#モリトーク

第41話

暗号化ソフトのススメ

 Webメールやオンラインストレージなど、クラウド型のWebサービスを利用するのが当たり前となった現在、ハッキングの被害も増えている。他人に見られたら困るファイルは本来、クラウド上に保存すべきではないが、どうしても使いたいときのために、ファイル暗号化ソフトをオススメしたい。

 ファイル暗号化のジャンルには、「アタッシェケース」という鉄板ソフトが存在する。「アタッシェケース」は10年以上も開発が続く人気ソフトであり、窓の杜ライブラリでの年間ダウンロード数を比較すると、テキストエディターの定番である「秀丸エディタ」や「TeraPad」と変わらないくらいに鉄板度が高い。

 「アタッシェケース」最大の特長は、ユーザーインターフェイスのデザインと操作性がシンプルでありながらも、解読が困難な256ビットのAES暗号を採用するなど、高度な機能が共存していることだ。利便性も高く、ファイルの関連付けを利用すれば復号の操作が簡単になるほか、「アタッシェケース」をインストールしていない環境のために、暗号化したファイルを自己復号型のEXE形式で出力できる。

 ユニークな機能も搭載されており、任意のファイルを復号用の鍵として指定することが可能。さらに、パスワードの誤入力に上限回数を設定しておけば、それを超えた場合にはデータを強制的に破壊するなど、高度なセキュリティ機能も備えている。

シンプルなデザイン・操作性と、便利で高度な機能が共存する「アタッシェケース」

 ところで、「アタッシェケース」は昨年7月にオープンソース化し、先週にはその正式版が公開され、ちょうど再スタートを切ったところだ。本コラムの第17話でも取り上げたように、「アタッシェケース」がオープンソース化した理由は、作者が大病で入院したことをきっかけに、同ソフトを途絶えさせてはいけないと決意したことにある。

 その効果はすでに出ており、Mac OS上でも動作するJava版の「アタッシェケース」が別の作者によって誕生し、iPhone版も開発されているそうだ。その一方、「アタッシェケース」の原作者の元には、オープンソース化後初の正式版公開に伴い、バグ報告のメールがたくさん届いているようで、そのなかにはフリーソフトの公開を辞めようと思わせるほどの軽率な内容もあったという。

 残念ながら、作者の好意によって実施されたオープンソース化が悪い方向にも傾き始めている。「アタッシェケース」の作者は『みんなでよいソフトをつくる』という環境を希望し、プロジェクト共有サービスの“GitHub”を活用している。バグや要望の管理も“GitHub”に集約したいとのことだが、今のところ機能していないようだ。作者が望む環境を実現するにはユーザーの協力が不可欠であり、それこそがオープンソースプロジェクトの醍醐味であろう。今こそ、定番ソフトが当たり前のように存在することのありがたみを感謝すべきときではないだろうか。

(中井 浩晶)