週末ゲーム
第528回
生と死の狭間の世界を描くアドベンチャー・RPG「Margikarman」
幽霊たち(?)が自らの死の謎を追う、笑いと涙が凝縮された物語
(2013/7/12 11:55)
『週末ゲーム』では、インターネット上でたくさん公開されているゲームの中から、編集部がピックアップした作品を毎週紹介していく。今回は、生と死の狭間に迷い込んだ少年たちを描いたRPG「Margikarman」をご紹介する。
死んでしまった主人公たちが、自らの死の謎を解き明かす
「Margikarman(マージカルマン)」は、主人公の少年“硲 幸丞(はざま こうすけ)”が、自分の死の謎を解き明かしていくRPG。幸丞は“狭間の世界”と呼ばれる場所で目を覚まし、“女死神”と呼ばれる少女から、自らが死んだことと、現世には戻れるが幽霊のようになり生者からは見えず触れられない存在“境界人”になったことを告げられる。
しかし幸丞には、自分がいつ、なぜ死んだのかという記憶がない。狭間の世界には、自分が死んだ理由かわからない人、自分の死に向き合えないまま死んでしまった人たちが、幸丞と同じ境界人になって暮らしていた(死んでいるのだが)。幸丞は幽霊のような姿のまま現世に降り、自らの死の理由を探るとともに、他の境界人たちの悩みや謎を解き明かしていく。
境界人は現世や狭間の世界のあちこちで会えるが、その中で8歳にして交通事故で亡くなった少女“橘 葵生(たちばな あおい)”、40年も前に死んだが今も境界人を続けている青年“神 蔵之助(じん くらのすけ)”、主人公の幼馴染だった少女“咲良 愛海(さくら まなみ)”の3人は、紆余曲折を経て幸丞とともに謎を解く仲間となる。
そもそも幸丞をはじめとした境界人は、死の淵から甦るために奮闘するのではない。死を受け入れた上で、自らが抱える未練を解決し、満たされることを目指していく。最終的には“次の世界へと旅立つ”(転生を意味するように見えるが、作中では明確にされない)のがゴールという、柱となるストーリーラインは悲壮感の強い内容になっている。
装備選びとTPの戦略が鍵を握る戦闘システム
ゲームの進行は、アドベンチャーゲームのように街のマップ上で場所を選んだ後、RPG的に各フィールドを歩いて移動するスタイル。フィールドでは敵の姿が見える、いわゆるシンボルエンカウントのシステムを採用しており、敵に触れると戦闘に入る。
キャラクターのHPとなる値は、別名“猶予”と呼ばれている。猶予が0になると、自我を失い“ダースト”(敵キャラクター)になるという設定だ。パーティ全員の猶予が0になり全滅するとゲームオーバーという点では普通のRPGと変わらない。
ただ猶予は最初から最大値がかなり高い代わりに、回復手段がほとんどない。序盤は手に入れられる回復アイテムの数が限られており、宿屋のような回復施設もないため、減る一方になる。実はある程度ゲームを進めると回復手段が手に入るのだが、それまではダーストになってしまうのでは、という不安感がつきまとう。
装備は一般的な武器や防具といった類のものはない。ステータスを上下させる“装備ソウル”と、若干のステータス変化に加えて戦闘中に使えるスキルが増えたり特殊効果が発動する“スキルソウル”がある。キャラクターにはレベル(“カルマ”と表わされる)もあるが、装備にはキャラクターごとの制約がなく自由に選べる上、装備によって大きく能力が変わるので、キャラクターのタイプはほぼ自由に決められる。
戦闘では通常攻撃やガード(防御)、アイテム使用のほかに、MPを消費するスキルと、TPを消費するスキルを使える。MPを使うスキルはいわゆる魔法的な存在。TPは戦闘中の行動によって徐々に蓄積されるポイントで、通常攻撃で1点、スキル使用で2点、ガードで3点貯まる仕組み。TPスキルは各キャラクター固有の能力を備えたものが多く、大ダメージを与えたり、敵に状態異常を付与したりといった特殊効果をもつ。ただ通常攻撃するのではなく、あえてガードしてTPを貯めてからTPスキルを使う、という戦術も選択可能だ。
バトルのシステムはTPの扱い以外はオーソドックスな内容でわかりやすい。ただキャラクターの個性は装備によって激変するため、ステータスやスキルをうまく組み合わせてやらないと、まるで力を発揮できなくなったりもする。攻撃力に特化したキャラクターを、防御力に特化したキャラクターで守る……といった戦略的思考を、装備でどう実現するのか。そういうパズル的な発想が求められるのが、本作の戦闘の面白いところだ。
隅々まで世界を堪能できるアドベンチャー的要素
本作をプレイした感覚としては、RPGよりもアドベンチャーの色が強い。次に進むためのアイテムや会話を見つけるために、目的地を選んで総当たりで調べていくという感触がある。いわゆる“フラグを立てる”という操作だ。その場所は、話の流れから推測したり、セーブポイントで見られる“スケジュール”でヒントを確認できたりはするが、そのものズバリの答えや親切なガイドはない。
それが不親切と言えばそれまでだが、それに対してのメリットもある。NPCに話しかけると、初めて話しかけた時にはちょっとしたアイテムがもらえるようになっており、物語に全く関係ないモブキャラでもアイテムをくれる。さらにシナリオが進むとこのアイテム報酬がリセットされ、同じNPCでもまたアイテムをくれたりする。もちろん話の内容が変わっていることもあり、チョイ役の個性も見えてくるのが面白い。
また幸丞以外の3人の仲間には、サブシナリオが用意されている。それぞれ死んだ理由を覚えていなかったり、強い未練があったりするので、幸丞が力を貸してそれらを解決していく。内容はボスバトルがあったり、謎のミニゲームがあったり、ただ遊びまわるシナリオを眺めたりと千差万別。ただサブシナリオを進めるごとに、そのキャラクターの能力が向上していくので、積極的に進めるほうが進行が楽になる。
本作は特にレベル上げをする必要性は感じないが、最短距離を進むよりも、サブシナリオなどの回り道を優先して外堀を埋めながら進むほうが、楽に進行できるようになっている。シナリオ的にも世界観的にも、ゲームの世界を隅から隅まで堪能しつつ、のんびり遊ぶ方が楽しめるので、焦らず攻略していただきたい。
仲間たちの抱える事情と思いも見どころ
ここまでの話をお読みいただいた方は、本作は暗くてしんみりした物語かと想像されるかもしれない。しかし実際には、3人の仲間を始め、明るく個性的なキャラクターのおかげで笑えるシーンも多い。シリアスな場面はもちろんあるが、8割方は緩いテンションの会話になっている。死者が主役のゲームなのに、キャラクターは実に生き生きとしている。
そういう表向きな部分に笑いはするが、最終的に彼らを待っているのは“旅立つ”か“ダーストになる”かという、死者の悲しい現実だ。それだけに、どんなに楽しいシーンにも一抹の侘しさが付きまとう。『こんなに明るくていい奴らなのに……』と感情移入してしまう魅力が、本作のキャラクターたちにはある。
8歳で死を受け入れてなお明るくふるまう女の子、40年経っても家族への愛を失わない青年、幼馴染と死んでからも対面することになる少女。彼らの物語は作中では一つの傍流に過ぎないが、ゲームクリア後には、主人公よりも強い印象を残してくれた。ネタバレになるので詳しいことが書けないのが残念だが、クリア時には1本のゲームでも4本以上の物語を堪能した気分にさせてくれた。
攻略する楽しさはもちろん、扱うテーマとその表現が実にマッチしており、とても“雰囲気のあるゲーム”に仕上がっている。RPGファンだけでなく、こういった読み物が好きな方にも、ぜひプレイしていただきたい作品だ。
ソフトウェア情報
- 「Margikarman」
- 【著作権者】
- ゆうやけ 氏、スバルイチ 氏(キャラクターデザイン)、wataru 氏(オリジナルサウンド)
- 【対応OS】
- Windows XP以降(編集部にてWindows 8で動作確認)
- 【ソフト種別】
- フリーソフト
- 【バージョン】
- 1.3(13/03/27)