思える。筆者には『無料の“Web版”があっても、高機能で軽快なデスクトップ版は必ず売れる』というマイクロソフトの強い自信を感じられるのだ。広告つきで機能が制限された“Web版”と、ローカルPCで快適に動作する高機能な“デスクトップ版”は、十分差別化できると思われる。
改善されたユーザーインターフェイス――“リボンUI 2.0”
次に、新しい「Office 2010」のユーザーインターフェイスを見てみよう。
「Office 2010」では、すべてのソフトが“リボンUI”を備える。これまで“リボンUI“が導入されていなかった「Outlook」などのソフトでも、ほかのOfficeアプリと共通の操作で各種機能へアクセスできるというわけだ。
新しいリボンUIでは、タイトルバーとの境界がぼかされ、タイトルバーに溶け込んだようなデザインになっている。また、各セクションの境界線も、存在を主張しすぎない自然なデザインへと一新されている。ボタンの分類・配置も見直されているようだ。
見た目だけではなく、細かい機能改善も怠りがない。たとえば、リボン右上にリボンを最小化するボタンが追加された。これを使えば、リボンを利用する場合にのみ表示させることが可能。「Office 2007」でもこの機能を搭載していたが、右クリックメニュー上から切り替えて利用するという面倒な仕組みだった。リボンのタブをダブルクリックして切り替えることも可能だが、これも気づきにくい操作だったので、専用のボタンが設けられたのはうれしい。ネットブックなど解像度の低い環境では活用したい。
既存の「Office」2000/XP/2003のユーザーのなかには、リボンUIに根強い拒否感を抱く人も多いというが、使い慣れればリボンUIも悪くない。たいてい小さなアイコンだけでボタンのもつ機能が表現されるツールバーと異なり、アイコンとテキストの両方でボタンの機能を確認できるのは初心者にとっては助かる。
たとえば「Outlook 2010」の“クイック操作”機能は、“上司へ転送する”“特定フォルダへのメールの移動”といった日常的な操作がワンクリックで行える便利な機能だが、初期状態では6つの操作がテキストつきのアイコンで表示されている。これがツールバースタイルであれば、操作ボタンをプルダウンメニューなどで表示するしかなく、ワンクリック余分に操作が必要な上、一覧性が失われてしまう。リボンUIならではの機能と言えるのではないだろうか。
本音を言えば、ツールバーUIとリボンUIを切り替えできるのが理想的だが、残念ながらそのような機能は現時点では搭載されていない。しかし、熟成された新しいリボンUIには、ツールバーから乗り換える価値が十分あるように感じられる。
ドキュメント編集の舞台裏――“Backstage”機能
「Office 2010」では“Backstage”と呼ばれる新しいメニューが採用された。画面左上の“Office ボタン”を押すことでウィンドウの画面いっぱいにメニューが表示されるというもので、新規作成・保存・印刷といった機能が集約されている。全画面表示のメリットを活かしたわかりやすいメニュー表示が特長で、たとえば大きなサムネイルつきでテンプレートを選択してドキュメントを作成したり、印刷の際に印刷の設定を細かく変更しながら逐一その結果をプレビューするといったことが可能。
そもそも“Backstage”とは、“舞台裏”のこと。“編集”という表舞台を支える裏方的な機能を取り揃えて整理した楽屋といった位置付けなのだろう。
コラボレーション機能――共同編集とリビジョン管理
最後に、強化されたコラボレーション機能についても触れておこう。
「Office 2010」では、多くのアプリケーションが共同作業に便利なリビジョン管理機能を備えている。いくつかの機能は以前からも搭載されていたが、さまざまな場所に分散して配置されていたため、積極的に活用されていたとは言い難い。そこで、「Office 2010」ではコラボレーションに関わる機能が集約されており、その集約場所として“Backstage”が活用されている。
完成した文書が不用意に変更されないようにロックをかける機能や、下書きを一括削除する機能、不要なメタデータをチェックして一括削除できる機能などが“Backstage”に集約されており使いやすくなっている。文書をリビジョン管理機能でロールバック・更新した際は、前回保存した文書との差分を表示することも可能。
次回は各ソフトに焦点を当てて紹介
以上、「Office 2010」の各ソフトに共通の機能やデザインを中心に紹介してきた。大きな機能変更や新技術への対応といったトピックには欠けるが、起動速度の向上、各ソフトのデザインの統一、Backstage機能をはじめとするユーザーインターフェイスの改善、コラボレーション機能の強化など、着実な進歩を遂げているのがわかる。
なお、次回は「Word」「Excel」といった各ソフトの変更点を紹介する。ご期待いただきたい。
【お詫びと訂正】
記事初出時、「Access 2007」の画面デザインおよび「Office 2007」のリボンUIの動作について、記述が不正確な部分がありました。お詫びして訂正します。