クリエイターが知らないと損する“権利や法律”
悪口言っちゃダメ?
~第6章:表現の自由って、どれぐらい自由なの?~
2016年9月1日 07:20
オンラインソフト作者に限らず、あらゆるクリエイターが創作活動を続けるために、著作権をはじめとして知らないと損する法律や知識はたくさんある。本連載では、書籍『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』の内容をほぼ丸ごと、三カ月間にわたって日替わりの連載形式で紹介。権利や法律にまつわる素朴な疑問に会話形式の堅苦しくない読み物でお答えする。
前回掲載した“芸能人の写真を使いたい”の続きとして、今回は“悪口言っちゃダメ?”というテーマを解説する。
悪口言っちゃダメ?
小説や漫画を読んでると、たまに『ト○タ』とか『任○堂』みたいな書き方されてることがありますけど、あれってどんな意味があるんですか?
伏せ字ですね。フィクションでも、実在する固有名詞を出すことには、さまざまなリスクがあるのですよ。
例えば、世間一般で悪いこととされている事柄に企業や商品の固有名詞を使ったり、人の名前を挙げて悪口を言ったりすると、名誉棄損や侮辱などの責任を問われる可能性があります。
民法709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
うわ。だから伏せ字にして逃げるわけですか。
前後の文脈から推測できれば名誉棄損は成立するので、伏せ字にしたところであまり意味はないのですけどね。
逃げられてない!
例えば、柳美里さんが新潮社から出版した『石に泳ぐ魚』が、モデルである女性のプライバシーを侵害していると認定され、出版差し止めになったという事例があります。
名誉、信用、プライバシーなどに関わる表現は、注意が必要ですね。
そうか、気をつけなきゃいけないですね。
それから必ずしも法律的な問題ではありませんが、いわゆる『表現をめぐるリスク』を紹介しておきましょう。
宗教や政治に関わる話をして、抗議の電話が殺到したり、ブログやTwitterなら炎上したりといった事態が最近目立ちますね。
『神を冒涜された』として、実際の暴力に発展した事件もありました。
(ガクガクブルブル)
フィクションに悪人を登場させるときは、実在する可能性がある人物の名前を避けることがあります。
確かに、作品の中に自分と同じ名前のめちゃくちゃ悪いやつが出てきたら、例え『この作品はフィクションであり、実在の人物、団体、事件などとは一切関係ありません』と書いてあったとしても、気分悪くなるでしょうね。
差別表現もしばしば論争を生みます。
人種的特徴を誇張して、差別だと抗議されるようなケースです。
例えば、全日空のテレビCMにお笑い芸人が金髪で高い鼻の仮装で登場したら、差別表現だと抗議をされ放映が取りやめになった事例があります。
そういうのも問題になっちゃうんですか!
表現の自由は憲法で保障されていますが、差別と感じて抗議をするのも自由ではあります。
表現する以上、批評はもちろん、抗議される可能性もあることは覚悟しておくべきでしょう。
日本国憲法21条1項
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
なんだか、何を書いてもクレームをつけられるんじゃないかって気がしてきました……。
クレームに対応する時間はコストでもあるので、そうした負担をなるべく避けようとすると予防措置としての自主規制が強くなっていきます。
問題は、それによって表現できる幅もどんどん狭くなってしまったり、実際の問題状況が隠ぺいされやすくなったりすることですよね。
正当な抗議ならともかく、言いがかりのようなクレームもありますから。
バランスの問題ですね……難しいなあ。
次回予告
今回の続きとして次回は“エッチな表現がしたい”というテーマを解説する。
原著について
『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』
(原著:鷹野 凌、原著監修:福井 健策、イラスト:澤木 美土理)
クリエイターが創作活動するうえで、知らないと損する著作権をはじめとする法律や知識、ノウハウが盛りだくさん! “何が良くてダメなのか”“どうやって自分の身を守ればいいのか”“権利や法律って難しい”“著作権ってよくわからない”“そもそも著作権って何?”といった疑問に会話形式の堅苦しくない読み物でお答えします!