生成AIストリーム
「Sora 2」で蹂躙されたAI時代の著作権と“反撃の狼煙”
OpenAI「Sora 2」は“文化的蹂躙”か。CODA・政府・NTTが上げた“反撃の狼煙”を徹底解説
2025年10月30日 13:42
今月の初め本連載で、OpenAIの「Sora 2」が巻き起こした日本の現行著作権法との摩擦について問題を提起しました。この問題について最近大きな動きがあったので、今回はそれについて解説したいと思います。
蹂躙:「Sora 2」が仕掛けた“三方向の挑戦状”
OpenAIが2025年9月30日に発表した動画生成AI「Sora 2」は、単なるバズり動画を生成するサービスや技術革新ではなく、日本の法制度に対する意図的な挑戦であったと筆者は考えています。
『著作権法うわのソラ作戦』と日本の利用者の倫理観
この挑戦は、本連載の以前の記事で、すでに“三方向の挑戦状”として整理しました。
- 肖像・声の権利:“カメオ”機能による肖像権、および声優の実演家の権利(著作隣接権)の無視。
- リミックス文化の強要:米国型“フェアユース”的なリミックス文化を前提とした設計による、日本の“同一性保持権”への抵触。
- 法的地位の空白への攻撃”:著作物性が曖昧なAI生成物を“無料アプリ”で大量生産させ、法的救済を困難にする“マッシブ攻撃”。
① 肖像・声の権利: 「カメオ」機能による肖像権、および声優の実演家の権利(著作隣接権)の無視
「Sora」アプリはユーザーの顔画像をキャプチャーして3次元的なデジタルツインを生成し、共有する機能を備えています。肖像権の再利用は本人による許諾制ですが、そのリアルなキャラクターが喋る際の”声”は出自が不明です。特定の声に対する実演家の権利や、楽曲(そのままの楽曲が出てくることがあります)については権利が不明瞭です。
鹿と戯れる@samapic.twitter.com/J6X3UPEHHI
— Dr.(Shirai)Hakase - しらいはかせ (@o_ob)October 4, 2025
この動画は「Sora 2」で生成した『鹿せんべいと戯れるサムアルトマン』ですが、『鹿せんべい』といった日本特有の(あるいは“ニッチな”)素材を学習している点から、意図的に日本の文化や食といったデータを学習している可能性があります。声についても、声優ファンであれば元の声を言い当てることができるレベルで明瞭な生成がなされることがあります。
② リミックス文化の強要: 米国型“フェアユース”的なリミックス文化を前提とした設計による、日本の“同一性保持権”への抵触
本連載の読者の皆様に『日本にはアメリカのような包括的な“フェアユース(公正利用)”の規定はありません』という話はもはや釈迦に説法かもしれませんね。日本の著作権法第32条の『引用』など、個別の例外規定として認められるには、主従関係の明確化、明瞭な区分、出典の明示といった要件を満たす必要があります。
音楽分野で文化として醸成された“リミックス”を動画で実現した「Sora 2」の技術力には感服しますが、日本の著作権には著作者の意に反して勝手に変更・改変されない権利、“著作者人格権”があります。同一性保持権、つまり著作者からみた第三者に『自分の著作物やタイトルを変更されない権利』です。これは財産権ではありませんが、『お気持ちを主張してよい』という“心の権利”がある点が日本法の特徴です。
③ 法的地位の空白への攻撃: 著作物性が曖昧なAI生成物を“無料アプリ”で大量生産させ、法的救済を困難にする“マッシブ攻撃”
そもそも上記の通り、明確に著作権法やその他の法律に抵触しており、非常にカジュアルな方法で“AI海賊版動画製造サービス”として利用することも可能である「Sora 2」ですが、OpenAIのようなブランドを確立したポジションにいるユニコーン企業が日本市場において無料アプリを使って大量にグレーゾーンを越境してくると、IPステークホルダー各位にとっては“オプトアウト”で対応するにも人的な労力が追いつかない現状は、想像に難くありません。
また、3月にリリースされたChatGPT画像生成による“ジブリ化”は記憶に新しいです。西海岸、特に北米スタートアップ界隈が集まるサンフランシスコでは『赤信号をみんなで渡れば怖くない』、『日本のユーザーもたくさん使っている』といった話題が交わされていました。
筆者が関わるクリエイティブAI業界においては、この『日本の牙城をいかに崩すか』にベットしている投資家もそこそこにいると感じています。彼らは日本のアニメを中心とした“名前タグ”(特定のIP名で学習させている)や類似性・依拠性の高い画像生成を売り物にしており、『日本からもたくさんのユーザーが利用している』と鼻息荒く投資家から資金を集めています。このあたりはAI時代の“カリフォルニア南北戦争”として紹介してきました。
“著作権法うわのソラ作戦”の先にある“AI税”と“AI貿易赤字”のダブルパンチ
利用規約を素直に読めば、“オプトアウト”で問題がある動画に対応するとのことです。しかし利用者視点での体感では、米国のIP(アイアンマンなど)はブロックしつつ、日本のIP(ジョジョ、初音ミクなど)は生成可能でした。この“差別的フィルタリング”こそが、日本市場と法制度が“蹂躙された”証拠であると認識せねばなりません。
オプトアウト申請は大変骨の折れる作業です。作家としてこの手の作業をすることもあるのですが、沢山の作品があればその申請の回数も多くなります。販売するために申請作業をするならともかく『本来権利を持っているのは僕なのに……』と思いながらボランティア作業をさせられる印象があります。オプトアウトすることによって収益が増えるわけではありませんからね。ただでさえサブスクリプションやGPU代、API費用などを支払っているAIクリエイターとしては、AI貿易赤字になりがちなのに、オプトアウトでお気持ち表明のボランティア活動をさせられるかと思うと『もっとスマートな方法ないの?』と感じます。
現在のアプリ版「Sora」はリリース直後に比べ、次第にブロックされるIPが多くなり、現在では本来のカメオ機能でパロディ動画をつくるよりも、オリジナルの動画をつくることに活用しているユーザーが多いです(筆者もかなり面白いものを作れるようになってきました)。当初のサム・アルトマンのブログによれば『日本のユーザーの創造性を賞賛』しつつ『報酬制度をつくる』という宣言もありました。実際のところ“バズるパロディ動画”や“フェイク動画”が流行ったとしても、依拠する原作を信頼感高く使えなければ、「Sora 2」の価値は半減以下でしょう。もちろん画像生成AIの使い手として、シーン生成技術などは素晴らしいので、12秒で500円もするAPIを使わずに、コミュニティが開発してくれた素敵なツールを使って補足的に利用しています。学習元さえハッキリしてくれればな、という切なる思いです。
- 🔗「Sora2 Frame Splitter」はSora2の生成動画をカット割りに使えるツール、しかも無料でオープンソース!
- https://note.com/aicu/n/nc6f9543a687a
サム・アルトマンがいうような“報酬”は本来、このような便利なツールを開発する人々や、基盤モデルの学習元データである原著作に還元されるべきで、そのトレーサビリティ技術やログ、監査などOpenAI側にはそれらを可能にする技術があるはずです。そうでなければサブスクリプションとして“AI税”のような徴収をする立ち位置ではありません。
月額の利用料金を支払い、著作権解決を行うという視点では、音楽生成サービス「Suno」と「Udio」が大手レコード会社から著作権侵害で提訴された問題があります。主な争点は、AIが既存の著作権保護された楽曲を無断で学習データとして使用したかどうかです。RIAA(全米レコード協会)が訴訟を主導しており、AIによる著作権侵害の規模と影響が問われていますが、実際、楽曲生成で様々な音楽を生成し、収益化を達成しているユーザー視点では『きちんと著作権を解決してくれているなら支払う価値がある』という印象を持っています。
クリエイティブAIの未来に“AI税”があるのであれば、そのルールを作るのは国であるべきでしょう。そしてその文化圏の“年貢”を支払うべきは受益者であるOpenAI側ではないでしょうか。クリエイターは受益者でもありますが貢献者でもあります。特に改正しなくても、著作権法はこれまでもこれからも、クリエイターをまもり、育てるエコシステムとして機能します。
今はこの“文化の上流”をきちんと押さえなければならないタイミングです。学習元がなければパロディ動画はつくれません。無断学習は“著作権法第30条の4”で可能とされていますが、『特定の著作物が類似生成される場合、学習過程の複製行為そのものが侵害に該当し得る』という『非享受目的』の『但し書き』があります。利益独占企業であればなおさら、この『非享受目的』であることを説明することが難しくなります。
反撃:2025年10月下旬、日本が上げた“三本の狼煙”
“潮目”の変化
この“蹂躙”に対し、2025年10月中旬以降、日本は無抵抗から脱却しました。抽象的な法解釈の議論は終わり、“潮目”が変わりました。法務・政治・市場の三方面から、明確な“反撃の狼煙”が上がったことを記録しておきます。
狼煙① 法務・産業界の結束:CODAの要望書(10月27日)
CODA(一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構)がOpenAIに提出した要望書によると、要求は以下のシンプルな2点です。
【要望内容】1. Sora 2の運用において、CODA会員社のコンテンツを無許諾で学習対象としないこと
2. Sora 2の生成物に関連する著作権侵害についてのCODA会員社からの申立て・相談に真摯に対応すること
OpenAI社に「Sora 2」の運用に関する要望書を提出 | 一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)より引用
これは単なる“お願い”ではありません。『オプトアウトは日本法上無効であり、事前の許諾が必要である』こと、そして『特定の著作物が類似生成される場合、学習過程の複製行為そのものが侵害に該当し得る』という、 著作権法第30条の4の『但し書き』に踏み込む、明確な法的立場の表明 であると考えていいでしょう。
狼煙② 政治・行政の介入:平将明デジタル大臣(当時)の発言
10月7日には平将明デジタル大臣が、OpenAIと対話していることを明らかにし、同12日にはテレビ番組で“オプトイン方式”への変更を要請していると発言していました。
平将明デジタル相は12日のTBS番組で、米オープンAIの動画生成AI(人工知能)サービス「Sora2」に対して著作権侵害の懸念が出ていることへの対応を説明した。同社に対し、事前に同意を得る「オプトイン」の方式をとるよう要請していると明らかにした。
狼煙③ 市場・技術の対抗:NTT西日本「VOICENCE」発表(10月27日)
“三方向の挑戦状”の一つである“声の権利”問題に対し、NTT西日本が具体的かつ強力な技術とサービスをリリースしました。
「VOICENCE」は、無断利用と戦うだけでなく、“公認AI”とトラスト技術による“真正性証明”を核に、適法なライセンス市場と“声の経済圏”を創造しようとする試みです。
現在でもC2PAなどの国際標準化団体により真正性証明およびそのファイル形式が推進されており、キヤノン、ソニー、NHKなどが参加しています。筆者が運営しているAICUにおいても真正性証明や対価報酬の設定などは研究開発を行っています。法整備上は“問題がない”とされることが多い、声の権利、画風や二次創作といったところにタダ乗りしている“AI海賊版”を淘汰する市場原理での“反撃”といえるでしょう。
啓蒙:法実務家と権利者に今、求められる“次の一手”とは
以上のように、10月に始まった『Sora 2の挑戦状』に対し、かなり早い段階で狼煙が上がった状態です。しかし、これは“戦いの終わり”ではなく“始まり”であると考えます。日立やソフトバンクをはじめ、多くの日本企業・官公庁からの信頼を得たサム・アルトマン氏やOpenAIが、日本と正面を切って戦うのか、それとも個々に示談を行っていくのでしょうか。
本稿の提言(啓蒙)
これはかつて存在した“違法ソフトのダウンロード”と同じ構図です。『赤信号をみんなで渡れば怖くない』という考え方もありますが、生成AIは学習してしまったら、もう2度と頭を下げる必要はなくなります。ソフトウェアのコピーとは異なり、複製物に新しい権利すら生まれる可能性があります。
AIクリエイティブ時代に『つくる人をつくる』というビジネスを推進しているAICUとしては、AIツールの進化発展は注目ですが、倫理観のあるクリエイターは、明らかに原作者の不利益につながるような道具を使いたいとは思っていません。グレーゾーンの多いAIモデルは原作者の不利益に関わるリスクも多くなります。AIによるクリエイティビティが今後も継続的に価値を出し続けていくためにも、グレーゾーンや玉虫色の判断ではなく、“法整備”という言葉の下(もと)に立法に頼り続けるのではなく、AI時代の法律の解釈を明確にするためには、やはり 司法、つまり“訴訟による判例の確立”が不可欠になるフェーズ にあると感じます。
特に、第30条の4『但し書き』の適用範囲を司法の場で確定させる必要があり、text2videoにおける権利侵害、具体的には“名前タグ”による“依拠の証拠性”、商標侵害、画像だけでなく声や楽曲といった隣接権、そしてimage2videoにおいては、アップロードされた画像の翻案権、公衆送信権などが該当します。個社対応ではなく、意見集約のための集団訴訟、クラウドファンディング、CODAの動きに続く、業界横断的な集団訴訟や統一ライセンス窓口の設立を急ぐべきであると考えます。
AICUは「VOICENCE」のような“防衛”と“収益化”を両立するインフラ構築をオープンソースで推進し、有効な知財の獲得やサービスの開発を続けています。重要なのは“AIツールを使うこと”を目的にするのではなく、“つくる人が作り続けていけること”、もっと根本的な価値創出、つまり“クリエイティブAIという文化”やコミュニティ、ネットワークとエコシステムの構築です。AICUとしては、日米で3年にわたってこれを推進してきました。生成AIクリエイティブ企業として信頼あるポジションにおり、幸いなことに挑戦も案件も多くいただいていますが、日本がこのまま「Sora 2」のような『赤信号をみんなで渡る』といった“戦えば勝てる訴訟”を見逃していくと、将来的にはいくらAIツールを使っても“AI貿易赤字”となることが容易に想像できる未来がやってきます。
日本が強いアニメ・漫画・ゲームといった資産や文化土壌にあぐらをかくことなく、今後も文化的・技術的・倫理的に高い視座から、学習元データをきちんと公開させて、公正な対価を支払わせる仕組みを構築しなければならないのではないでしょうか。
著作権侵害を“うわのソラ”でバズ動画を傍観して笑っている時代は終わりました。法務・実務・ビジネスの現場から、日本のクリエイティブな文化、そこに根ざす知財を守るための具体的かつ戦略的な行動を起こす時が来ています。本稿がその“啓蒙”の一助となることを願います。もし現在の生成AIが、人類全体の知やスキルの共有分配システムとして文化的に発展するのであれば、それはそれでみなさんにとって利益があるのではないでしょうか?
この話について、Change.org で署名活動を開始しました。みなさんのご意見を聞かせてください。
- 🔗商用AIは日本作品で利益を得ている、でも報酬はゼロ? 〜商用AIモデルに「学習データの公開」と「公正な報酬」を義務化してください〜
- https://www.change.org/AI-eco-for-creators
日本政府およびAI開発企業に対し、商用の画像・動画・音声生成モデルについて、以下の2点を法律で義務化するよう強く求め、可能な限り対話を求めます。
- 学習元(学習データ)の情報を公開すること
- 学習元の作品クリエイターに対し、正当な対価が支払われる仕組み(報酬設定)を構築すること
AIを禁じずに、使いたい人(受益者)が、使うべき教科書を書いた著者に対価を支払う。非常にシンプルなルールを日本で生成AIを使って商売をする事業者に対して設定するだけです。無線に例えれば電波利用料です。お金を払ってでも使いたい価値があるのに、いつの間にか権利の所在を失ってはなりません。
AICU Japan株式会社 X@AICUai 代表/作家/生成AIクリエイター/博士(工学)。
「つくる人をつくる」をビジョンに、世界各地のCG/AI/XR/メディア芸術の開発現場を取材・研究・実践・発信している。





















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