#モリトーク

フリーではないフリーフォント

(12/07/10)

 フリーソフトやフリーフォントの“フリー”とはどんな意味なのか、しっかり考えたことがあるだろうか。まずはだれもが、“フリー”は『無料で利用可能』の意味だと解釈しているだろう。それに加えて、『自由に利用可能』と解釈している人も多いはずだ。前者の『無料で利用可能』は正しいが、後者の『自由に利用可能』は必ずしもそうではない。フリーソフトやフリーフォントのなかには、『個人利用時のみ』や『非商用時のみ』などと、使用条件を限定しているものがある。これらは無料で利用することが可能でも、万人が利用できるわけではないので、この場合には『自由に利用可能』が当てはまらない。

「瀬戸フォント」「瀬戸フォント」

 フリーフォントの場合はもっと事情が複雑だ。なぜなら、基本的にひとつの製品として完結しているソフトとは違って、フォントはそれだけだと単なるデータに過ぎないからだ。フォントを実際に利用する場合、文書を印刷したり、ロゴ画像を作成したりと、フォントはインストールしたパソコンから離れ、デザインへと姿を変える。

 そのため、フリーフォントでの“フリー”という使用条件には、但し書きを含んでいる場合が多く、フリーソフトのそれと同じ意味になるとは限らないのだ。たとえば、先週のニュース記事でバージョンアップを取り上げた「瀬戸フォント」を見てみよう。同フォントはフリーであり商用も許可しているが、違法行為・成人向け作品・宗教・情報商材などに関わるWebサイトでは利用できないとしている。

 また、フォントでは再配布行為も注意しなければならない。ソフトの再配布とは、そのインストーラーや圧縮ファイルのコピーを配布することだ。ところがフォントの場合はそのコピーを配布する行為だけではなく、プログラムや文書ファイルのほか、とくに注目度が増している電子書籍へ埋め込む行為も再配布に該当する。

 フリーフォントは著作権を保護するために再配布を禁止していることが多いので、フリーフォントを利用して、電子書籍を作成しようと考えている場合は要注意だ。ちなみに「瀬戸フォント」は、アプリケーションなどへの埋め込みを許可しているが、そこに電子書籍も含まれるのかどうかは不明なので、作者へ問い合わせたほうがよいだろう。

「M+ FONTS」「M+ FONTS」

 以上を簡潔にまとめると、フリーフォントの場合、使用条件に書かれていないことは基本的に認められないと考えるべきである。フリーソフトでは使用条件を書かないケースが多く、それは『使用条件なし』と解釈してもおおよそ問題ないが、フリーフォントを利用する場合には、その感覚を捨てたほうがよい。

 逆に考えれば、自由度の高いライセンスで有名な「M+ FONTS」は、使用条件がないことを明言した、非常に稀なフリーフォントであることがわかる。そして、「瀬戸フォント」のように商用や埋め込みを認め、漢字も豊富に収録するフリーフォントとなると、片手で数えるほどしか存在しないというのも納得できるはずだ。

(中井 浩晶)