【第20話】
Metroという名の個性
(12/08/07)
Windows 8の目玉機能は、“Metroスタイル”と呼ばれる新しい形のアプリケーションだ。MetroスタイルはWindows 8上でしか利用できず、そのアプリは、専用サイトである“Windows ストア”を通してのみユーザーに提供される。このようにMetroスタイルのことを説明すると、限定的で閉鎖的な印象を受けるだろう。
Metroスタイルの“Metro”というコンセプトはもともと、ユーザーインターフェイスをデザインするために生まれ、地下鉄の案内標識などのように、シンプルかつ機能的なデザインを意識したものだ。つまり、“限定的”“閉鎖的”とは真逆のコンセプトになる。実際、マイクロソフト社はデザインコンセプトとしての“Metro”を広く採用しており、それはWindows 8のMetroスタイルだけに留まらない。
たとえば、オフィス統合環境の次期バージョン「Microsoft Office 2013」や、開発環境の次期バージョン「Visual Studio 2012」のほか、先日発表されたばかりのWebメールサービス“Outlook.com”でも“Metro”をUIデザインとして採用している。これは単なる見た目の話なのではなく、使い勝手の面でもシンプルかつ機能的なデザインを目指しており、Metroスタイルのアプリにも当てはまる。
マイクロソフト社がこれまでに提唱したことがあるデザインコンセプトといえば、同社製オフィス統合環境を中心に採用された“リボンUI”を思い出す。しかし、このリボンUIは普及するどころか、いまだにかなりの不評ぶりだ。「Microsoft Office 2007」と「Microsoft Office 2010」のリボンUIを「Microsoft Office 2003」風のツールバーへ切り替えるアドオンを窓の杜で紹介したときには、週間アクセスランキングで1位を獲得するほどの関心を集めた。
一方、デザインとしての“Metro”はいまのところ評判がよく、Twitterクライアントの「MetroTwit」は1年以上も前から“Metro”に注目しているほか、テキストエディターの「MetroTextual」や、“GitHub”クライアントの「GitHub for Windows」など、そのコンセプトを取り入れたオンラインソフトが登場してきている。
これまで圧倒的なシェアを維持し続けたWindowsには、その当たり前な存在が故に個性はあってもなかったようなものだった。逆にApple社のMac OSやiOS、Google社のAndroidは、それ自身が個性になっている。複数のOSが台頭している今だからこそ、シンプルかつ機能的という“Metro”のコンセプトが広まれば、Windowsで初めての個性となるかもしれない。