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3Dモデルを作って儲かる? メタバースの今と未来を3Dモデル制作者らが語る

東京ゲームショウ2021 TGSフォーラム講演レポート

 9月30日から10月3日の4日間に渡って開催されている東京ゲームショウ2021。例年は幕張メッセで実施される世界最大級のゲームイベントだが、コロナ禍の影響を受け、昨年に続きオンラインでの開催となった(今年は一部の出展社のみ、プレス向けの展示を幕張メッセで実施している)。

 東京ゲームショウに合わせて開催されているゲーム業界関係向けの講演プログラム「TGSフォーラム」も、今年はオンラインでのアーカイブ配信のみ。この中の主催者セミナーとして、「メタバース新章 ~新たな”社会”となったゲームとクリエーターが生み出す世界~」と題した講演が用意された。

 講演ではメタバースを切り口に、3Dモデルの制作や販売、市場の状況が語られた。また3Dモデルの制作者も招かれ、実体験を語る場面もあった。

メタバースの定義と可能性

 講演の登壇者は、Shiftall代表取締役CEOの岩佐琢磨氏、ピクシブ VRoidプロジェクト マーケティング・PRマネージャーの伊藤彰宏(itopoid)氏、VR空間アーティスト・飯テロモデラーのイカめし氏。日経BPの日経クロステック記者の東将大氏がモデレーターを務めた。

岩佐琢磨
伊藤彰宏氏

 最初のテーマは「メタバースとは何か」。今年に入って、Epic GamesやFacebook、国内ではGREEがメタバースに対して大規模な投資を発表しており、GDCやSIGGRAPHなど海外のカンファレンスでも講演が出るなど、ゲーム業界からも注目が高まっている。

 メタバースの定義について岩佐氏は、「大前提として、メタバースはまだ世の中には存在しないと思っている。メタバースとは、社会性を備えたバーチャル空間。画面は2Dでもよく、たくさんの人がいて、さまざまな社会活動をしているもの。ご飯も食べるし恋愛もするし、物を作って誰かに売りもする。現実世界とほぼ同じものを、別々の方々と構成されているのがメタバースだと思う」と述べた。

 これに対して東氏が、「バーチャル世界があっても、現実に肉体がある以上、現実世界に依存する。現実とバーチャルが融合した時に違和感が出るのでは」と疑問を投げかけた。

 岩佐氏は「匿名でTwitterを運用している人は、人格も全く別。2つを両立している人は既にいっぱいいる」と説明。伊藤氏も「恋人や両親の前だと、話し方が子供っぽくなったりするおじさんはたくさんいる。呼ばれ方や喋り方は場面によって違う。その中の1つだと思っていい」と述べた。

 ではメタバースのどこに可能性があるのか。伊藤氏はビジネスを例にとって説明した。「平面のインターネットはハイパーリンクで遷移するので、移動中の概念がない。でも空間であれば、地点間の移動が発生する。すると途中に広告を出すとか、ショッピングモールを作るとかいう発想が生まれる。冗長で広すぎる空間があることで、消費や需要のチャンスが生まれる。そこに人が来るなら、あらゆるビジネスパーソンが何をやればいいか思いつくはず」。

講演前半の様子。メタバースに関する話題が展開された

メタバースの社会性に欠かせない3Dモデル制作者

 続いてはメタバースの実現に向けた注目すべき領域やキープレイヤーについての話題に。伊藤氏は自らが手掛けるVRoidプロジェクトの状況として、「グローバルにユーザーが多く、アメリカ、ドイツ、ブラジルなど全世界で活用してもらっている。しかしDiscordやVRChatの中でコミュニケーションしていて、Twitterなどでは見えない。既にコミュニケーションは起こっているが、新しいフィールドがあるというのが見えてきた」と述べた。

 伊藤氏が注目するプレイヤーはそのユーザーたち。「彼らはそこで作ったモデルやモーションの話をしていて、創作活動自体が遊びになっている。すると何かを作って楽しんでいる人に注目が集まり、作ったものを販売するような動きも大きくなる。弊社のBooth(創作物のオンラインマーケット)の3Dモデルのジャンルには、3Dモデル制作ツールのVRoid Studioを使ったものだけでなく、Blender等でフルスクラッチで作ったものもあり、売買の数はとても増えている」と説明した。

伊藤氏が制作したVRoid関連のスライド。日本だけでなく世界中で使われている

 岩佐氏もコンテンツ制作に注目している。「何かを生み出して提供し、対価をいただくのは社会活動そのもの。VRChatは中の世界を自由自在に作れて、アバターも外で作ったものを持ち込み、持ち出してもいい。純粋にコミュニケーションプラットフォームで面白い。何でも作れるので、ゲームという枠を飛び越えて、メタバース、バーチャル空間での体験をリッチにしてくれるコンテンツが増えてきたと感じている」と語った。

 ここで講演に、イカめし氏がリモートで招かれた。インターネットで「3Dモデル制作で生活できている」という投稿をしたのをきっかけに、今回の参加を持ち掛けられたという。ちなみに同氏は美味しそうな食べ物の3Dモデルを数多く制作していることから、飯テロモデラーと呼ばれている。

リモートで参加のイカめし氏(左)はバーチャル空間から自らの3Dモデルで登場

 3Dモデルの売れ行きを尋ねられると、「3Dモデルを独学で作り始めて3年で、Boothだけでも生活できるくらいは稼げている」という。伊藤氏は「コンテンツ販売は、出して売れておしまいというのが普通」というが、イカめし氏は「ありがたいことに、毎月売り上げは伸びている」と返した。

 この要因について伊藤氏が分析。「弊社でも3Dモデルの販売は実際に伸びている。3Dモデルは非言語的なものなので言語の制約を受けず、買い手も売り手も最初からグローバル。イカめしさんが作られたコンテンツも、焼き肉の肉だけというのはニッチな作品だと思うけれど、市場をグローバルにすると、どんなにニッチなものでもいいなと思う人がある程度いる。あらゆるものを受け取る人がいるというのは面白い状態だと思う」と語った。

 イカめし氏によると、購入された3Dモデルの使い道は、「VRChatのワールドに使ったり、VTuberの方が自分の活動で使う小物にしたり、ゲームの小物に使ったりされている」とのこと。幅広い用途で使われているのがうかがえる。

 メタバースへの期待について聞かれたイカめし氏は、「携帯電話が当たり前にあるように、バーチャル空間が当たり前にあり、便利に使いたいものになれば、そこで生活したいという気持ちも生まれるのでは。そうなると自分の体(3Dモデル)や空間が欲しくなる。クリエイター業界も盛り上がると期待している」と語った。

講演の合間にフル画面で挟まれるイカめし氏制作の3Dモデル。まさに飯テロ

 講演の終わりにメタバースの課題について尋ねられた岩佐氏が、「課題は山盛り。一番大きな課題はVR。私はVR×SNSがメタバースにもっとも近いものだと思うが、VRデバイスはスマートフォンに比べればまだまだ難しい」と述べた。

 メタバースという存在が今すぐ来るわけではないというのは共通認識としてありつつ、その必須要素となる3Dモデルのビジネスは既に立ち上がっている。3Dモデル制作をビジネスだけで語ってしまうのは面白味に欠けるが、3Dモデル制作者の存在は社会性が必要なメタバースに極めて重要な存在だということもまた共通認識である、ということだろう。

 なおVRoid Studioは約3年ほどβ版として提供されてきたが、まもなく正式リリースされる。他にもスマートフォンで3Dモデルを作れるVRoidモバイルも用意されている。3Dモデル制作に興味がある方は気軽に試してみていただきたい。