ニュース
メタバースでDellが発表会を開催したので散策してみた ~小規模であれば導入は楽?
まだ話題性に依存している印象。訴求力向上には見せ方や伝え方が重要
2022年4月22日 10:55
Dell Technologiesは4月19日、「XPS 13」の新規ラインナップである「XPS 13 Plus」を仮想空間で発表した。
「XPS 13 Plus」は余分をそぎ落とし、ストイックながらもデザイン性を維持した意欲的なモデルとなっている。製品について詳しくはPC Watchを見てもらうとして、本稿では仮想空間における発表会について触れていく。
コロナ禍以降、オンラインによる発表会や展示会はごくごく当たり前になった。
YouTubeやWebサイトが主だが、2021年以降は仮想空間を利用した発表会や展示会も登場している。見て回るにしても、出展するにしても、3Dモデルなどの情報とセットで映像などの要素も出せる点でいえば、仮想空間利用はなにかと都合がいい。また要求環境もノートPCやスマホのWebブラウザーで済むことが多く、いずれから見てもハードルは低めといえるだろう。
「バーチャル空間で実機を体験できる」?
2022年に入ってから、1日に1回は「メタバース」を見聞きするようになった。Dellからの発表会案内も同様だったが、キャッチとしてメタバースを採用するも、具体的な記述になるとバーチャル空間と記されており、扱いは定まっていないようだ。試験的なアクションとも取れるが「バーチャル空間で実機を体験できる」の一文が気になり、本稿に至っている。
発表会や展示会に参加する視点でいえば、登壇する人物のトークも大事だが、物も重要だ。質感がどうか、操作フィールはどうか、手にしたときのインプレッションはどうか、キープレスはどうか、物理重心から逆算しての保持位置はどこか、雑なチェックレベルでの堅牢性はどうか、ハンズオンの最中に説明員はどこをガン見しているかなどなど。
チェックはライターによって異なっており、短時間であろうが最低でも50項目は実施していると思われる。これは五感を伴うメリットだが、仮想空間の場合はそうもいかない。もちろん、現時点で普及している技術的な問題もあるが、ふわふわした表現で記すといまのところ「肌感」がない。
Webブラウザーだけで参加できる手軽さ
といったことを踏まえて、Dellの発表会を見ていこう。推奨環境は「Google Chrome」とあるだけで、具体的なPCスペックついての事前案内はなかった。バーチャルイベントの多くは、専用アプリケーションをインストールしなくても済むようになっている。
PCでもスマホでもWebブラウザーで、そのURLにアクセスすればよく、たとえば、NTTが展開するXRプラットフォーム「DOOR」もそのひとつだ。今回のDellの発表会の具体的な仕様は不明だが、A-Frameなどのフレームワークを用いたものだろう。
下に掲載したスクリーンショットを見てもわかるが、ここ最近のノートPCであれば過不足なく体験できるレベルの3Dグラフィックスだ。またVRMに対応しているかもと対外向けアバターその1を用意したが、仮想空間に入った時点でDellなアバターだった。
視点は強制的に三人称視点で、少しゲームに触れたことがあれば、戸惑わないだろう。ゲームに触れてない人であっても、比較的、どこへ移動しようとしているのか把握しやすく、それゆえに三人称視点だと思われる。ただ自分が操作するアバターと、他のアバターの見た目や色が同じであり、区別が難しくもある。色だけでも変更すべきだろう。
展示の導線は良好、しかし……
透明な壁が邪魔をして立ち入れない展示区域に、強引に入れないかなぁと壁にアバターをぶつけている間にトークセッションが終わり、展示区域がオープンした。
店舗のような展示形式になっており、点滅する床にアバターが移動すると追加情報が表示される仕組みだった。とくに説明がなくても「なんかあるのか」となりやすく、導線として良好。また1度体験してもらえれば、以降の導線が組みやすく、一連のシステムや技術展示などを見せたい場合にもよさそうだ。
ただ肝心の「XPS 13 Plus」を大きく見られるかといえば、そうではなかった。三人称視点のままで、「XPS 13 Plus」の前に立ったら一人称視点になるといった処理もなかった。
そのため、細かい部分はどうなのかといったチェックは、三人称視点時のカメラから見て大きく表示できる位置にアバターを動かし、微妙にカメラを動かす方法となる(変なところでゲームのカワイイNPCの細部を念入りにチェックするときのお作法が活きるものだ)。
3Dモデルを大きく表示できれば雰囲気を知るには十分
少し厳しく触れたが、これは主目的が「最近、メタバースが話題だ」に偏っていたからだろう。導入が楽な分、ありがちなエラーだし、今後この手の機会損失は多発するだろう。「製品を見せたい」のであれば、そのときだけ一人称視点でカメラを自由に動かせたり、ぐりぐりと動かせる「XPS 13 Plus」の3Dモデルを表示させたりできたはずだ。単に「XPS 13 Plus」をやたらと大きくするだけでもよかっただろう。
コストが劇的に増えるわけでもないため、物を取り扱う場合はピンポイントでよく知ってもらえるであろう手段を投じておくと、それだけでもイメージは大きくよい方向に進むハズだ。
まだまだ触れる要素はあるのだが、盛大に脱線しそうなので話を戻そう。
強引に大きく表示した状態の「XPS 13 Plus」は、高精細ではないものの、雰囲気を知るには十分。意見が分かれるところだが、高精細なソースでなくとも、雰囲気が分かればよく、視覚以外を必要する要素の補足データがあれば、訴求力は高まる。
今回の場合は、好きな角度から見られれば、視覚レベルでわかりにくいところは担当者に質問を送るとなっていただろう。贅沢をいえば、下記のような表示状態で諸情報がオーバーレイされると、チェックがはかどる。
雰囲気を知るだけなら、条件付きで問題ナシだった。いずれは、触覚や味覚、嗅覚もとなるだろうが、視覚と聴覚だけの状態でも見せ方次第になる。2022年4月時点からすると、箱の導入自体は一気にお手軽になっており、最新の技術や概念にも積極的といったアピールをするだけならば、今回のような展示方法でいい。そこから先、訴求までも考えると見せ方や伝え方はより重要になってくるのは、物理展示会と同様だ。
これまで類似の展示をいくつも見てきたが、総じて現実世界にとらわれすぎている感があった。技術的にまだ難しいところが多々あるため、物理法則などを無視できる仮想空間ならではの武器を選べないものかと感じるばかりだ。また散策日記をお送りできればと思う。
林 佑樹
フリーランスの企画・編集・ライター・カメラマンをしつつ、最近はクローズド有料メディアでいろいろしている。「メタバースで何かやれ」だけのカードを振られた話をよく聴く今日この頃。