週末ゲーム
第519回
個性的なバトルシステムが楽しいRPG「ふしぎの城のヘレン」
RPGの“おいしい”部分への作り込みが際立つ短編作
(2013/4/19 10:28)
『週末ゲーム』では、インターネット上でたくさん公開されているゲームのなかから、編集部がピックアップした作品を毎週紹介していく。今回は、バトルの戦略性と全体の質の高さが印象に残るRPG「ふしぎの城のヘレン」を紹介しよう。
ランダム性を排除したバトルシステムが、アイテムによる戦略を面白くする
本作は、少女ヘレンがダンジョンを探索しながら進んでいく2D RPG。6時間程度でクリアできる短編作品だが、その内容はとてもユニークかつ濃密で、質も高い。プレイを終えたあとに『やってよかった』と静かに振り返ることができる1本である。
本作の質の高さはシナリオ、キャラクター、マップデザイン等々に隙なく現れているが、特にそのキモとなっているのは、ランダム性を排除した独特のバトルシステムだ。
マップ画面でモンスターに接触すると1対1のバトルがスタート。基本的にはコマンド選択型だが、所持している武器などのアイテムがそのままコマンドとなる。アイテムそれぞれに攻撃力と防御力のほか固有の行動待ち時間があり、単純なターン制ではないところがユニークだ。行動を決定すると、そのアクションが成立するまでに必要な時間が経過し、その間に攻撃を受けた際は防御力の分だけダメージを減らせる仕組みとなっている。
たとえば“ロングボウ”というアイテムのパラメーターは、攻撃力10、防御力2、行動待ち時間5だ。敵モンスターの攻撃“大振り”にかかる行動時間が12であれば、攻撃を受けるまでに“ロングボウ”で2回攻撃可能。その後、次のアクションを選択できるようになるタイミングでは敵の攻撃アクション成立まで残り時間2となる。そこで防御力の高い“ウッドシールド”などのアイテムを選べば、被ダメージを抑えながら効果的に戦えるという寸法だ。
アイテムは、大きく分けて“剣”、“弓”、“盾”、“魔法”のタイプがある。“剣”は高い攻撃力と防御力の両方をもち、敵の攻撃を受け流しながら確実にダメージを与えられる。“弓”は行動待ち時間が短く、大技を狙ってくる相手に対してチクチクとダメージを蓄積できる。“盾”は純粋な防御の手段で、攻撃力はないがダメージを大きく軽減。“魔法”は行動待ち時間が大きく発動まで無防備となる代わりに、敵の防御を無視して大きなダメージを与えられるのが強みだ。
基本的には“剣”→“弓”、“弓”→“魔法”、“魔法”→“盾”、“盾”→“剣”といった強弱関係だ。敵モンスターの行動も概ねこの枠内に収まるので、まずは敵のパターンを把握し、それに対するカウンター戦略を組み立てることが攻略の基本と言える。
とはいえ、そうそう簡単に行かないのが面白いところ。モンスターの中には非常にすばやい者や、やたらと一撃が重い者、こちらの選択に合わせて行動パターンを柔軟に変える賢い者などが存在しており、上記のような単純な“すくみ”の関係をあの手この手で崩しにくるのだ。
食らえば一撃でやられてしまうような攻撃を、盾で多少減衰させたところで無駄である。ではどうするか? 最大限の大技で先にやっつける、相手を防戦一方にする……などなど、手持ちの選択肢でできる事を考えよう。多彩な特殊アクションを組み合わせてくるボスキャラとの戦いではなおさら、手応えたっぷりの戦略性を楽しめる。
行動の選択肢は新たなアイテムを獲得するたびに増えていく。ゲーム後半に手に入るアイテムは高いパラメーターをもつ代わりに行動待ち時間も増えるため、行動待ち時間の少ない初期アイテムにも長く活躍の場が与えられるのが面白い。中には持っているだけで防御力をアップさせたり、全ての行動の待ち時間を軽減させるような特殊なパッシブ効果をもつアイテムもある。
同時に携行できるアイテムは最大で8個。ゲーム中盤には持ちきれず溢れるようになるため、行く先々で出現するモンスターの傾向に合わせて使用アイテムを厳選する必要が出てくるのだが、このバトルシステムに密接に関連したアイテム戦略の要素が、本作の全体を通してしっかりとした手応えを与えてくれている。
新たなモンスターに遭遇するたび、対応する戦略を考え、必要であれば携行するアイテムを取り替える。工夫を凝らすほどに自分だけの戦法を確立できるような深みがあり、気がつけば夢中になってしまう面白さだ。
丁寧にプレイすれば道は開ける。“ふしぎの城”の謎とは……?
バトルシステムとアイテム戦略の面白さが本作全体に濃密な味わいを加えていることは間違いないが、RPGとしての骨格となるマップデザインやシナリオ、キャラクターの描写も秀逸だ。
はじめは目的もわからず、主人公のヘレンがなんとなく遺跡に向かってみるところからゲームが始まる。だんだんとダンジョンの奥まで冒険を進めるうち、世界の意外な姿が明らかになっていくというのが大枠の流れだ。
そこには沢山の個性的なキャラクターが織りなすドラマもある。王道の展開と意外性のある展開、ジョークとシリアスがほどよく織り交ぜられ、メリハリのあるストーリーが印象に残る。果たして、この世界とはなんなのか?ヘレンとはいったい何者なのか? 自然に湧き上がる疑問を、ゲームを進めることで解き明かしていこう。
探索や謎解きには、ファミコン・スーファミ時代のRPGを彷彿とさせる仕掛けがいっぱいだ。各所に配置された隠し通路は、よく見れば『一部分だけ壁の影が途切れている』といった違和感によって発見でき、その先には後の冒険を助けてくれる強力なアイテムが待っている。中には先に進むために必須のものもあるので、くまなく探索してみよう。
中盤から終盤に差し掛かるあたりでその傾向がいちだんと強くなるが、どこかに必ずヒントが隠されているので、メッセージを読み逃すことなく、なるべく丁寧にプレイしたい。そうすることで、本作の各所に込められた“意味”をより深く読み取れるはずだ。
本作のストーリーが印象に残る理由は明快。ただ会話やナレーションでだけで話が成立するのではなく、ヘレンを先々への冒険へとうながすマップの構造そのものが、壮大な世界観の語り部の役割を果たしているためだ。また、収得していく各アイテムにも、バトルでの役割と同じくらいにシナリオ上の意味がある。
そのような観点で見れば、本作は見た目はレガシーであるけれども、とてもモダンで洗練された内容をもっている。プレイしていると自然に、この世界に引き込まれていく感覚があり、これがまさにRPGの“おいしい部分”だろう。
そこに最良の作り込みが行なわれた本作は、RPGが好きな方なら間違いなく気に入るであろう1本だ。ぜひお試しあれ。
ソフトウェア情報
- 「ふしぎの城のヘレン」
- 【著作権者】
- さつ 氏
- 【対応OS】
- (編集部にてWindows 7/8で動作確認)
- 【ソフト種別】
- フリーソフト
- 【バージョン】
- 1.10