生成AIストリーム

ChatGPT“ジブリ化”で問われている生成AI時代の著作権(1) ジブリ化の経済効果

連載「生成AIストリーム」、AICUのしらいはかせ(X:@o_ob)です。

2025年4月から5月にかけて、フランスとサンフランシスコとロサンゼルスを行き来して、生成AI、特にクリエイティブAIにおける各国の『ネットでは見えない真実』を取材してきました。

その中で知ったChatGPTとジブリ風スタイル模倣に揺れるアメリカ西海岸の生成AIプレイヤーたちの著作権解釈、そしてそのキーになっている日本への視線と理解、その対話の現場で感じたリアリティをお届けします。

ジブリ風イラストが「フェアユース」の境界線をあぶり出す

日本時間の2025年3月26日、OpenAIはChatGPTの基盤モデル「GPT-4o」に、画像生成機能を追加しました。

X(旧称Twitter)では『ジブリ風AIアバター』ミームが大流行。「GPT-4o」の画像生成機能とともに、誰もが“スタジオジブリ”の世界観を再現できる時代が来てしまったのです。オープンAIのサム・アルトマンCEOも、最初は乗り気ではなかったようですが、翌日3月27日にSNSのXの、みずからのプロフィール写真を『ジブリ風』だとする画像に変えました。

>be me>grind for a decade trying to help make superintelligence to cure cancer or whatever
>mostly no one cares for first 7.5 years, then for 2.5 years everyone hates you for everything
>wake up one day to hundreds of messages: "look i made you into a twink ghibli style haha"

--日本語訳--

超知能を作ってガンとか治そうと10年間がんばる
最初の7年半はほとんど誰にも相手にされず、残りの2年半は何をしてもみんなから嫌われる
ある朝目を覚ましたら、何百件ものメッセージが届いてる:「君をジブリ風の美少年にしてみたよ、ハハ」


サム・アルトマン氏のXから引用

これは典型的な「>be me」形式のネットミーム調の文体(いわゆる“グリーンテキスト”)で、真面目な研究者人生と、それが突然ネットでジブリ風のミームにされる現象とのギャップを皮肉と笑いで表現しています。そのツイートに対する、Stability AIの元共同創業者であるエマド・モスタク氏のリプライの皮肉が効いています。

My timeline is AGI

All
Ghibli
Images

--日本語訳--
僕のタイムラインはAGI(汎用人工知能)だよ

All(全部)
Ghibli(ジブリ風)
Images(画像)


エマド・モスタク氏のXより引用

「ジブリ化」の経済効果

実際にジブリ化を作った人物を見つけたので引用しておきます。

I'm Mark Chen (@markchen90), Chief Research Officer at OpenAI and I've uploaded my profile picture. Generate an image of a Tweet about the launch of GPT-4o native image generation - include a Studio Ghibli-style generation in the post.

--日本語訳--
私はMark Chen(@markchen90)、OpenAIのチーフリサーチオフィサー(CRO)です。プロフィール画像をアップロードしました。 GPT-4oのネイティブ画像生成のローンチに関するツイートの画像を生成してください――スタジオジブリ風の生成例を投稿に含めてください。

Mark Chen氏のXより引用

この投稿は、OpenAI公式の研究責任者が『ジブリ風の画像生成』をGPT-4oのPRの一部として認め、促進していることのエビデンスと捉えることができます。

  • スタイル模倣がOpenAI公式アカウント・研究責任者レベルで言及されている
  • 使用されているのは『ジブリ風(Ghibli-style)』という明確な語句
  • それを『デモ用途』として活用する意図がある

このことは、ジブリ風画像生成が単なる個人利用に留まらず、商業・プロモーション用途でも波及し始めていることを示しています。著作権・依拠性・スタイル模倣に関する議論の文脈において、非常に示唆的な資料です。

もちろん、米国にも「ジブリ風AI画像ではしゃいでないで、IMAX見に行きなよ」という意見もしっかりあります。



ちなみに、ちょうどこの3月26日には宮崎駿監督の名作『もののけ姫』が、北米のIMAXシアターで4Kリマスター版として再上映された週で、予想外の人気でニュースになっていました。タイミング的に偶然とは思いますが、ジブリ風AIアバターとの相乗効果があったことが想像できます。

PRINCESS MONONOKE 4K Restoration | Official Trailer - In IMAX® March 26

IMAX 4Kでリマスターされた『もののけ姫』は、その美しさ評価が高く、週末興行収入推定額は、予想を上回る400万米ドル(約5.8億円)以上となり、北米興行収入ランキングで6位にランクインしました。上映スクリーン数はわずか347スクリーンで、1スクリーンあたり平均興行収入は約11,527米ドル(約167万円)でした。

参考までに2022年11月に愛知県長久手市の愛・地球博記念公園内にオープンした「ジブリパーク」の年間来場者数は約180万人、経済波及効果は年間約480億円と予測されていました。ジブリパークの構想は2017年5月に愛知県とスタジオジブリの間で合意され、2005年の愛・地球博から17年、計画合意から5年をかけて開発されたものです。実際には予想を上回る来場者ペースで280万人ほどだそうです。入場料を平均して3,800円とすると、1週間あたりの直接収益は2億円。スタジオジブリに直接入ってくる収益ではありませんが、確かに遠方からの宿泊客などのお陰で経済効果は年間480億円という規模を超えるそうです。

「画風が真似できる」ということは世界観を表現できるということでもあり、日本IPが作り出した「世界観」と、その経済効果は作品を作ったスタジオだけでなく、舞台や応援する地域といった周辺の経済にも影響を及ぼします。「ジブリ風画像はAIで気軽に作れる」という認識や日本人側の理解は、ミームや雰囲気で流されるべきものはなく、「無料」でもなく、パークの来場者数や実際のリマスター版の売り上げなどの経済効果としてきちんと数字を把握していくべき内容です。

日本は法律上の「画風は著作権では守れない」という一点張りではなく、日本IPが作り出した「世界観」とその経済効果は無視されるべきものではない、ということを認識すべきでしょう。

以上が米国でジブリ風AI画像生成が起こしていた現象です。次回は、ジブリ風AIアバターで明らかになった米国のAI技術者が考える著作権の捉え方と、現在起こっている問題について話します。