週末ゲーム
第626回
壊れた世界で運命に抗うマルチシナリオSF RPG「ADVINITY」
多数のシステムを駆使して戦うアクションゲーム風サイドビューバトルがアツい!
(2016/1/29 11:00)
『週末ゲーム』では、インターネット上でたくさん公開されているゲームの中から、編集部がピックアップした作品を毎週紹介していく。今回は分岐するシナリオや、多彩なシステムを搭載した戦闘が特徴のRPG「ADVINITY(アドヴィニティ)」を紹介しよう。
荒廃した世界を舞台としたマルチシナリオRPG
「ADVINITY」は、地上が荒廃し、人類が巨大飛行船“ノア”に移住した世界を舞台にしたSF RPG。汚染された地上から資源回収を行うエージェントの青年“ゼット”達が、とある遺跡の奥で記憶喪失の少女“ナナコ”を発見したことから物語は始まる。
本作の最大の特徴は、プレイヤーの選択によりストーリーが分岐するマルチシナリオ。ルートごとに主人公であるゼットの立場や発生する事件、さらには登場人物や世界の行く末まで大きく異なる物語が展開する。それぞれのルートごとに主要人物が変わり、さまざまな方向から本作のバックグラウンドにある真実に迫っていくという構成はADVゲーム的な面白さがある。
とはいえダンジョン探索や戦闘がプレイ時間の多くを占めるRPGにおいて、シナリオ分岐までの共通ルートを何度も繰り返すようなことになると面倒だが、本作ではある程度ゲームを進めると、シナリオの分岐構造をマップ表示し、キャラクターの強さや所持アイテムはそのままに好きな場面へジャンプできる“ストーリーボード”というシステムを利用可能になる。
RPGとしては珍しい仕組みだが、このおかげで別ルートの開拓にストレスはない。さらに、Ctrlキーによるメッセージの高速送りや既読イベントのスキップが可能など、周回プレイが苦にならないための仕組みが盛り込まれており、分岐する物語を存分に堪能することが可能となっている。
リアルタイムに攻撃を重ねていくサイドビューバトル。アーツを駆使し、コンボを叩き込め!
本作の戦闘は、最大3人パーティで戦うサイドビューバトル。アクションゲーム的なリアルタイム要素を含む多数のシステムを使いこなすことで有利に戦える、独自開発のものとなっている。
基本は敵、味方のパーティが交互に行動するターン制。特徴は攻撃を開始すると“タイムゲージ”が減り始め、ゲージが尽きるまで連続攻撃ができること。決定キーによる通常攻撃のほか、[←][↑][→]キーそれぞれに対応する形で3つまでセットした攻撃技“アーツ”を自由に組み合わせて繰り出すことができる。アーツの発動には“AP”を消費するが、APとタイムゲージが残っている限り同じアーツも繰り返し発動可能だ。
さらに攻撃を重ねて敵のライフを削ると、アーツのダメージがすべてクリティカルになる“クリティカルチャンス”が発生する。タイムゲージが尽きてもクリティカルチャンスの発生中は攻撃を続けることができ、アーツを敵にヒットさせるとクリティカルチャンスの効果時間を延ばすことも可能。タイミングよくアーツを繋げば10ヒット、20ヒットと攻撃を重ねられる。
アーツはヒット数が多いもの、敵の防御力低下など追加効果を持つもの、事前動作が長いが一撃が重いものなど、キャラクターごとにさまざまなものが用意されている。隙の少ない攻撃で削り、クリティカルチャンスが発生したらすかさず大技を繰り出すなど、アクションゲームのコンボのような立ち回りで大ダメージを出せるのが爽快だ。
一方、敵の攻撃時にはタイミングよく決定キーやキャンセルキーを押すことで、防御や回避を行うことが可能。ただしいずれも一撃ごとにAPを消費し、敵の連続攻撃を防御中にAPが尽きたらガードブレイク、回避は残りAPが多いほど成功しやすいといった特性がある。APはターン経過で一定量回復するが、自分の攻撃後、敵の攻撃時にAPが無いと無防備になってしまう。APを攻撃で使い切るか、防御のために温存するか……といった駆け引きも戦術の肝になるわけだ。
仲間との連携をシステムで実感できる“アドスキル”と“リンクドライブ”
戦闘時の行動としては、魔法にあたる“ソーサリー”も利用可能。こちらは普通のコマンド選択型で、アーツと同様にAPを消費する。
多くのアーツやソーサリーには、陽・陰・虚という3つの属性が設定されている。属性は3すくみの相性によりダメージ効率にも影響するが、もう1つ重要な仕組みとして、アーツやソーサリーを発動するとその内容に応じた属性の“エレメントアイコン”がストックされる。このエレメントアイコンを消費して発動する特殊行動が“アドスキル”だ。
ポイントは、エレメントアイコンはパーティ共有のリソースであることと、アドスキルの使用ではターンが経過しないこと。アドスキルは敵の攻撃を引き付ける挑発や自己強化・自己回復、特定アーツの効果を変化させるものなど、キャラクターの役割に応じてプラスアルファの戦術に使えるものが用意されている。
パーティメンバーの行動順は隊列の並び順で固定なので、後に行動するメンバーのためにアーツやソーサリーでエレメントアイコンを溜めておく、といった連携も可能。加えて並び順により前列・中列・後列と立ち位置が決まり、前に居るほど敵に狙われやすい。盾役、エレメントアイコンを溜める役など役割分担を意識すると編成も工夫のしがいがある。
また、“リンクドライブ”も仲間との連携を実感できる要素だ。同じ敵を攻撃し続けることで敵ごとの“チェインレートゲージ”が溜まり、一定値を越えるとキャラクターを選んで追加攻撃を発動可能。ゲージを最大まで溜めて3人連続で発動すると、最後の1人が強力な“リンクフィニッシュ”を繰り出せる。ボスなどに大ダメージを与えられ、演出も派手で見応えがある。
さらに、リンクフィニッシュの発動後は“オーバーリンク”状態となる。これは一定回数ダメージを受けるまで、行動時間延長、状態異常の自動回復といった効果がパーティ全員へ付与されるもの。効果はリンクフィニッシュを繰り出したキャラクターによって異なるため、状況に応じて誰がフィニッシュを決めるか選ぶのもポイントだ。
必殺技に変身まで。システムを活用して攻撃を組み立てるのが醍醐味
他にも、一定時間アーツが使い放題になり攻撃後の隙も短縮される“アクセルドライブ”、アクセルドライブ中に発動できる必殺技“アクセルフィニッシュ”、ゼットだけが使える“変身”など、戦闘中に行える特殊行動は豊富。多くはタイムゲージ減少中に特定のキーを入力して発動するもので、慣れないうちは慌てて失敗してしまうこともあるが、攻撃を開始するまではタイムゲージは動かないので、『このターンではどう攻撃を組み立てるか?』と事前にじっくり考えてから操作できる。リアルタイム性を備えつつ、それも含めて全体の作戦を練っていくのが楽しいバトルに仕上がっている。
このように要素の多いバトルだが、敵を倒すと“ディフィートボーナス”が発生し、APが全回復して再行動できるためザコ戦は比較的サクサク進行。1ターンでできることが多いからこそ、残りライフがわずかな敵を倒すのに1ターン費やしてしまうと勿体なく感じてしまうが、そこで再行動となるためストレスにならないのは嬉しいところだ。そのほかコマンドをワンキーで選択できたり、よく使うソーサリーやアドスキルを登録できるショートカットが用意されていたりと、戦闘画面のインターフェイスも手触りがよいものとなっている。
スキルツリーと武器強化、資源のやり繰りに悩むキャラクターカスタマイズ
アーツやソーサリーは、キャラクターの成長に応じてスキルツリーが解放されていき、敵からのドロップや宝箱から入手できる数種類の“ジェム”を消費して習得する。前衛タイプのキャラクターはソーサリーを使えないが、代わりにパッシブスキルを習得可能。
また、キャラクターカスタマイズでは武器の強化もポイント。戦闘を繰り返すことで武器に経験値が溜まり、採掘や宝箱で入手できる鉱物素材を消費してレベルを上げられる。これによりアドスキルやアクセルフィニッシュを習得できるほか、さらに武器の経験値を使って攻撃時の行動可能時間やAPの最大値、ターン毎のAP回復量などを個別に強化可能となる。
とはいえ実際のところ、武器の経験値は溜まりやすく、キャラクター間でやり取りする仕組みもあるため不足を気にする場面はあまりない。一方で鉱物は比較的希少となっている。これはジェムも同様で、こうした資源を誰に注ぎ込むか、スキルツリーをどこから取っていくか?といった優先順位を考えるのが、悩ましくも楽しいキャラクターカスタマイズの戦略要素だ。
物語もバトルも密度の濃い作品。運命に翻弄され、抗い続けるゼットが辿り着く結末とは……
ルートによって全く異なる物語を楽しめる本作だが、どのルートにおいてもゼットに待ち受ける運命は過酷だ。秘密裏に進められている巨大兵器開発計画、廃棄された都市でかつて行われていたおぞましい実験、サイバースペースへのハッキングなど、SFらしいモチーフも多用されつつ、多面的にストーリーが紡がれていく。『このルートではこうなってしまったが、もしあの時こうしていれば……?』と別の展開が気になることもあり、そうしたifの世界を追求するのも本作の醍醐味だ。
またナナコに、そしてゼット自身に秘められた謎も大きなテーマとして物語を牽引していく。黒幕となる人物達に翻弄され、信じていた秩序や倫理が壊れていく中でも抗い続けるゼットの姿は“宿命を背負った変身ヒーローもの”的な趣もあり、殺伐とした展開も含め勢いと熱量を感じさせる。
クリアまでのプレイ時間は20時間ほど。全体としては長編並みのボリュームだが、中編程度のストーリーの積み重ねという形になるため印象としてはテンポがよい。ダンジョンも1つ1つは短めでさまざまな仕掛けが施されており、キャラクターの移動速度も速く軽快なプレイ感だ。一方で、クリアには必須ではないダンジョンや強敵、サブイベントも散りばめられており、レアアイテム集めなどやり込み要素も充実。物語もバトルも探索も、駆け抜けるような濃厚さが魅力の作品だ。
ソフトウェア情報
- 「ADVINITY」
- 【著作権者】
- 摘草 氏
- 【対応OS】
- Windows XP以降
- 【ソフト種別】
- フリーソフト
- 【バージョン】
- 1.30(16/01/28)