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KDDIなどが「仮想都市のガイドライン」を策定 ~ユーザーによる創作活動や実在都市との連携なども視野に
渋谷区公認 「バーチャル渋谷」の実績がベース
2022年4月26日 11:38
バーチャルシティコンソーシアムは4月22日、都市連動型メタバースの発展に向けた「バーチャルシティガイドライン ver.1」を策定したと発表。KDDIや東急、みずほリサーチ&テクノロジーズ、一般社団法人渋谷未来デザインで構成されている。
中馬氏は、都市連動型メタバースの設立や運用時の注意点や検討項目を明文化するとともに、行動指針となる「バーチャルシティ宣言」も発表。「利用者や利害関係者、プラットフォーム提供者が、安心安全に活用できる空間を目指す」としている。
ユーザー主体の創作活動や実在都市との連携を視野に議論が展開
メタバースおよび都市連動型メタバースを対象とし、アバターを活用した利用者同士のコミュニケーションやユーザー主体での創作活動、実在都市との連携した経済活動の発展を視野に入れて議論を行い、最初のガイドラインとしてまとめたという。
メタバース全般項目としては、「クリエイターエコノミーの活性化」「UGC (User Generated Contents) の著作権」「データ・デジタルアセットの所有権」「アバターの肖像権とパブリシティ権」などに触れている。
「クリエイターエコノミーの活性化」では、都市連動型メタバースの中心になるのはユーザーとクリエイターであるとし、クリエイターの権利と保護のためにはブロックチェーン技術をはじめとした非中央集権化した分散技術の活用が重要になるとしたほか、ユーザーの自治によって運営し、オープンガバナンスの仕組みを用意することが望ましいとした。
「UGC (User Generated Contents) の著作権」では、UGCの権利が各ユーザーに帰属し、二次創作を促す場合には利用規約上の整備のほか、オープンライセンスの付与、確認が容易に行えるようにすることが大切であるとした。「二次創作は重要なものであり、いわば、デジタルのメルカリの世界を作りたい」と述べた。
「データ・デジタルアセットの所有権」では、現行法ではデータやデジタルアセットの所有権が保護されていないことを指摘。ブロックチェーン技術を活用したNFTの活用を提案しており、「デジタルに所有権があることを定義することが、メタバース実現の1丁目1番地になる。アニメなどで先行する日本が、世界に先駆けてやっていくことが大切である」とした。
「アバターの肖像権とパブリシティ権」としては、メタバースが発展するに従い、そこで生活するアバターの肖像権を認めたり、メタバースで有名なアバターにはパブリシティ権が発生したりすることを想定。デジタル経済圏として発展した際には、肖像権などに関する問題が顕在化するために、いまから検討しておくことが大切だと述べている。
また、都市連動型メタバース項目としては、「実在都市の景観の再現性・改変」「公共性の考え方」「実在都市との連携・商流の整理」について示している。
「実在都市の景観の再現性・改変」は現行法では、景観の再現などについては、住民合意は必要としていないが、メタバースは、経済圏として利用することになるため、自治体や地域団体との関係性維持が重要であり、「公共性の考え方」については、メタバースそのものが公共性を持つことを前提として捉え、実在する自治体や地域の活動が実施しやすいように設計することを提案。物理理環境と仮想環境が相互に流通する仕組みやビジネスモデルに対しても、運営側から能動的に提案していく必要があるとした。
渋谷区公認 「バーチャル渋谷」の実績をベースに、ガイドラインを策定
「バーチャルシティ宣言」では、都市連動型メタバースの存在意義や、ガイドライン策定において重要視する行動規範や考え方の指針になると位置づけ、次の7項目をあげた。
さらに中馬氏は、「今後、日本がメタバースで世界一になることを目指したい。そのために、整理すべき項目をフレームワークとして、ガイドラインにまとめた。提起した課題に対する具体的な対策づくりに着手し、2022年にはこれを提言に高めていきたい。それにより、『バーチャルシティガイドライン ver.2』を策定することになる。英語版も出していきたい」と意気込みを述べた。
「ver.1」で未整理となっているプライバシーや利用者権利の保護、メタバース間の相互運用性の確保、他都市での適応に向けた整理などを継続して議論するほか、2022年3月に設立した一般社団法人Metaverse Japanとも連携。行政や自治体、民間企業などが進めるルールメイクの議論にも積極的に参加するという。
今回のガイドラインは、都市連動型メタバースである「バーチャル渋谷」の運用や、そこで得られた知見をベースに検討を進めたという。「バーチャル渋谷」は、コロナ禍の2020年5月にスタートし、累計100万人以上が体験した渋谷区公認の配信プラットフォーム。ガイドラインの策定には、「バーチャル渋谷」の運営や実在都市のまちづくり活動に携わる事業者や、専門家が議論に参加。この成果を「バーチャル渋谷」に反映するとともに、メタバース関連事業者に対する活用の提案を行っていくという。
中馬氏は「バーチャル渋谷」という実践例があったことから、机上の空論ではなく、具体的な課題を抽出しながら、目指すべき方向について議論ができたとし、「これまでにも、いずれも公認を前提として、渋谷、原宿、大阪で都市連動型メタバースを実現してきた」と述べた。だが、その他の地域でも同様に都市連動型メタバースを提案したが、自治体の意見や、商店街の複数の団体の意見がまとまらずに、公認されなかった例も多々あるという。
ガイドラインを策定したバーチャルシティコンソーシアムは、2021年11月に設立。代表幹事にはKDDI事業創造本部の中馬和彦副本部長が就いた。アドバイザリーボードとして、デジタルハリウッド大学の杉山知之学長、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 主幹研究員/教授/博士の渡辺智暁氏、SAKURA法律事務所の道下剣志郎弁護士、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師の川本大功氏(KDDI)が参加。経済産業省商務情報政策局コンテンツ産業課と、バーチャルシティの取り組みで実績を持つ渋谷区がオブザーバーとして参加している。
梶浦氏は、「東急はガイドライン策定作業の実務的なところに関わった。これまで培ってきた渋谷をはじめとする実在都市での街づくり活動の考え方をステートメントやガイドラインに盛り込むことができた。今後も新たな実在都市とつなぐことに取り組みたい」とした。
また片田氏は、「事務局支援とルールづくりに携わった。バーチャルの世界は、リアルの街との連動により、経済が伸びるきっかけになる。ルールが適正な競争環境を生むことになる。経済を伸ばすためには、ルールづくりが必要である」とコメント。
続けて長田氏は、「渋谷の街を実証実験のフィ―ルドとして活用してきた経緯があり、それをもとに課題を議論し、使ってもらえる形でアウトプットしていきたい。多くの人にガイドラインを参照してもらい、次の街の可能性を追求したり、メタバースによる新しい世界を考えたりしてもらいたい」と述べた。
さらに道下氏は、現実世界とは異なるメタバースやバーチナルシティの空間、でどんな法律問題が発生するのか、新たな分野の法律問題をどう考えていくのかということを提言。「将来的には、仮想空間ではどこの国の法律が適用されるのかという話も出てくるだろう。今回の議論は世界のメタバースを考えていく上で重要なきっかけになる」と述べている。
上田氏は、都市連動型メタバースの顧客体験は政府のデジタル田園都市構想にも沿うものとみている。「経産省では2021年7月に、仮想空間に参入する事業者を対象にした法的課題を調査する事業を開始。自民党や議員連盟でもメタバースの議論は盛り上がっており、今後、メタバースの課題や支援についての議論が進められることになる」とした上で、様々な課題があると考えられるが、政府としても制度的な課題への対応、自治体の特色を生かした都市連動の姿の追求などを支援しながら、日本全体でメタバースを協調領域に捉え、世界に向けた勝ち筋を検討していきたいと述べた。
Web3の拡大とメタバースの融合が生み出す未来予想図
メタバースは、インターネット上に構成される仮想空間で生活したり、経済活動を行えるものだ。2007年には、リンデンラボのセカンドライフが注目を集めたものの、PCのスペックやインターネット環境が十分ではなく、一時的なブームに終わった経緯がある。
中馬氏は、世界的なパンデミックをきっかけに在宅期間が増え、外出が制限された学生たちは、ゲームを通じてコミュニケーションを図り、これが一般化している。まるで、部活の帰りに、コンビニの前に集まってアイスを食べながら話をしているというシーンに近い。コロナ禍では、友人との井戸端会議のようなコミュニケーションにネットを利用する用途を生んだ。こうした期待から、メタバースの動きが顕在化してきたという。
続けて「トークンやNFTなどのブロックチェーン技術を活用したWeb3が広がり、複数のメタバース空間を行き来しながら、アイテムを売買できる環境が生まれ、オープンな経済圏として確立しようとしている」と述べた。Web3とメタバースの融合が新たな動きを加速しており、近い将来には、メタバースで過ごす時間が、リアルの活動時間を上回ると想定しているという。
バーチャルシティコンソーシアムでは、セカンドライフのブームを「ビフォアメタバース」、バーチャル渋谷やSNS化したオンラインゲームを活用した新たなコミュニケーションの時代を「プレメタバース」、そして、Web3と組み合わせた世界を「メタバース」と分類。「メタバース」の世界では、3Dのアバターによるコミュニケーションと、Web3との組み合わせによる経済活動の実現によって、リアルに近い世界が誕生し、デジタルコンテンツがより価値を持ち、消費活動もデジタルコンテンツに移行。デジタル上でのアイテム所有などが増加すると見ている。
なお今回のガイドラインでは、メタバースの定義として「マルチデバイスから、恒常的にアクセスできること」「3次元の空間で構成された仮想環境であること」「操作可能な分身(アバター)が存在し、アバターを用いて仮想環境内で活動できること」「リアルタイムの相互作用性を持つこと」「超多人数が同時接続し、仮想環境を共有することができること」「別の仮想環境との相互運用性があること」「仮想環境内で自律的経済圏が存在すること」をあげている。