特集
オンラインストレージサービスを使いこなそう!
ローカルとの同期機能をもつ“Dropbox”“ZumoDrive”“SugarSync”を比較
(10/06/02)
近年、オンラインストレージサービスが注目を集めている。なかでも、単にデータを保存できるタイプではなく、フォルダ・ファイルの同期やリビジョン管理といった付加機能をもつタイプが人気であるようだ。窓の杜でも過去に“Dropbox”“ZumoDrive”“SugarSync”といったサービスを紹介したことがあるので、目にしたことがあるという読者もいるだろう。また、すでに使っているといった読者も多いかもしれない。
この3つのサービスは、主に3つの機能をもつことで共通している。
- オンラインストレージとローカルストレージの同期機能
- リビジョン管理機能
- さまざまな場所からのファイル参照・共有機能
しかし、設計思想や細部の機能の違いから、使い勝手や用途には少なからず違いがみられる。それでは、これから利用するユーザーは何を利用すればよいのだろうか。
そこで今回は、“Dropbox”“ZumoDrive”“SugarSync”を比較して、それぞれのサービスの性格を明らかにしたい。また、それぞれのサービスに合った使い道にも触れる。より自分に合ったサービスを選ぶ際の参考にしていただければ幸いだ。
ファイル同期サービスを利用することの意義
そもそも、わざわざオンラインストレージサービスを利用する意味とは何なのだろうか。それには4つの理由が挙げられるだろう。
データの堅牢性
これらのオンラインストレージサービスでは、サーバーの設備を重複させて、万が一壊れてもデータが失われたり長期間アクセス不能になるのを防ぐ仕組みが整っている。これを“冗長化”と呼ぶが、個人ユーザーで行うのはなかなか難しく、コストもかかる。その点、オンラインストレージサービスを利用すればそんな手間を考える必要はない。
データの一元管理
複数台のPCを利用していると、ファイルがあちこちに散らばってしまうことがよくある。また、デスクトップPCで編集したファイルをノートPCで持ち出したりする場合だと、ファイルのバージョンが各PCで食い違ってしまうといったことも多い。
そんな場合でも、オンラインストレージは便利だ。どのPCを利用している場合でも、ファイルを常にオンラインストレージへ保存しておくようにすれば、ファイルが散らばってしまうこともなく、バージョンの食い違いに悩まされることもない。
データのバックアップ
本来、同期機能とバックアップ機能は概念が異なるものだ。同期では常に最新版のファイルのコピーが作成できるが、誤ってファイルを上書きしてしまった場合でも、それが反映されてしまうので、ファイルをバックアップしたとは言えない。
しかし、これらのオンラインストレージサービスにはリビジョン管理機能が備わっており、古いバージョンのファイルへアクセスすることが可能。つまり、自動で世代バックアップが行われているようなものと言える。
データへのアクセスと共有
今日提出するはずのレポート課題や、会議で利用するはずのプレゼンテーションファイルを自宅のPCに忘れてしまったといった経験はないだろうか。オンラインストレージでファイルを管理していれば、そのような失敗も防げる。
また、これらのオンラインストレージサービスでは、ファイルを一時的に公開するためのリンクを生成する機能やメールで送信する機能が備わっているので、ファイルをみんなでシェアしたいといった場合にも便利。
どれも個人ユーザーのレベルで実現できないことはないが、それなりに時間と費用がかかる。しかし、既存のオンラインストレージサービスを利用すれば、手軽に大切なデータを安全にバックアップし、どこからでも利用できるようになるわけだ。
各サービスの機能比較
まずは、それぞれのサービスの基本的なスペックを表にまとめた。今回紹介する3つのサービスは、どれもフォルダの同期機能やリビジョン管理機能、ファイルの共有機能などを備えており、容量1GB~2GBの無償プランが用意されているのも共通。しかし、無償で提供されるストレージの量やサポートする機能で細かい違いがあるのがわかる。なお、参考として下記のコラムで取り上げる「Windows Live Sync(WLS)」のスペックも併記しておいた。
- Dropbox
https://www.dropbox.com/(レビュー記事) - ZumoDrive
https://www.zumodrive.com/(レビュー記事) - SugarSync
https://www.sugarsync.com/locale/jp/(ニュース記事)
ストレージ | Dropbox | ZumoDrive | SugarSync | WLS |
---|---|---|---|---|
無償ストレージ容量 | 2GB | 1GB | 2GB | 無制限 |
(トレーニングによる追加) | 250MB | 1GB | 250MB | - |
(紹介による追加) | 最大10GBまで | - | 最大5GBまで | - |
有償ストレージ(50GB) | 9.99米ドル | 9.99米ドル | 9.99米ドル(※60GB) | - |
有償ストレージ(100GB) | 19.99米ドル | 19.99米ドル | 14.99米ドル | - |
有償ストレージ(500GB) | - | 79.99米ドル | 39.99米ドル | - |
サポートする機能 | Dropbox | ZumoDrive | SugarSync | WLS |
同期可能なPC数 | 複数 | 複数 | 2(※有償では制限なし) | 複数 |
同期可能なフォルダ数 | 1 | 1(※リンク機能で複数同期可能) | 複数 | 複数 |
任意フォルダの直接同期 | × | × | ○ | ○ |
リビジョン管理 | ○ | ○ | ○ | × |
ファイルへのリンクを送信 | ○ | ○ | ○ | × |
フォルダ共有 | ○ | ○ | ○ | × |
フォルダ共有(パスワードつき) | × | × | ○ | × |
対応状況 | Dropbox | ZumoDrive | SugarSync | WLS |
Linux対応 | ○ | ○ | × | × |
MacOS対応 | ○ | ○ | ○ | ○ |
Windows Mobile対応 | × | × | ○ | × |
iPhone対応 | ○ | ○ | ○ | × |
Android対応 | ○ | ○ | ○ | × |
日本語化 | × | ○ | ○ | ○ |
たとえば、無償で利用可能なストレージの容量だけをとれば“Dropbox”を選択するのがよいようにみえる。また、モバイル端末向けのクライアントの使いやすさで選択してもよい。
iPhone向けクライアントソフトの場合、「Drobbox」は検索やお気に入り機能でオンライン上のファイルにすばやくアクセスできるように工夫されている。一方、「ZumoDrive」ではオンライン上の音楽をアーティスト別・アルバム別に再生することが可能で、音楽や写真といったメディアの閲覧用途に向いている。「SugarSync」のクライアントはもっともユニークで、バックアップ済みのファイルへPC単位でアクセスすることが主眼になっているようだ。
なお、Android版クライアントに関しては、連載記事“杜のAndroid研究室”で詳しく紹介している。ぜひ参考にしてほしい。
- ホームサーバーを運営するユーザーなら検討したい“Windows Live Sync”
すでに常時起動しているホームサーバーを運用しているユーザーならば、“Windows Live Sync”も検討したい。
“Windows Live Sync”は、今回紹介する3つのサービスとは違い、オンラインストレージが用意されていない。複数のPCの指定したフォルダをP2Pで直接同期する仕組みで、Webサービスはその手助けをするだけだ。そのため、同期するファイルのサイズに制限がないのはうれしいところ。
ただし、Webブラウザーでファイルを管理する機能は備えておらず、モバイル端末用クライアントも用意されていない。また、バージョン管理機能も搭載していないほか、ディスクの管理は自己責任になるので十分注意を払いたい。
それぞれのオンラインストレージサービスの特長
次に、機能比較表だけではなかなか掴めない、個々のサービスの特長について簡単に紹介する。
とにかく簡単に始められる“Dropbox”
“Dropbox”は、特殊なフォルダ“My Dropbox”に作成・移動・コピーしたファイルをオンラインストレージへ自動アップロードできる。オンラインストレージへは複数のPCを紐付け可能で、紐付けられた各PCの“My Dropbox”フォルダの内容は、オンラインストレージを経由して同期される仕組み。
同期できるフォルダは“My Dropbox”のみ。しかし、それがシンプルでわかりやすい。クライアントソフトは日本語化されていないが、実用上はまったく問題ないだろう。
【使いこなし】
USBメモリなどに持ち運んで利用できる“ポータブル”なアプリケーションを、“My Dropbox”に入れて複数PCで同期すれば、どのPCからも同じソフトを利用可能。設定も共有できるほか、バージョンアップの手間も一度で済む。この利用法はほかのサービスでも実現可能だ。
また、“Dropbox”の弱点は複数フォルダを同期できないことだが、これは“シンボリックリンク”機能を利用することである程度カバーできる。マウス操作でシンボリックリンクを作成できるソフト「Link Shell Extension」の記事でも触れているので参考にしてほしい。
オンデマンドでファイルを届ける“賢い”同期が特長の“ZumoDrive”
“ZumoDrive”は、独自の仮想ドライブ(初期設定ではZドライブ)を作成し、その中へフォルダ・ファイルを保存する。仮想ドライブとオンラインストレージが同期される仕組みだ。さらに“ZumoDrive”では、既存のフォルダを仮想ドライブへ“リンク”させることで、リンクしたフォルダの内容をオンラインストレージと同期することも可能。
また、“オンデマンド”な転送に対応しているのも本サービスの特長。“Dropbox”ではフォルダ内のすべてのファイルが、同期に参加したそれぞれPCへ重複コピーされる。一方“ZumoDrive”では、とりあえずファイルの情報のみを共有したのち、状況に応じてファイル本体を転送する。
仮想ドライブにはオンラインストレージ上にあるファイルやフォルダがマッピングされるが、それは見せかけで、ファイルの実体は必要に応じてダウンロードされる仕組み。使用頻度の高いものに関しては自動でローカルへキャッシュされるほか、特定のフォルダやファイルを常にローカルへダウンロードするように手動で指定することも可能。ディスクの空き容量やネットワークの帯域幅に不安のある場合でも、それらを節約した“賢い”同期作業を行ってくれる。
【使いこなし】
“ZumoDrive”は、メディアファイルをバックアップしてモバイルPCから利用するシーンに向いている。バックアップ機能をもつ外付けドライブかNASのようなものと思えばよい。
“Dropbox”“SugarSync”の場合と違いファイルをローカルへコピーするかしないかを選べるので、ローカルPCの空き容量を節約できるほか、オンデマンドでファイルが転送されるので、同期作業でPCの動作が重くなってしまったり、ネットワーク帯域が占有されてしまうことも少ない。
多機能さでほかを圧倒、ビジネス用途にもぴったりな“SugarSync”
“SugarSync”の特長は、機能の豊富さだ。なかでも、複数フォルダを複数のPC間で同期できるのは便利。“ZumoDrive”でも、既存の複数フォルダを仮想ドライブに“リンク”させて、オンラインストレージと同期させることが可能だった。“SugarSync”ではそれに加えて、複数PCの任意フォルダ同士を直接同期させることもできる。また、“Dropbox”における“My Dropbox”や、“ZumoDrive”におけるZドライブにあたるフォルダとして“マジックブリーフケース”が用意されている。
ただし、無償利用の場合、同期できるPCが2台に限られているのは残念。所有するPCが多い場合には、ほかのサービスを利用するか、有償プランを利用することを検討したい。
そのほか、ビジネス用途のプランが設けられているのも特長。ビジネスプランでは個人向けの全機能に加え、会社単位でストレージを契約して従業員用のアカウントを発行し、それぞれにストレージの利用限度を設けるといった法人利用ならではの機能が充実している。
【使いこなし】
とにかく多機能さを求めるなら、“SugarSync”を選択すればよいだろう。ほかのサービスにできて“SugarSync”にできないことはほとんどない。
それでもあえて本ソフトならではの使い方を挙げるとすれば、Windowsの“デスクトップ”フォルダを同期するのがお勧め。とくに、日頃デスクトップへ作業中のファイルを保存しているユーザーに適しており、デスクトップPCでの作業に飽きたら、カフェにでも移り、モバイルPCで仕事の続きをするといったことも可能。仕事の場所を選ばない“ノマド(遊牧民)”的なワークスタイルにぴったりだ。
- 無償で追加容量を手に入れよう!
今回紹介したオンラインストレージサービスでは、無償で利用できるストレージが1GB~2GBに限られる。しかし、これを増やすことも可能だ。
たとえば“Dropbox”では、紹介した友人が同サービスを利用することで、双方に250MBの追加容量が加算され、最大10GBのストレージを無償で手に入れられる。また、“ZumoDrive”では与えられたミッションをこなすことで追加容量を獲得できる“道場”というトレーニングシステムが用意されている。楽しく使い方を学ぶこともできるので、ぜひチャレンジしてみよう。
最後に
以上、3つのオンラインストレージサービスを紹介したが、いかがであろうか。編集部にて試用したところ、複数サービスの併用も可能であった。用途に応じて複数サービスを組み合わせてもよいかもしれない。
なお、本稿では扱わなかったが、25GBもの容量を無償で利用できるオンラインストレージサービス“Windows Live SkyDrive”を仮想ドライブとして扱える「SDExplorer」を利用したファイルの一元管理・バックアップも有効。リビジョン管理機能は搭載していないが、25GBの大容量を無償で利用できるのはうれしいところ。
また、国産では3D画面による写真管理が可能なクライアントをもつリコー製オンラインストレージ“quanp”にも注目したい。指定フォルダ内の写真などをオンラインストレージへ無償で1GBまでバックアップできる。写真印刷サービスとの連携が充実しているのもリコーならではと言えるだろう。