生成AIストリーム

請求書PDFで情報処理学会が神対応! 電子帳票視点のフィードバックでAIDXがめっちゃ進んだ話

請求書PDFで情報処理学会が神対応! 電子帳票視点のフィードバックでAIDXがめっちゃ進んだ話

一枚の請求書PDFが読み取れない――その小さな違和感を「Claude Code」で調べ、勇気を出して情報処理学会に伝えたら、わずか10日で仕様改善につながった。これぞ生成AIストリーム!という『AIDX』なエピソードです。

 こんにちは、しらいはかせです。筆者は普段、AICU Japanという会社で『つくる人をつくる』をビジョンに、生成AIやメディア技術の研究・実践、社会人大学教授、研究者としても複数の大学で学術研究を行っています。今回は技術解説というより、 AI時代の『困りごとの伝え方』 についての、とても気持ちの良い実話をお届けします。テーマはずばり『AIDX』――AIを使ったデジタルトランスフォーメーションが、一枚の請求書PDFから本当に前に進んだ、という話です。

 さて、みなさんは業務で受け取った請求書PDFをどのように処理されていますでしょうか? ある日、ありがちなちょっとしたトラブルが発生しました。請求書を経費精算システムに登録しようとしたところ、なぜか請求金額や明細を自動で読み取ることができませんでした。画面で開けば、請求書番号も金額も明細も、きちんと表示されています。人間が読んで、手作業で入力するぶんには困りません。ところが、勤務先で利用している電子帳簿保存法対応の経費精算システム「楽楽精算」に取り込むと、必要な情報をうまく抽出できなかったのです。

情報処理学会から届いた請求書。画面で見る限りキチンと表示される

 こういうとき、普通であれば『相性が悪かったのだろう』と諦めて、画面を見ながら金額や日付を手入力します。数分で終わる作業ですし、問い合わせを書くほうが時間がかかるかもしれません。自分の環境だけで起きている問題かもしれません。経費精算システム側の問題かもしれません。技術的な見立てが間違っている可能性もあります。

 しかも今回の相手は、よりによって一般社団法人 情報処理学会 です。情報処理分野を代表する学会に対して、『請求書PDFの仕様に問題があるのではないでしょうか』と連絡するのは、正直なところ少し勇気が必要でした。

 それでも、同じ請求書を受け取る研究者や企業、大学関係者の中には、同じように手入力をしている人がいるかもしれない。ひとりの小さな不便として飲み込むより、きちんと原因を確認して、改善の可能性を伝えてみようと考えました。

 結果として、この一通のメールは、学会の請求書PDFの仕様改善につながりました。連絡を送ったのは2026年7月13日21時8分。そして、情報処理学会から具体的な改善方針について回答をいただいたのは、2026年7月23日17時21分でした。 約10日間 です。利用者から届いた技術的な指摘を受け止め、マイページの開発業者と検討し、今後の変更内容と実施予定時期まで回答していただきました。これは、かなり素晴らしい対応だったと思います!

見えているPDFと、読めるPDFは違う

 PDFは、画面上の見た目が同じであれば、中身も同じだと思われがちです。しかし実際には、PDFの作られ方には大きな違いがあります。

 紙の書類をスキャンしただけのPDFもあれば、Wordや会計システムから文字情報を保持した状態で出力されたPDFもあります。画面上では同じ日本語に見えていても、内部に適切な文字情報が入っているものと、文字の形だけを表示しているものがあるのです。

 人間は、文字の形を見れば内容を理解できます。一方、経費精算システム、全文検索、読み上げソフト、会計ソフト、生成AIなどがPDFを処理する場合には、その文字がどの文字コードに対応しているのか、どのフォントを使っているのか、テキスト抽出が許可されているのかといった内部情報が重要になります。つまり、 『人間の目に見えるPDF』と『コンピューターが正確に読めるPDF』は、必ずしも同じではない のです。

 今回の請求書も、「Adobe Acrobat Reader」などで閲覧するだけであれば、特に問題はありませんでした。ところが、ほかのソフトウェアが文書の内容を再利用しようとすると、文字情報をうまく取り出せない状態になっていました。しかも印刷もできない設定になっています。

PDFを「Claude Code」で調べてみた

 今回、このPDFの不具合を分析するために使ったのが、AnthropicのAIコーディングエージェント「Claude Code」です。

 「Claude Code」という名前から、プログラムを書くための道具という印象を持つ人も多いと思います。もちろんコードの作成や修正は得意ですが、実際にはファイルの構造を調査したり、コマンドラインのツールを組み合わせて問題を切り分けたり、調査結果を文章として整理したりすることにも使えます。

 そこで、経費精算システムが読み取れなかった請求書PDFについて、内部のフォント情報、文字コードの対応、暗号化や権限設定などを「Claude Code」に調査させました。その結果、単にOCRが文字の認識に失敗したというより、 PDFの生成仕様そのものが外部システムによるテキスト抽出に適していない という可能性が見えてきました。

 本文に使われていた「平成明朝」、PDF内部の名称では「HeiseiMin-W3」というフォントが、PDFに埋め込まれていなかったのです。PDFにフォントが埋め込まれていない場合、閲覧する環境や処理系によっては、文字の表示や抽出が不安定になることがあります。Adobe製品では正しく表示できても、ほかのソフトウェアが同じように扱えるとは限りません。

 さらに、PDF内部の文字とUnicodeを対応づける情報(ToUnicode)も十分ではありませんでした。画面上に『請求書』という形が表示されていても、その形がUnicode上の『請』『求』『書』という文字であることを、外部のソフトウェアが正しく判断できない状態です。人間には普通に読めますが、コピー、検索、読み上げ、経費精算システムによる自動抽出などでは問題が起きます。

 加えて、PDFには暗号化と権限設定が施されていました。ここでいう暗号化は、必ずしもパスワードを入力しなければファイルを開けないという意味ではありません。閲覧はできるものの、コピー、編集、テキスト抽出などの操作を制限する設定もPDFには存在します。文書を保護する目的では意味のある設定ですが、請求書を経費精算システムや文書管理システムに登録する場合には、取り込みを妨げる原因になることがあります。

 これらを整理すると、今回の請求書は、人間が「Adobe Reader」で閲覧する用途では問題がない一方、機械が内容を再利用する用途には適していない可能性がありました。

AIに原因を調べさせ、AIで改善依頼メールの草稿をしたためる

 PDFの内部構造を調査した後、その結果をもとに、情報処理学会へ送るメールの草稿も「Claude Code」で作成しました。

情報処理学会 経理ご担当者様

いつもお世話になっております。白井暁彦と申します。

先般お送りいただきました請求書(No.○○○○)につきまして、弊方で利用しております経費精算システム(楽楽精算・電子帳簿保存法対応)に取り込もうとしたところ、請求金額や明細を自動で読み取れない事象が発生いたしました。原因を確認しましたところ、発行される請求書PDFの作成仕様に起因するもので、他の会員・法人の方でも同様に不都合が生じている可能性があると考え、改善のお願いとしてご連絡差し上げました。

技術的には、以下の3点が原因でした。

本文(請求書番号・金額・明細)に使われているフォント(平成明朝 / HeiseiMin-W3)がPDFに埋め込まれていない。このためAdobe Reader以外の処理系では本文が表示・抽出できません。

文字コードの対応表(ToUnicode)が付与されていないため、テキスト抽出ができない。

PDFに暗号化(権限設定)がかかっており、これも精算システムが取り込みを拒否する一因となります。

つきましては、今後発行される請求書PDFにつきまして、可能であれば「フォントの埋め込み(PDF/A準拠が理想)」「暗号化の解除」「テキスト抽出が可能な形式での出力」をご検討いただけますと幸いです。近年は電子帳簿保存法対応で請求書を各種システムに取り込む運用が一般的になっており、対応いただけますと会員側の事務負担が大きく軽減されるかと存じます。

あくまで今後の改善のお願いとしてお受け取りいただければと思います。ご不明な点がございましたら、当該PDFのサンプルをお送りすることも可能です。

お忙しいところ恐れ入りますが、ご検討のほどよろしくお願い申し上げます。

白井 暁彦

 ここで大切なのは、『このPDFは壊れています』『使えないので直してください』という 苦情の文章にしなかった ことです。再現性のある事実のみ、仕様上の問題、解決案を述べる。そこに感情を交えない。

 まず、どのような操作をしたときに、どのような問題が起きたのかを説明しました。次に、考えられる技術的な原因を示しました。そのうえで、改善策の案を提示して検討をお願いしました。長期保存や異なる環境での再現性まで考えるなら、「PDF/A」のような標準に準拠することが理想であるとも付け加えました。

 「Claude Code」が行ったのは、単なる作文の代行ではありません。『経費精算システムが請求書を読めなかった』という利用者側の曖昧な困りごとを、開発業者が確認できる技術的な言葉へ分解し、それを学会の事務担当者にも伝わる穏当な文章へ変換する作業でした。いわば、 利用者とエンジニアと事務担当者の間に立つ、翻訳者のような役割 です。

 もちろん、AIが作った文章を自動的に送信したわけではありません。調査結果が実際のPDFと整合しているかを筆者自身が確認し、文面を読み直し、過度に断定的な表現になっていないかを確認したうえで、自分の名前と責任で送りました。AIが分析し、AIが草稿を書き、人間が確認して責任を持って送る。ちょうど開発者がGitHubで英語のプルリクエスト(PR)を出すときに翻訳を手伝ってもらう、そんな分担でした。

学会に送るには、少し勇気が必要だった

 技術的な問題について問い合わせるとき、相手との関係が近いほど、かえって伝えにくいことがあります。情報処理学会には、これまで研究発表、研究会活動、学会誌、委員会など、さまざまな形でお世話になってきました。だからこそ、単なる利用者として強い言葉で要求するようなことはしたくありませんでした。また、情報処理学会に情報処理上の問題を指摘するという構図そのものに、少し緊張もありました……!

 こちらの分析が誤っていれば、的外れな指摘になってしまいます。請求書発行システムには、こちらからは見えない事情や制約もあるはずです。セキュリティ上の理由から、意図的に設定されている可能性も考えられます。そこでメールでは、現在の請求書をただちに再発行してほしいと要求するのではなく、あくまで今後の改善要望として受け取っていただきたいと書きました。同様の不都合がほかの会員や法人でも起きている可能性があるため、もし可能であれば検討していただけないか、という姿勢です。

 相手を言い負かすための正論ではなく、 相手が調査し、判断し、必要なら直せる材料を渡す ことを意識しました。送信ボタンを押した後も、少し不安はありました。細かすぎる利用者だと思われないだろうか。忙しい担当者の仕事を増やしただけではないだろうか。そもそも返信をいただけるだろうか。しかし、その心配は良い意味で裏切られました。

10日後に届いた、具体的な改善の回答

 2026年7月23日17時21分、情報処理学会の調査研究部門から回答をいただきました。回答では、まず連絡が遅くなったことと、不便をかけたことへの丁寧なお詫びがありました。そのうえで、マイページの開発業者と検討した結果、今後はフォントを埋め込み、暗号化を解除したPDFに変更すること、テキスト抽出も可能にすることが明記されていました。変更は2026年8月上旬ごろから予定されているとのことでした。こちらから伝えた主要な改善点について、ほぼ正面から対応していただいたことになります。

 これは簡単なことではありません。組織が運用しているシステムでは、設定をひとつ変えるだけでも、さまざまな確認が必要になります。新しいPDFが従来と同じように表示できるか。請求書のレイアウトが崩れないか。古いパソコンや異なるPDF閲覧ソフトでも開けるか。印刷に問題が出ないか。会計や保存の運用に影響がないか。外部の開発業者が関わっている場合には、担当部署だけで即座に変更することはできません。開発業者への問い合わせ、問題の再現、修正方法の検討、動作確認、リリース時期の調整が必要です。

 それにもかかわらず、情報処理学会は利用者から届いた一通のメールを、単なる個別のトラブルとして処理しませんでした。開発業者と検討し、変更する内容を決め、実施予定時期まで具体的に回答してくださいました。『ご意見は今後の参考にします』で終わらず、実際の仕様変更に結びつけたのです。情報処理を研究し、社会へ広げてきた学会として、非常に誠実で、実務的で、見事な対応だったと感じています。メールを送る前には少し緊張していましたが、勇気を出して指摘してみて本当に良かった!

発行側で直せば、全員の手作業が減る

 今回の改善は、一見すると地味です。請求書PDFにフォントを埋め込む。暗号化を解除する。テキスト抽出を可能にする。大規模なAIシステムを導入したわけでも、組織の基幹システムを全面刷新したわけでもありません。

 しかし、こうした小さな改善は、利用されるたびに効果を生みます。請求書を受け取った人が、金額や日付を手入力する時間を減らせます。会計システムが請求書番号を正しく取得できるようになります。文書管理システムで本文を検索しやすくなります。読み上げソフトを利用する人にとっても、内容へアクセスしやすくなる可能性があります。将来的に生成AIや業務支援システムで書類を処理する場合にも、画像認識による推測ではなく、PDFが保持している正確な文字情報を利用できます。

 仮に1件あたり数分の手入力であっても、請求書を受け取る人が何百人、何千人といれば、全体では大きな時間になります。そして重要なのは、受け取る側がそれぞれ個別に工夫するのではなく、 発行する側で一度直せば、その後の利用者全員に効果が及ぶ ことです。

 読み取れないPDFを受け取るたびに、利用者がOCRをかける。OCRの結果を目視で確認する。間違って認識された金額を修正する。コピーできない文字を手入力する。こうした作業を利用者全員に繰り返させるより、最初から機械が読めるPDFを出力したほうが、はるかに効率的です。 下流でAIを使って力ずくで解読するより、上流のデータを整える。 これは、情報システムを改善するうえで、とても基本的で強力な考え方です。

AIを導入するだけでは、DXにはならない

 『DX』という言葉は、さまざまな意味で使われています。紙の書類をPDFにしただけでもDXと呼ばれることがあります。クラウドサービスを導入したことや、生成AIを使い始めたことが、そのままDXとして紹介されることもあります。

 しかし、紙をPDFに置き換えても、そのPDFが検索できず、コピーできず、ほかのシステムへ取り込めないのであれば、利用者の作業はあまり減りません。見た目だけがデジタルになり、手作業が残っている状態です。また、生成AIを導入しただけで、業務が自動的に変革されるわけでもありません。AIに文章を書かせる。AIに画像を作らせる。AIに質問をする。それだけでも便利ですが、組織や社会の仕組みが改善されなければ、効果は個人の作業効率の範囲にとどまります。

 今回、「Claude Code」はPDFの構造を調べ、問題を整理し、改善要望の草稿を書きました。しかし、「Claude Code」が学会の請求書システムを直接変更したわけではありません。AIが出した分析を人間が確認し、責任を持って学会へ伝えました。そこに再現性のある事実のみをレポートし、感情を交えないところもポイントです。学会の担当者がその内容を受け止め、開発業者と協議しました。開発業者が実装可能性を検討し、仕様変更へ進めました。先方の開発会社さんもAIを使っているかもしれません。でも利用者、AI、学会、開発者が、それぞれの役割を果たしています。AIだけで完結するのではなく、AIが個々のコンフリクトを滑らかに解消しています。

 この一連の流れによって、個人の手元で起きた小さな不具合が、今後の利用者全体に関係する改善へ変わりました。筆者は、 『AIDX』とはこういうことなのではないか と体感できるやりとりでした。

AIDXとは、AIを使って現実の変化までつなぐこと

 ここでは『AIDX』という言葉を、『AIを活用したデジタルトランスフォーメーション』という意味で使います。ただし、単にAI製品を導入することを指しているわけではありません。AIに調査させただけでもありません。AIにメールを書かせただけでもありません。 AIによって人間の観察力、調査力、説明力を拡張し、それを現実の組織や業務やサービスの改善までつなげること です。

 今回の出発点は、『経費精算システムがPDFを読んでくれない』という、ごく小さな違和感でした。「Claude Code」を使わなければ、筆者はその場で金額を手入力し、それで終わらせていたかもしれません。PDFの内部構造を調べるためには、専門的なツールや知識が必要です。フォント、文字コード、暗号化、権限設定を一つずつ確認し、それらが外部システムに与える影響を整理するには時間がかかります。さらに、その調査結果を、相手を責めず、事務担当者にも理解でき、開発業者が調査可能な文章にまとめる必要があります。「Claude Code」は、そのハードルを大きく下げました。だから筆者は、勇気を出してメールを送ることができたのです。

 しかし、AIが生成した技術的な文章が正しいからといって、相手に強く要求してよいわけではありません。実際の状況を確認し、AIの分析に誤りがないかを確かめ、相手の立場を考え、伝え方を整える責任は人間にあります。そして、受け取った情報をどう扱うか、システムを変更するかどうかを判断するのは組織です。情報処理学会は、利用者からの指摘を防御的に受け止めるのではなく、組織の改善の機会として扱いました。そして会員が検知した違和感は組織の皆さんにとって利益になる改善に繋がりました。この姿勢がなければ、AIによる分析は単なる詳しい苦情で終わっていたでしょう。

 AIが人間の能力を拡張する。人間が責任を持って社会へ働きかける。組織がその声を受け止める。開発者が実際の仕組みを変える。そして、次に利用する人の手間が減る。そこまでつながって、初めて『組織のインテリジェンス』そして『組織のトランスフォーメーション(変革)』と呼べるのではないでしょうか。

AIDXのループ。利用者の違和感 →(「Claude Code」で調査・翻訳)→ 人間が責任を持って伝達 → 学会が受容・判断 → 開発者が仕様変更 → 次の利用者全員の手作業が減る

不便を我慢するより、直せる言葉に変える

 業務システムを使っていると、小さな不具合や不便には頻繁に出会います。ボタンの位置がわかりにくい。データをコピーできない。入力欄に必要な文字数が入らない。CSVの文字コードが合わない。PDFを検索できない。システム間で同じ情報を何度も手入力しなければならない。

 一件一件は、工夫すれば回避できる問題です。そのため多くの場合、利用者は自分の時間を少し使って対応し、問題を飲み込みます。もちろん、すべての不便を問い合わせる必要はありません。組織にも優先順位があり、すぐに直せない事情があります。それでも、同じ問題が多くの人に繰り返し発生している可能性があるなら、伝えてみる価値はあります。

 そのとき重要なのは、怒りを増幅することではありません。『使いにくい』『こんなこともできないのか』と責めるだけでは、相手は具体的に何を直せばよいのかわかりません。どの操作をしたのか。何が起きたのか。期待していた結果は何か。考えられる原因は何か。どのような状態になれば解決なのか。これらを、相手が確認できる形に整える、そしてそれを『組織のインテリジェンス』に変えるにはどうすればいいかを考えることが大切です。

 生成AIは、技術でこの整理を助けてくれます。利用者の感情や曖昧な違和感を、再現可能な現象と、検討可能な改善案へ変換できます。AI時代のエンジニアリングは、コードを書くことだけではありません。 人間の困りごとを、仕組みを直せる言葉へ人間が翻訳することも、重要なエンジニアリング なのです。

まとめ:勇気を出して指摘してみて良かった

 今回の登場人物の役割を整理してみましょう。

  • 問題を見つけたのは 人間。
  • 原因を調査し、文章へ整理したのは 「Claude Code」。
  • 内容を確認し、責任を持って送ったのは 人間。
  • その声を受け止め、開発業者と検討したのは 情報処理学会。
  • 実際のPDF生成システムを改善するのは 開発者。

 その結果、これから請求書を受け取る多くの人の事務作業が、少し軽くなるだけかもしれません。でも、多くの人が恩恵を受けることで、請求書にかかわる全体の効率は大きく改善したとも考えられます。AIを使って、個人の不便を調査可能な問題に変え、組織へ届く言葉に変え、現実の仕組みの改善までつなげた――AIDXによる組織の変革、組織のインテリジェンスって、こういうことだよね、という話でした。

 巨大なシステム刷新や、華々しいAIプロジェクトだけがDXではありません。目の前の小さな違和感を見逃さず、AIとともに原因を調べ、相手への敬意を持って伝え、受け取った組織が誠実に仕組みを直す。そうした小さな往復の積み重ねによって、社会の環境は確実に良くなっていきます。あなたも、次に『読み取れないPDF』に出会ったら、諦めて手入力する前に、AIと一緒に原因を調べて、勇気を出して伝えてみませんか?

しらいはかせ(白井暁彦)X@o_ob

AICU Japan株式会社 X@AICUai 代表/作家/生成AIクリエイター/博士(工学)。

「つくる人をつくる」をビジョンに、世界各地のCG/AI/XR/メディア芸術の開発現場を取材・研究・実践・発信している。