週末ゲーム

第608回

“紋章”を駆使して白熱のバトルを切り抜けていくダンジョン探索RPG「ライオンハート」

“パーティ共有のMP”となる紋章と参加メンバーをローテーションする独自戦闘が魅力

 『週末ゲーム』では、インターネット上でたくさん公開されているゲームの中から、編集部がピックアップした作品を毎週紹介していく。今回は、パーティメンバーや“紋章”を入れ替えながら戦う戦闘が特徴のRPG「ライオンハート」を紹介しよう。

 なお、本作は有償の同人ゲームとして頒布されており、執筆時現在はダウンロード版およびパッケージ版が購入可能。作者サイトでは体験版も公開されている。

冒険者を志す青年と仲間達がダンジョン踏破に挑むRPG

エマから神託の儀式を受けるレオン。シナリオはノベルゲーム風に進行し、要所で挿入されるイベント絵も見所となっている
『魔法を教えてあげるから』と半ば強引にパーティメンバーとなるマリアベル。頼もしい策略家であると同時に、ことを有利に進めるためには少々手段を選ばない節もある、敵に回すと恐ろしい人

 「ライオンハート」は、“天秤(リブラ)の回廊”と呼ばれる迷宮を舞台にしたダンジョン探索RPG。主人公は、冒険者を志す青年“レオン=ライオンハート”。師匠である巨漢の元傭兵“オーシン”と共に、レオンが迷宮へ挑むための拠点となる街へ訪れた所から物語は始まる。

 戦う力を得るため、潜在能力を開花させる“神託の儀式”に臨んだレオンだったが、得られたのは“門番(ゲートキーパー)”と呼ばれる空間転移の力。本人は後衛向けの地味な能力に納得のいかない様子だが、迷宮を徐々に踏破するには便利な力であり、これに目を付けたクールで少し謎めいた女性“マリアベル”の誘いで半ば強制的にパーティを組むことに。儀式を行った昔なじみのシスター“エマ”も加わり、一行は天秤の回廊へと挑んでいく。

 さらにゲームを進めると、小さな身体に大盾を担いだねずみの獣人“カイト”や、猫の獣人で刀使いの傭兵“カグラ”など、人物像も戦闘スタイルも個性的なメンバーがパーティへ加入。メンバー同士の賑やかな掛け合いと、メンバーを随時入れ替えながら戦う独特の戦闘が楽しい作品となっている。

 ゲームは全体マップからクエストやイベントを選択することで進行する。ダンジョンはノンフィールド型で、探索を開始するとダンジョン踏破率を示すゲージ上をマーカーが移動。アイテムの入手や敵との戦闘などが発生しつつ、右端まで到達すればクリアとなる。

全体マップからダンジョン探索のクエストや、イベントを選択してゲームが進行する
ダンジョン探索はノンフィールド型。ゲージ上にある円形のマークはアイテム入手や戦闘といったイベントを表している。ここ以外でもランダムで素材アイテムの入手やザコ戦が発生する

“紋章”とパーティメンバーのローテーションが肝となるバトル

セットした紋章に応じた魔法や攻撃技を使えるようになる

 本作の戦闘はおおまかにはターン制だが、さまざまな独自システムにより戦略性の高いバトルが楽しめるものとなっている。最大の特徴は、火・風・光など7つの属性をもつ“紋章”の存在だ。この紋章をキャラクターにセットすることで、さまざまな魔法や攻撃技を使えるようになる。

 というと、魔法などを使用可能にするための装備品のようにも聞こえるが、それとは少々異なる。ポイントは、紋章は戦闘中でも自由に付け外しが可能な点。そして魔法や技を使うためのMPは紋章自体に設定されており、一度使うと空になってターン経過で回復し、満タンになると再び利用可能になるという点だ。紋章は魔法や技を使うための、交換型の燃料カートリッジのようなものと考えるとわかりやすい。

 この紋章を、“パーティ共有のMP”として活用しながら戦っていく。紋章はキャラクターごとに使える属性が決まっており、また同じ属性でも、キャラクターによって使えるようになる魔法や技が異なる。たとえば水属性の場合、カグラなら攻撃技の“二段突き”、エマなら全体回復魔法“癒やしのしずく”といった具合だ。

 一方、キャラクターの側にもさまざまな行動で消費する“AP”という値が設定されており、とくに紋章を使う行動では多く消費する。戦闘に参加するパーティメンバーは同時に3人までとなっており、ターン開始時にメンバーの入れ替えが可能。待機中のメンバーはHPとAPが回復するため、紋章とキャラクターを組み合わせつつ、ローテーションさせながら戦っていくのが基本となる。

MPが補充された紋章をキャラクターにセットしたり、HPやAPが厳しくなってきたパーティメンバーを交代させたりと、ローテーションが戦闘の肝となる

ターン内の進行はCTB風。発動待ち時間とダウン効果により、さまざまな駆け引きが発生する

敵の攻撃によりダウンを食らうと、一時的にステータスが低下する上、発動待ちの行動がキャンセルされてしまう。代わりに再度コマンド選択が可能だが、消費したAPは戻って来ないので戦術の見直しが必要になることも……
敵の後衛が大技の準備を始めたら後衛まで届くダウン効果の高い技で牽制するなど、ボス戦ではさまざまな戦術が存在する

 ターン内のコマンド選択は行動順が回ってきた時点で行う方式で、ターンが開始すると画面左下に敵味方の行動順が入り交じって表示される。さらに行動によっては発動までの待ち時間があるなど、ターン制だがターン内の進行はいわゆるCTBに近い。

 発動待ち時間は基本的に紋章を使う強力な行動ほど多く、タイミングによっては発動が次のターンへ持ち越しとなることも。さらに、攻撃には対象を一定確率でダウンさせるものがあり、発動待ち中にダウンするとその行動はキャンセルとなってしまう。

 パーティには前衛・後衛の概念があり、戦士は前衛、魔法使いや弓使いは後衛といったふうに、キャラクターごとに自動で配置が決まるほか、一定確率で他メンバーをガードするスキルを持つキャラクターもいる。基本的に前衛が狙われやすいので、“詠唱時間(発動待ち)が長い大魔法の詠唱をキャンセルされないよう、前衛2人で守る”といった状況判断も、戦闘メンバーの編成において必要となってくる。

 また、敵側にも同様に前衛と後衛の概念があり、ボス戦では“前衛にガードされた後衛のボスを倒す”ことが勝利条件となるものも。敵の増援が来ることもあり、前衛を一気に倒してボスを丸裸にするか、あるいは前衛を無視し、後衛に直接攻撃できる飛び道具や魔法を集中的に使ってボスを倒すか……といった駆け引きが重要となる。

 このように、さまざまなシステムにより戦いにおける多様な局面を表現しているのが本作の面白さだ。敵の攻撃は激しく、APも紋章を1~2回使うと足りなくなるため、ほぼ毎ターンごとにメンバーや紋章の入れ替えが発生する。限られた手持ちの紋章を、誰に使わせるのか。MPの回復待ちを、別の紋章や紋章を使わない技も駆使しつつどう凌ぐか……等々、考えるべきことは多い。

 思わぬ大ダメージを食らって回復や防御に手数を取られたり、せっかく準備した行動がキャンセルされたりと、考えた通りには行かないこともままあるが、それだけに、狙った戦術がピタリとはまった時のカタルシスは格別だ。パーティメンバーの入れ替えはターン開始前だけだが、紋章はターン中にも随時入れ替え可能なので、状況に応じて戦術を見直したりと、常に緊迫感のある戦いが演出されている。

戦闘はボイス付きで、カットインの決め台詞も見所。なお、シナリオも一部ボイス付きとなっている

 魔法の派手なエフェクトや、ボイス付きの格好いいカットインなども見所ではあるが、大技を連発できるような爽快感重視の作品とは趣が異なる。MP/APというリソースがカツカツな状況や、強大なボスに追い込まれて全員瀕死といった状況から、考えに考え抜いてどう切り抜けていくのか。本作のテーマである『前を向くものだけが、先に進むことを許される。』を体現したかのような、“静かにアツい”戦いを存分に堪能できる作品だ。

戦闘スタイルに応じた紋章のカスタマイズも醍醐味

 紋章はゲームの進行で徐々に増えていく。ある程度ゲームを進めると可能になる“錬金”により、素材アイテムを使って威力を高めたり、特殊効果を付けることも可能だ。特殊効果はMPの回復速度を上げる、魔法の詠唱時間を早める、物理攻撃のダウン効果を上げるなど紋章に個性をつけるものとなっている。

 さらに、素材を使って紋章を別の属性に変えることも可能。また、この際ランダムで、紋章の最大MPが変化することもある。最大MPが高い紋章ほど効果が高くなるが、その分MPが回復して次に使えるようになるまでのインターバルも増えるというわけだ。

 頻繁に使いたい魔法の属性を増やしたり、MPが低い紋章にダウン効果を上げて敵が技の準備に入った時の牽制用にしたりと、属性変更や特殊効果の付与により、自分の戦闘スタイルに応じた紋章のカスタマイズができるのも本作の楽しみとなっている。

 また、各キャラクターが使える魔法や攻撃技、パッシブスキルもゲーム進行で増えていく。メインシナリオ上で覚えるものもあるが、多くはこれも素材から錬成する“剣技指南書”などの本を使って覚える仕組み。覚える際には修行風景など、ちょっとしたサブイベントも見ることができる。

錬金により紋章のカスタマイズが可能。属性を変更したり、特殊効果を付与できる
キャラクターを強化するサブイベントでは、修行風景や街での一コマなど、それぞれのキャラクターの魅力を気軽に垣間見ることができる

やり込み要素も充実。迷宮の真実に迫っていくシナリオと、白熱のバトルを存分に堪能できる作品

探索を進めるにつれて、レオン達は迷宮をめぐるさまざまな思惑に関わっていくことになる

 腕試しとして迷宮の探索を続けるレオン達だったが、なぜか迷宮を封鎖する騎士団の動向や、何かを隠していそうなマリアベルなど、徐々に迷宮自体の謎にも迫っていく。やがて、オーシンも関わったという20年前に“天秤の回廊”で起きた戦いや、そのさらに奥に隠された真実に触れ、レオンはその意志を問われることになる。さまざまな人物の思惑が絡み合いつつも、真っ直ぐ前向きなレオンが出逢いと戦いを経て成長していき、皆をまとめ上げていくシナリオも大きな見所だ。

 プレイ時間は公称で20時間以上。メインクエスト以外で強敵と戦えるダンジョンや、素材を集めて錬金で装備作成などやり込み要素もあり、バトルと育成を存分に楽しめる。ゲーム後半には紋章やパーティメンバーのローテーションにも新しい仕掛けが加わり、より強力な魔法や技でバトルを繰り広げることが可能。体験版も用意されているので、一手ごとに考えたり、ギリギリの熱戦を潜り抜けるのが好きならぜひ試してみてほしい。

中盤から登場する精霊使いの少女“シーラ”。腹黒策略家のマリアベル、おちゃらけているようでいてここぞという時は凄みを見せるカグラ、お姉ちゃんキャラのエマ……とレオンにとっては油断のならない本作女性陣の中で、珍しく?守ってあげたくなるタイプのヒロイン。慌てると一人称が“ぼく”になる。シナリオパートでは豊富な顔グラフィックにより描き出されるキャラクターの表情も魅力
強大なボスとの戦いでは、文字通りの死闘が繰り広げられる
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ソフトウェア情報

「ライオンハート」
【著作権者】
十三妹
【対応OS】
Windows Vista/7/8(編集部にてWindows 10で動作確認)
【ソフト種別】
ダウンロード販売 2,484円、パッケージ委託販売 2,160円など(税込み、体験版あり)
【バージョン】
2.2g(15/08/20)

(中村 友次郎)