使ってわかるCopilot+ PC

第110回

Windows Updateに現れた「Windows ML QNN 更新」とは何か?

AI処理の性能を決める実行プロバイダーを理解しよう

Windows Updateで8月のプレビューパッチを適用している画面

Windows UpdateにWindows MLの文字が出現

 「Snapdragon X Plus」を搭載したCopilot+ PCで、8月のプレビューパッチを適用したところ、「Windows ML QNN 更新(KB5123777)」というアップデートも一緒に提供された。

 Windows MLについては、本連載でも以前解説している。当時は一般ユーザーからは存在感が薄かったが、今後は目にする機会が増えてくるのだろう。

 ただ、「Windows ML QNN 更新」と言われて、それがいったい何なのか、ユーザーにとって何のメリットがあるのか、わからなくて気持ち悪いと感じる方もいらっしゃるだろう。筆者も具体的に何がアップデートされているのか気になったので、調べてみることにした。

Qualcomm QNN 実行プロバイダーとは?

 「KB5123777」については、マイクロソフトの公式サイトに情報が掲載されている|n|@@。この中でアップデートの内容に関する部分は、概要に書かれている。

この Qualcomm QNN 実行プロバイダーの更新プログラムには、Windows 11 バージョン 24H2 および Windows 11 バージョン 25H2 用の Qualcomm QNN 実行プロバイダー AI コンポーネントの改善が含まれています。

KB5123777: Qualcomm QNN 実行プロバイダーの更新プログラム (2.2608.0.0)より引用

 これだけしか情報がないのだが、何が行われたのか紐解いていこう。

 最初に『Qualcomm QNN 実行プロバイダー』が何であるかを理解しておく必要がある。実行プロバイダーは、以前の記事でお話ししたExecution Provider(EP)のことだ。AIモデルを動かす際に、NPUやGPU、CPUのどれをどう使って実行するかをコントロールし、仲介するプラグインだ。

EPとプロセッサーの関係

 QNN EPはQualcommプラットフォーム向けのEPのこと。つまり「KB5123777」は、Qualcomm QNN 実行プロバイダーの最新版へのアップデートということになる。IntelやAMD、NVIDIAのプラットフォームに対応するEPも適宜アップデートが行われており、8月はQualcommとIntelでEPのアップデートがあった

 QNN EPのアップデートは、以前はONNX Runtimeと静的リンクされていたが、5月にプラグインライブラリとしてロードする方法に変更された。これによってQNN EP単体のアップデートが可能になり、今回のようにWindows UpdateでQNN EPだけのアップデートが提供されるようになったようだ。

EPが更新されると何が起こる?

 では今回のアップデートで何が変わるのかだが、これは詳細なアップデート内容が明かされていないので、具体的な内容は不明だ。更新されたQNN EPのバージョンは「2.2608.0.0」と書かれており、これをもとにQualcommのWebサイトの更新情報を見てみたが、適合する情報は見当たらなかった。

 そのため今回何が変わったかという話はできないが、一般論としてEPが更新されるとどんなことが起こりうるのか、という話をしておく。

 まずはNPUで実行できるAI処理が増える可能性がある。Windows ML(ONNX Runtime)では、プラットフォームを問わずAIプログラムを書き、ONNX形式のAIモデルを呼び出して動かす。実行するPCがQualcommプラットフォームなら、QNN EPが仲介して、NPUやGPU、CPUに適切に処理を振り分ける。

 この時、NPUでは対応できない処理がある場合は、CPUに振り分けられる。NPUの方が高速あるいは低消費電力で処理できる可能性があるのに、CPUで非効率的な処理を強いられる格好になる。

 しかしQNN EPが更新されて、NPUで対応できる処理が増えれば、CPUに任せる処理が減って、効率が上がる。EPの更新によって、NPU使用率が上がる可能性があるということだ。またNPUでの処理そのものも効率化され、高速化される可能性もある。

 ほかにもAIモデルの量子化処理の改善によってLLMや画像生成が高速化されたり、メモリ使用量や消費電力が削減されたりといった改善もあり得る。あとは想定外の動作に対するバグ修正なども合わせて行われる。

 EPの出来によって、そのプラットフォームのAI処理の性能は変わる。グラフィックス処理におけるグラフィックスドライバーの出来の良し悪しと、表面的には同じような話だ。QualcommはQNN EPの更新をWindows Updateで適用しやすくなったので、今後はより素早く改善が進んでいくかもしれない。

 EPの更新でユーザーが体感できる部分は多くないかもしれないが、AI処理においては地味ながら重要だということは覚えておいていただきたい。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜で連載『石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』』(AKIBA PC Hotline!に移動)、『使ってわかるCopilot+ PC』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/