【第505回】
笑いあり、涙ありの王道RPG「木精リトの魔王討伐記」
ハイテンションで濃密なシナリオと、シミュレーション風のバトルが魅力
(12/11/30)
『週末ゲーム』では、インターネット上でたくさん公開されているゲームのなかから、選び抜いた良作を毎週紹介していく。今回は、笑いあり、涙ありのシナリオと、シミュレーション風の戦闘が魅力のRPG「木精リトの魔王討伐記」を紹介しよう。
“勇者の証”を押しつけられた少女が訳ありメンバーを引き連れ旅立つ
「木精リトの魔王討伐記」は、突然勇者に任命されてしまった木霊の少女“リト”と、その仲間達の冒険を描くRPG。個性豊かなキャラクター達が織りなすコメディあり、熱い展開ありの物語と、シミュレーション風の戦略性がある戦闘が魅力だ。
物語の舞台となるのは、“大樹の世界エル・ファーラン”。魔法の修行をするため人間の世界に来ていたリトは、ひょんなことから“勇者になって魔王を討伐する”という役目を師匠に代わって引き受けることに。しかしこの世界では、度重なる前任勇者の失敗により勇者の権威は失墜し、勇者権限で物資を徴発する勇者はむしろ疎まれていた。
勇者への同行を命じられたパーティの面々も、訳ありのメンバーばかり。事件を起こして退学になった神学生“エドガー”、教団へ意見を言いすぎたばかりに疎まれ左遷された司祭“ガブリエーレ”、禁呪に手を出し本来の魔力を封じられた魔女“リーゼロッテ”。魔王討伐なんてできるはずがないという彼らだが、リトの熱意により『自分達に期待していない人達に、目にものを見せてやろう』と決意する。
こうして旅立つリトと仲間達だが、木霊としての実年齢はともかく見た目は少女のリトは、誰にも勇者だと気付かれない。そのため、王様から与えられた“勇者の証”を行く先々で掲げることで、勇者として身分証明をしながら旅をしていくというのがユニークだ。
とはいえ、この世界の人々が勇者に期待していないことには変わらない。失敗の責任を押しつけるスケープゴートにされたり、利用されたりもするリトだが、持ち前の機転と前向きさで、徐々に人々から本当の信頼を得ていく。また、行く先々でリトに感銘を受けた人物がパーティに加盟し、勇者パーティは最大8人の大所帯に。コミカルな掛け合いあり、パーティ内外での恋愛模様ありと賑やかなやり取りが、数多く用意されたイベントで、表情に富んだ会話グラフィックと共に描かれる。
ダンジョンはシンボルエンカウントでサクサク進行、戦闘はシミュレーション風
本作では、戦闘フィールドに敵や味方が配置され、行動順が回ってくると移動や行動を指示する、シミュレーションゲーム風の戦闘システムを採用。ワールドマップでは戦闘は発生せず、ダンジョンではシンボルエンカウントとなっている。戦闘突入時のダンジョンの地形が、そのまま戦闘フィールドになるのが特徴だ。なお、本作はRPGツクール製だが作者オリジナルのシミュレーション戦闘システムを搭載。カーソルの自動移動などインターフェイスが練られており、キーボードやゲームパッドでストレスなくプレイできる。
行動は通常攻撃や一般魔法のほか、リトの“大樹の力”、エドガーの“格闘”などキャラクター固有のスキルも数多く用意されており、基本的に魔法はMPを、固有スキルはダメージを与えたり受けたりすると溜まる“TP”を消費する。とくにTPが最大の100になると使えるスキルはキャラクターごとの必殺技とも言える強力なもの。さまざまな固有スキルを駆使してテクニカルに戦うか、TPを溜め込んで一発逆転を狙うかなど、戦術を考えるのも楽しいところだ。
シミュレーションRPGを謳う本作だが、戦闘のバランスは程々で、普通にプレイしてレベルを上げていけば行き詰まる心配はほとんどない。敵シンボルを避けてザコ戦を飛ばしまくるとボス戦がちょっとキツく、歯ごたえのあるバトルを楽しめるくらいの難易度なので、戦術に自信があるならサクサク進めることもできるだろう。
パーティ編成と秘石合成による戦略がバトルの醍醐味
本作の戦闘を有利に進めるためのポイントは、パーティ編成と、キャラクターを特徴づける“秘石”のセッティングによる戦略だ。
勇者パーティは最大で8人となるが、同時に戦闘に参加できるのは4人、そのうちリトは必ず参加するので、残り3人を選ぶことになる。とくに通路の狭いダンジョンでは、味方同士がひしめき合って移動がままならないこともあるため、近接攻撃メインの前衛と、弓や魔法を使う後衛のバランスを考慮するのがオススメだ。また、本作では敏捷性のステータスが高いほど行動順が多く回ってくるので、メンバー選びの際は単純な攻撃力だけではなく、行動機会の多さもポイントになるだろう。
バラエティに富んだ効果をもつ“秘石”を合成して装備できるのも本作の特徴で、この秘石の使いこなしも重要な戦略となる。秘石は基本的にベースとなる“空白の石”と、最大3つまでの素材アイテムを組み合わせて作成する仕組みで、攻撃力、防御力、魔法力といったステータスを上げる秘石や、攻撃に毒や麻痺といった状態異常の効果を付与する秘石、特定の魔法が使えるようになる秘石など、100種類以上が用意されている。
ステータスアップの秘石は、弱点を補うのにも、長所を伸ばすのにも使えるが、ステータス向上はパーセント単位なので、長所を伸ばすほうが効果は高い。また、状態異常の効果を付与する石は、状態異常攻撃の成功率に影響がある“運”のステータスが高いキャラクターに装備させるなど、各キャラクターの能力や戦闘スタイルを理解し、それを活かす形で秘石を用意すれば、戦闘がぐっと楽になる。秘石を装備できる数はキャラクターが装備している武器によって異なるが、基本的にゲーム後半になるほど多くの秘石を装備可能になり、戦略における秘石の重要度が増していく。
とはいえ、どのアイテムを素材にするとどんな秘石が作れるのかは、ひたすら試行錯誤するしかない。イベント進行用の重要アイテムを除き、武器・防具を含むほぼすべてのアイテムが素材として利用でき、店で買えないレアな装備からはオンリーワンの特殊な秘石を合成できることもあるので要チェックだ。さらに作成した秘石をベースにすると、より強力な秘石を作れるという要素もあり、なかなかのやり込み要素となっている。ゲーム本編の進行そっちのけで秘石合成にハマってしまうのが、楽しくも恐ろしいところだ。
勇者とは?魔王とは?リト達は絶望を乗り越え、世界の謎に迫っていく
旅を続けるリト達には、やがて大きな困難や絶望が立ち塞がることになる。そしてお飾り勇者のお気楽道中として始まった旅は、いつしか大樹の世界の成り立ちや、勇者や魔王とは一体何なのか?といった謎へと迫っていく。独自の神話的世界観をベースにしたスケールの大きい物語も本作の魅力のひとつだ。
また、旅を通じリトの影響を受けて変わっていく仲間達、そして広い世界に触れて変わっていくリトの成長物語としても読み応えのある内容だ。一方でコメディとしても後半になるほどアクセル全開になっていき、当初はツッコミに回っていた真面目系メンバーもどんどんボケ始め、収集がつかなくなっていく。笑いあり、涙ありの濃厚なストーリーを最後まで楽しめること請け合いだ。
プレイ時間は約30時間の長編だが、ダンジョン探索や戦闘はサクサク進めることができ、煩雑さを感じることはない。ゲーム進行に必須ではない寄り道ダンジョンもあり、秘石合成と合わせてやり込むのも、どんどん物語を進めるのもプレイヤー次第。魅力的なキャラクター達が冒険を繰り広げるという国産RPGの王道をとことん突き詰めた本作は、RPGが好きなすべての人にお勧めの作品だ。
- 【著作権者】
- 神鏡 学斗 氏
- 【対応OS】
- Windows XP/Vista/7/XP x64/Vista x64/7 x64
- 【ソフト種別】
- フリーソフト
- 【バージョン】
- 1.00(12/10/19)