柳谷智宣のAI ウォッチ!
ついに来たミュトス級AI「Claude Fable 5」について、いま知っておくべきこと
強力すぎるモデルをサブスクで触れられるのは6月22日まで![特別編]
2026年6月11日 09:00
ついに誰でも使える最強モデル「Claude Fable 5」登場。実力と「安全装置」の中身を解説する
著:Claude Fable 5
6月9日(米国時間)、Anthropicが新AIモデル「Claude Fable 5」をリリースした。同社のモデルといえば、最高性能の「Opus」、バランス型の「Sonnet」、軽量・高速の「Haiku」という3階層でおなじみだったが、Fable 5はそのさらに上、「Mythosクラス」と呼ばれる新設の最上位ティアに位置付けられる。Anthropicが一般提供するモデルとしては史上最高の能力を持つという。
ただし、今回の目玉は性能だけではない。Fable 5は、強力すぎるがゆえに一部のパートナー企業にしか提供されていなかったモデルに「安全装置」を組み込み、ようやく一般公開にこぎつけたという、いわくつきのモデルなのだ。今回は、Fable 5の実力と保護機能の仕組み、料金や利用方法について解説する。
「Opusの上」に新設されたMythosクラスとは何か
経緯から説明しよう。2026年4月、Anthropicは「Project Glasswing」という取り組みを開始した。Mythosクラス初のモデル「Claude Mythos Preview」を、米政府と連携しつつ、サイバー防御の専門家や重要インフラ企業などの限られたパートナーだけに提供するというものだ。世界最高峰のサイバーセキュリティ能力を持つモデルは、防御側の手に渡れば強力な武器になるが、攻撃者に渡れば深刻な被害をもたらしかねない。だからこそ、一般公開を見送っていたのだ。
今回のFable 5は、このMythos級モデルを誰でも使える形に仕立て直したものとなる。同時発表された「Claude Mythos 5」とFable 5は、中身はまったく同じモデルで、違いは保護機能の有無だけ。例えるなら、同じエンジンを積んだサーキット専用車と、リミッター付きの市販車の関係だ。Mythos 5は引き続きGlasswingパートナー限定で、今後は信頼できる研究機関などに段階的に開放されるという。
ちなみに、Fableという名前はラテン語の「fabula(語られるもの)」に由来し、ギリシャ語の「mythos」と同源の言葉。中身が同じで保護機能だけが異なる2つのモデルに、意味の近い別言語の名前を当てたというわけだ。
コーディングも画像認識も「Opus超え」。長いタスクほど差が開く
肝心の実力を見ていこう。Anthropicによると、Fable 5はソフトウェア開発、ナレッジワーク、画像認識、科学研究など、テストしたほぼすべてのベンチマークで最高水準(SOTA)を達成しており、タスクが長く複雑になるほど従来モデルとの差が開くという。
数字のインパクトが大きいのはコーディング分野だ。難易度の高いソフトウェア開発タスクを測る「SWE-bench Pro」では80.3%を記録し、OpenAIのGPT-5.5の58.6%%を大きく引き離した。先行テストした決済大手のStripeは、5,000万行のRubyコードベース全体の移行作業をFable 5が1日でやり遂げたと報告している。人間のチームなら2カ月以上かかる作業だというから、数カ月分のエンジニアリングが数日に圧縮された計算になる。
画像認識の進化を示すデモも面白い。旧モデルは地図やゲーム内部の情報を渡す補助ツールを組み合わせてもゲーム「ポケットモンスター ファイアレッド」のクリアに苦戦していたが、Fable 5はゲーム画面のスクリーンショットを見るだけで、最初から最後までクリアしてしまった。スクリーンショットからWebアプリのソースコードを丸ごと再現するといった芸当もこなすという。
また、数百万トークン規模の長時間タスクでも集中力を保ち、自分で取ったメモを活用して成果を改善していくのも特徴だ。デッキ構築型ゲーム「Slay the Spire」をプレイさせた実験では、ファイルベースの記憶を与えたときの性能向上幅がOpus 4.8の3倍にもなった。金融分野の推論力を測るHebbiaのベンチマークでも全モデル中トップを記録しており、コーディング専用ではなく、資料分析のような知的作業全般が強化されている。
賢さの代償。「危険な質問」はOpus 4.8が肩代わりする安全装置
ここまで読むと夢のようなモデルだが、賢さには代償が伴う。サイバー攻撃に悪用されれば深刻な被害につながりかねないし、生物学・化学の高度な知識は創薬を加速する一方で危険物の設計にも転用できてしまう。いわゆるデュアルユース(軍民両用)の問題だ。
そこでFable 5には「分類器(クラシファイア)」と呼ばれる別のAIが常時監視役として付いている。サイバーセキュリティ、生物・化学、モデルの蒸留(AIの能力を抽出して競合モデルを訓練する行為)に関わるリクエストを検知すると、Fable 5の代わりに一段下のモデル「Claude Opus 4.8」が応答する仕組みだ。切り替えが起きた際はユーザーに通知される。門前払いの「回答拒否」ではなく、十分高性能なOpus 4.8への「フォールバック」で済ませるあたりが現実的な落としどころといえる。
Anthropicによると、フォールバックが発生するセッションは全体の5%未満。つまり95%以上のセッションでは、Fable 5は保護機能なしのMythos 5と事実上同じ性能を発揮する。外部機関も交えた1,000時間超のレッドチームテストでは、保護機能を無効化する「万能ジェイルブレイク」は見つからなかったという。一方で、安全側に倒した設計のため、無害なリクエストまで誤検知することがある点は同社も認めており、今後のアップデートで誤検知を減らしていくとしている。
もう1つ、ビジネス利用で押さえておきたいのが新しいデータ保持ポリシーだ。Mythosクラスのモデルでは、悪用検知のためにすべてのトラフィックが30日間保持される。学習には使われず、30日後に削除されるとはいえ、扱う情報によっては社内ルールとの整合性を確認しておきたいところだ。
6月22日までは追加料金なしで使い放題。試すなら今しかない
気になる料金を確認しよう。API経由では「claude-fable-5」のモデル名で本日から全面提供されており、価格は入力100万トークンあたり10米ドル、出力100万トークンあたり50米ドル。Mythos Previewの半額以下になったとはいえ、主要AIモデルの中では最高価格帯だ。
一方、個人ユーザーに朗報なのがサブスクリプションプランでの扱いだ。Pro/Max/Team/Enterpriseの各プランでは、6月22日までFable 5を追加料金なしで利用できる。6月23日以降は利用クレジットの購入が必要になるが、サーバー容量が確保でき次第、標準機能として組み込むことを目指すという。需要が読めないための段階的提供とのことなので、Mythos級の実力を無料枠で体感できる今の2週間は、またとないチャンスといえる。
使い方は簡単で、Claudeのモデル選択メニューから「Fable 5」を選ぶだけ。まずは、普段の仕事でいちばん重いタスクをぶつけてみるのがおすすめだ。大量の資料を渡しての横断分析、長大なコードのリファクタリング、複数ステップのエージェント作業など、これまでのモデルが息切れしていた領域ほど差を体感しやすいはず。
「強力すぎて出せない」と言われていたモデルが、安全装置とセットで一般公開される。今回のリリースは、フロンティアAIの普及が新しい段階に入ったことを示す出来事だ。各社の最上位モデル競争は今後さらに激しくなるだろうが、まずはこの2週間、ぜひMythos級の賢さを自分の手で確かめてみてほしい。




















