ニュース
“マイクラでプログラミング教育を実践”~マイクロソフトがNPO法人と共にイベント
「Minecraft: Education Edition」や“Hour of Code”を使った取り組みを紹介
2016年12月14日 06:00
NPO法人CANVASは11日、ICT教育促進の一環としてイベント“Minecraftで始めるプログラミング”を、日本マイクロソフトと共に都内で開催した。同イベントは、大人向け体験会&トークセッションと子供向け講座の2部構成だが、本稿では前者の内容をご報告する。
日本政府は2020年度からプログラミング教育の必修化を検討しており、今後就学するお子さんはもちろん、その父兄や教育関係者は対応に追われている。このような背景から、CANVASはプログラミング教育普及の一貫として、日本マイクロソフトがICTの利活用促進やスキル習得機会を提供し、若者を包括的に支援する“YouthSpark”プログラムを通じて本イベントを開催した。
マイクラで子供たちの“こうしたい”を引き出す
日本マイクロソフトはICT教育支援施策として、教育委員会や学校と連携した「Minecraft: Education Edition」の授業実証を開始してるが、他方で通常教育以外でのプログラミング授業を、NPOや業界団体と連携して取り組んでいる。表題のイベントもその1つだ。それではイベントの内容をご報告しよう。
最初に登壇した宮城教育大学 准教授 安藤明伸氏は話の切り口として、小学生時代はJR-200ユーザーだったことを明かしている。安藤家はゲーム機と呼ばれるものを購入して貰えず、当時の“マイコン”でプログラムを学んできたという。そして中学生時代の技術教師に頼まれたエンジンの計算プログラムが高く評価されたことが、プログラムに目覚める成功体験だったと語る。
安藤氏はプログラムを“人が無意識に行動・判断している部分を明示化する”アクションに近いと聴講者である教育関係者に説明した。たとえば人へ話しかけるといった表現・意見=コンピュータープログラミングであり、プログラミングでは実際の相手とは異なり、適当に対応しても結果を見て判断・修正できるという。このようにプログラムの概念を説明しつつ、Minecraftの特徴を次のように説明した。
『Minecraftは立方体ブロックで構成された仮想空間。(安藤氏が)注目したきっかけは“自由”。何をしても怒られない場所は仮想空間ぐらいしかない。(ゲーム自体の仕組みも素晴らしいが)絶妙な(解像度の)荒さも重要。(人間型ロボットの外見や動作が人に近づくにつれ、一定の時点で好感が嫌悪感に変わる)“不気味の谷現象”も発生しないため、没入感を持って世界を楽しめる』(安藤氏)。
『レッドストーンを用いた論理回路を学びの動線とし、論理回路なども学べるが、まずは後回しにして自分の家づくりなど子供たちの“こうしたい”を引き出す』(安藤氏)仕掛けを施し、問題を解決する取り組みを教育関係者は念頭に置くべきだと、「Minecraft: Education Edition」を利用する際の留意点を説明した。
他方で課題もあると同氏は語っている。『嫌になったら壊せるなど組み立て玩具のように楽しみ、自動化といったアイディアにもつながるが、シミュレーションとしては粗い部分が多いため概念の理解に留まってしまう。また、自由すぎるため(生徒たちが)何をやっているかわかりにくい』(安藤氏)と、実際の授業で使う上で問題となりそうなポイントを並べた。最後にプログラミング的思考の重要ポイントとして、『思考はすでに身の回りにある。情報技術の概念を念頭に置き、デジタル的に考え、表現する』(安藤氏)のが重要だと述べている。
教育現場で役立つ教育版マイクラと“Hour of Code”
次に登壇したマイクロソフトディベロップメント Office開発統括部プログラムマネージャー 鵜飼佑氏は、2016年5月から11月までの5カ月間、米Microsoftに在籍して「Minecraft: Education Edition」のプロデューサーを務めていた。メンバーには実際の教員も参加し、アプリケーションの機能を管理するプロダクトマネージャーは同氏を含めて3人。『メンバーの半分は学校の教員など教育関係者。現場の声を直接フィードバックしてもらうことが重要だった』(鵜飼氏)という。
ここで「Minecraft: Education Edition」に関して簡単に説明しておこう。既存の機能を削らずに、教師や生徒が授業などで使いやすく再設計したのが「Minecraft: Education Edition」だ。学校内のLANで動作することを前提とし、教員用授業進行コンソールや生徒の活動範囲設定、生徒へのブロック一斉配布機能など備える。
また、授業を円滑に進めるため、カメラとポートフォリオによる学習記録機能やNPCを利用した生徒へのアナウンス機能も新たに用意した。価格は教員あたり120円/月(ボリュームライセンス参考価格。所属教員分を購入することで生徒は無償利用可能)。日本マイクロソフトはすでに教育委員会や学校との連携し、2016年12月から全国42校による実証実験を始めている。
続いて鵜飼氏は“Hour of Code”の新たな取り組みを説明した。こちらは米国でプログラミング教育を推進するNPOのCode.orgが、MicrosoftやDisneyと提携し、プログラミングの教材を提供するプロジェクトである。数年前から日本マイクロソフトも積極的に取り組んでいるため、他誌などで動向をご存じの読者諸氏も少なくないだろう。
今回紹介されたプログラミング教材「Minecraftデザイナー」は、前作「Minecraftアドベンチャー」の反省点を活かし、生徒が選べる選択肢を増やして設問の内容を理解することで自由な方法で解決できる。さらにチュートリアルを終えると、羊やゾンビなどMinecraftのキャラクターを自由にプログラミングし、1つの世界を作り上げられる。文字どおりキャラクターの動きを“デザイン”するプログラミング教材となっている。
説明を聞き終えた教育関係者は、スタッフのアドバイスに耳を傾けながら、チュートリアルにチャレンジしていた。あくまでも筆者の私見だが、パズルを解くようにサクサクと解いていく方もいれば、操作方法に戸惑うなど反応はさまざまだが、その表情は真剣。まるで子供たちのようであった。
また、参加者が作ったデモンストレーションも披露された。『(“Hour of Code”は)世界中で利用されている。プログラミング教育を広めるために利用してほしい』(鵜飼氏)と利用をうながしていた。
本イベントの開催に対して日本マイクロソフトの関係者は、道具を用意してもそのままでは浸透しないため、ICT教育に用いる道具を教育関係者に使ってもらうための調整役を担い、2020年度のプログラミング教育必修化を迎えたい、と筆者に説明。別の関係者もプログラミング教育の必修化に向けた準備期間は短いと語っている。2020年に迫るその日に向けて、このような取り組みが行われるのは、開発者育成という側面はもちろん、就学時から論理的思考を身に付け、多方面に活躍する未来の日本を支える若者育成に大きく貢献するはずだ。
スウェーデン大使館主催のMinecraftコンペでは小学4年生が優勝
奇しくも“Minecraftで始めるプログラミング”の前日となる10日には、スウェーデン大使館主催で“つくろうみんなの未来都市コンペティション in Minecraft”が開催されていた。こちらはMinecraftがスウェーデン生まれのPCゲームであることから、同大使館が小学4年生から中学3年生のグループを対象に、サステナブル(持続可能)な街を作成して競い合うというもの。事前の129組365名による申し込みから選考した29組100名がプレゼンテーションに挑んだ。
結果は都内区立小学校の小学4年生5名が集まって感圧板による発電システムや、レッドストーンブロックなどを使って節電システムをMinecraft内に再現した“KIZUNA5”が優勝。選考理由は『技術的にユニークかつ人と動物がエネルギーを生産している。類似したチームは他にもあるが、今回は最年少グループを選んだ』(マグヌス・ローバック大使)とのこと。日本マイクロソフト 執行役員 常務 パブリックセクター担当 兼 Windowsクラスルーム協議会 理事長 織田浩義氏も『ワクワクしながら創造的な発想で学べるのは教育の理想的な姿だ』と感想を寄せていた。
窓の杜をいいね・フォローして最新記事をチェック!
Follow @madonomori