使ってわかるCopilot+ PC

第100回

Copilot+ PCがGPUで動く未来が来る? 「Phi Silica」をGeForceで動かすテストが始まる

Copilot+ PCのシステム設定にあるAIコンポーネントの項目。「Phi Silica」も含まれている

Copilot+ PCの機能がGPUで使えるようになる?

 Copilot+ PCにおいて、GPUの活用が始まるかもしれない。Microsoftは6月9日、「Windows App SDK 2.0」のリリースノートにおいて、v2.2 実験版 9(2.2.2-Experimental9)の情報を公開した

 この中で、従来はNPUのみサポートしていた言語モデルAPIにおいて、6GB以上のVRAMを搭載したGeForce RTX 30シリーズ以降のGPUでも実行が可能になるとしている。これが今後のCopilot+ PCにおいてどういう意味を持つのか考察していく。

Microsoftが公開した、「Windows App SDK 2.0」v2.2 実験版 9のリリースノートより、今回の話題に関わる部分を抜粋

ローカルAI言語モデルをGPUで動かせるようになる

 ここで書かれている言語モデルAPI(Language Model API)というのは、「Phi Silica」などのローカルで動作する言語モデルを呼び出すためのAPIのこと。

 「Phi Silica」はNPUに最適化されたモデルで、Copilot+ PC専用の機能として設計されている。GPUでの動作は対応していないし、40TOPS未満のNPUでも利用できない。つまり言語モデルAPIを呼び出せるのは、Copilot+ PCだけということになる。

 しかし今回公開されたv2.2 実験版 9では、6GB以上のVRAMを搭載したGeForce RTX 30シリーズ以降のGPUも言語モデルAPIをサポートする。これにより、40TOPS未満のNPUしか搭載していないか、NPU非搭載のPCであっても、サポートするGPUがあれば言語モデルAPIが利用可能になる。

 なお利用するには、「Windows 11 Insider Preview」のExperimentalチャネルのビルドを使用し、開発者モードを有効にする必要がある。現時点ではあくまでテスト段階であり、いつ製品版に実装されるのか、あるいは本当に実装されるのかどうかはわからない。

 そうはいっても、これまで頑なに守られてきたCopilot+ PCの機能を、GPUにも譲り、Copilot+ PCの要件を満たさないPCでも使えるようにしようというアプローチが、今までにはなかったものだ。

 これを受けて、今後はNVIDIA製のGPUを持っていれば、Copilot+ PCとして使えるようになる……という声も聞かれる。現時点でのCopilot+ PCはほとんどがノートPCで、一般的なデスクトップPCにはほぼ存在しない。NVIDIA製GPUでCopilot+ PCの機能が使えるなら、対応するPCは一気に増える。それを望む声が多いということだろう。

 しかし実際には、おそらくそうはならない。

NPUのAI処理の全てをGPUで代替できない理由

 NPUとGPUを比較してよく言われるのが、推論の性能はGPUの方が高いということ。Copilot+ PCが登場した際にNVIDIAは、『Copilot+ PCは40TOPSだが、GeForce RTX 4090は1,300TOPSを超える』と主張した。だから『Copilot+ PCのAI処理をGPUにやらせろ、NPUは不要だ』という声が上がる。

 そうならない理由はいくつか考えられる。1つはCopilot+ PCのマーケティングのために機能を限定した、という見方だ。Copilot+ PCを買えば、さまざまな専用のAI機能が使えますよ、というのを商品の売り文句にできる。高性能なGPUを持っているユーザーにすれば腹立たしい回答だが、そういう側面があることも否定できない。

 処理能力だけで考えれば、Copilot+ PCの機能をGPUで動かすことは可能だろう。実際には今回の「Phi Silica」のように、AIモデルやソフトウェア環境をGPU向けに再整備する必要があるため、フラグを1つ立てればすぐできるようなことではないのだが。

 仮に環境が整ったとしても、全てのCopilot+ PCの機能がGPU向けに開放されるかというと、それも難しい。NPUのメリットは、推論性能の高さよりも、少ない消費電力で効率的に処理できる点にある。GPUで同じだけの推論処理をさせると、消費電力は格段に増える。

 「Phi Silica」のような言語モデルであれば、ユーザーからの自然言語に対する処理を、その都度実行すればいい。GPUを常時フル稼働させる必要はなく、間欠的な動きになる。これなら消費電力への影響は小さく、GPUの高い性能による素早いレスポンスを得られるメリットもある。

 しかし「リコール」のように裏で定期的にAI画像処理を行うものや、「Windows スタジオ エフェクト」のようにカメラ映像を継続的にAI加工し続けるものはどうだろう。GPUでの推論でも同じことはできるはずだが、消費電力はぐっと上がる。

 エコではないだけでなく、ノートPCならバッテリー持続時間を悪くするし、発熱も増えてしまう。ほかに高負荷な処理をしていないのに、AI処理のために冷却ファンが高速に回るのはストレスになる。

 また本来はGPUが行うべき処理の妨げになる可能性もある。例えばゲームプレイ中にAI機能が動くと、GPUやVRAMのリソースを奪われて、ゲームの描画性能が落ちることも考えられる。だったら使わない方がいいという選択肢も、用途次第で十分にあり得る。せっかく機能があっても、ユーザーに嫌われて使われないのでは意味がない。

この先のCopilot+ PCのAI機能は、適材適所になる

Copilot+ PCでは、Windows Updateで定期的にAIコンポーネントのアップデートが行われている。Copilot+ PCのAI機能もまだまだ進化している

 あくまで筆者の予想になるが、GPU搭載機もCopilot+ PCになっていくわけではなく、Copilot+ PCの機能の一部がGPUにも切り出されるだけではないかと思う。GPU、あるいはCPUでもAI処理を代替でき、Windowsの体験を高めることにつながるなら、Copilot+ PCではないPCでも使えるようにしていけばいい。

 CPUは今後、デスクトップ向けのものにも高性能なNPUが搭載され、世にある全てのWindows PCがCopilot+ PCの要件を満たしていく。その上で、搭載するハードウェアや電源の状況に応じて、NPUやGPUを柔軟に使い分けて、PC体験をより良くしていく。そういう方向に進んで欲しい、という筆者の願望も込めているが、これが最も自然な方向性ではないかと思う。

 1つ確かなことは、今回の発表を受けて、40TOPS以上のNPUを搭載するというCopilot+ PCの要件が変更されるような状態にはないということ。GPUより省電力に推論処理ができるNPUのメリットが削がれたわけでもない。あくまでWindowsのAI機能の柔軟性が向上するだけの話だ。それでも十分、大きな方針転換とは言えるが。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜で連載『石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』』(AKIBA PC Hotline!に移動)、『使ってわかるCopilot+ PC』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/