杜のVR部
第53回
スマホだけで今、世界で起きているコトを“体験”できる「NYT VR」
パリ同時テロの追悼の様子や家を失った世界の3地域の子供達の生活など
(2015/12/8 18:38)
この連載では“杜のVR部”と銘打って、VRのコンテンツを紹介している。ゲームの紹介が比較的多くなっているが、VRの可能性はゲームにとどまるものではない。
特に海外では、360度の映像作品を使った取り組みが多い。360度カメラで現実に起きていることを撮影した実写のVRコンテンツは、VRデバイスを問わず次々と登場している。
なぜ360度の実写VRコンテンツが増えているのかというと、VRが“体験”を可能にするからにほかならない。たとえば世界中のスポットを360度撮影することで、家に居ながらにして南極でもエベレストの頂上でも、はたまた紛争地帯でも、世界のどこへでも擬似的に“行く”ことが可能になる。
この特徴を使って、普段体験し得ない場所を撮影するコンテンツが既に多く作られている。そしてさらに、海外ではある一つの分野で活用され始めている。
それが、ジャーナリズムだ。
ジャーナリズムの課題の一つは、世界の遠く離れた場所で起こっている出来事をいかにリアルに伝えるかということ。その伝える方法として“体験”、つまりVRがあるのではないかということでコンテンツの制作が行われている。今回はアメリカの新聞『ニューヨーク・タイムズ』紙が11月に開始した取り組みを紹介しよう。
世界で起きていることを360度で体験する
ニューヨーク・タイムズは11月に、iOS、Android向けに「NYT VR」という無料のアプリを配信した。このアプリにはいくつかの360度映像が収められており、スマホ用のVRデバイスを使って体験することができる。使用するデバイスは、ハコスコやGoogle Cardboardなどの簡易なものだ。
100万世帯以上いると言われているニューヨーク・タイムズの購読者には、コンテンツを楽しむためにGoogle Cardboardが週末号とともに配布された。実際のところ、デバイスがなくてもスマホのままで体験できる。
アプリを起動するとメニューが開き、視聴するコンテンツを選ぶ。すべて英語だが、“Vigils in Paris”(パリでの追悼)や“The Displaced”(家を失った子どもたち)など、扉の写真とタイトルだけでもなんとなく伝わってくるかもしれない。
なお、体験する際はコンテンツをダウンロードしなければならない。ものによってはサイズが大きいのでWi-Fi環境下でのダウンロードをお勧めする。
そして、体験方法を選択すると体験がスタートする。Google Cardboardやハコスコ タタミ2眼など、レンズが2つ付いている二眼のデバイスで体験する場合は左を、スマートフォンのみやハコスコの一眼モデルを持っている場合は右を選ぼう。
コンテンツは、しっかりと編集された360度動画だ。ナレーションや登場人物の肉声が収められ、シーンもテンポよく切り替わっていく。ぜひ360度を見渡しながら視聴してみてほしい。音声はすべて英語なので理解できないこともあると思うが、映像だけでも十分インパクトのあるものだ。
体験した際は、ぜひ通常のテレビなどの平面のモニターで見るドキュメンタリーとの違いにも注目していただきたい。もしかしたら平面モニターとの違いをあまり感じないか、イマイチという感想もあるかもしれない。筆者に関して言えば、その場にいる感覚が強いVRだからこそ、その場の雰囲気をより強く感じた。
たとえば、11月に起こったパリ同時テロの追悼の様子を伝える“Vigil in Paris”では、人々がテロの犠牲者に祈っているシーンで非常に厳かな気持ちになり、手を合わせたくなる。これまで平面の映像を見てそこまでの気持ちになったことはなく、VRのメディアとしての強さを感じた瞬間だった。
課題はまだまだある。たとえばもう少し解像度の高い鮮明な画質のほうがいいだろうし、欲張ってしまえば撮影時にただの360度動画ではなく立体視が可能な、まさにVR動画として撮影したほうがVRで体験した時に立体的に見えて望ましい。
しかし、これまでの視聴から進化し、VRによって“体験”が可能になった。その魅力は非常に大きなものだ。今後ジャーナリズムにおけるVRの活用は一層進んでいくことを感じさせられる。
ソフトウェア情報
- 「NYT VR」Android版
- 【著作権者】
- The New York Times Company
- 【対応OS】
- Android 4.3以降
- 【ソフト種別】
- フリーソフト
- 【バージョン】
- 1.0(15/11/10)
- 「NYT VR」iOS版
- 【著作権者】
- The New York Times Company
- 【対応OS】
- iOS 8.0以降
- 【ソフト種別】
- フリーソフト
- 【バージョン】
- 1.2(15/11/14)