#モリトーク
第48話
IE10が示す現在と未来
(2013/3/5 10:17)
先週、「Internet Explorer 10(以下、IE10)」がWindows 7向けに公開された。IE10はWindows 8に標準で搭載されているWebブラウザーであり、とくに目新しさはないものの、ユーザー数がもっとも多いWindows 7向けということもあってか、その注目度はやはり高いようだ。Windows Updateでは今のところ配信されていないため、IE10の導入は任意となるが、Windows 8が発売されてから4カ月間以上も実地で検証済みなので、積極的にアップデートしてもよいのではないだろうか。そのためにも、IE10の新機能を簡単に復習してみよう。
といっても、新機能と呼べるほどの変化は少なく、描画速度が20%向上した最新のHTMLレンダリングエンジンとJavaScriptエンジン、HTML5をはじめとするWeb標準への対応くらいだ。ただし、新仕様には注意すべき点があり、“Do Not Track”機能が標準で有効になっている。
“Do Not Track”は、Web広告などに活用されている“トラッキング”を拒否する仕組み・機能であり、Webブラウザー側でON/OFFを切り替えることで、トラッキング拒否の意思をWebサイトへ伝えることができる。IE10以外のWebブラウザーでは“Do Not Track”機能が標準でOFFになっており、IE10での『標準ON』は異例だ。詳しくは本コラムの第34話・第35話で解説しているので、注意点などを確認してほしい。
つまり、IE10はよくも悪くもIE9とさほど変わらない。こうした変化の少ないアップデートはIE10だけに限らず、Webブラウザー界の主流になっている。「Google Chrome」が登場して以来、シンプルかつ高速動作な路線が浸透し、無理に多機能化せず、ブラウジングに必要な基本機能を強化する傾向にある。これがWebブラウザーのコモディティ化につながり、どのWebブラウザーを使用しても機能面では大きな差がなく、ユーザーインターフェイスや使い勝手も似る結果になった。
コモディティ化する以前のWebブラウザーには、それそのものの操作を楽しむ側面も多分にあり、拡張機能の元祖である「Firefox」が人気を集めるようになったのも、さまざまな機能を追加して遊べる点が大きく影響しているだろう。逆に現在では、Webコンテンツ・サービスの多様化が著しいため、それらを閲覧するためのWebブラウザーはシンプルであるほうがよいのだ。そういう意味では、Webブラウザーのコモディティ化は必然だと言える。
主要なWebブラウザーがコモディティ化する中、使う楽しみを提供してくれるWebブラウザーもまだ残っており、その代表が「Sleipnir」だろう。「Opera」も以前は、今では欠かせないブックマーク同期機能を最初に搭載するなど、新機能の開発に積極的だったが、コモディティ化を避けることはできず、残念ながら自社製レンダリングエンジンがWebkitへ置き換わることも決定している。もしかすると、これも必然なのかもしれない。
自前でレンダリングエンジンを開発していると、多様化するWebコンテンツ・サービスに応えるため、描画および閲覧機能に重点を置くことになり、IEや「Google Chrome」「Firefox」がそうであるように、同じ方向に進まざるをえない。その一方、「Sleipnir」のように外部のレンダリングエンジンを採用すれば、ソフトとしての個性を生み出すことに注力できる。実際、Opera社はレンダリングエンジンの変更を発表したときに、Webkitの開発に関わるとしつつも、イノベーションの創造に集中すると説明しているので、かつて先進的だったときの自分自身を取り戻す日も近いのではないだろうか。