週末ゲーム

第618回

愉快な仲間がざくざく集結!シナリオもバトルも充実の王国運営RPG「ざくざくアクターズ」

8人パーティによる戦闘は歯応え抜群、「らんだむダンジョン」を受け継いだハクスラも魅力

 『週末ゲーム』では、インターネット上でたくさん公開されているゲームの中から、編集部がピックアップした作品を毎週紹介していく。今回は、多数の個性的なキャラクター達が登場する長編RPG「ざくざくアクターズ」を紹介しよう。

仲間キャラクター数十人!大ボリュームで描かれる長編RPG

ワープアイテム“キーオブパンドラ”を手に入れたデーリッチ達は、ハグレが自由に暮らせる王国を夢見て勧誘へと旅立つ

 「ざくざくアクターズ」の舞台となるのは、召喚技術によりさまざまな異世界から召喚された技術や人、物であふれた世界。行きすぎた召喚により増えすぎてしまった別世界からの住人達は“ハグレ”と呼ばれ、差別や迫害の対象となっていた。そんな中、座標さえわかればどこにでもワープできるアイテム“キーオブパンドラ”を手に入れたハグレの少女“デーリッチ”とその親友“ローズマリー”は、これを利用してハグレを集め、辺境の遺跡を拠点として自分達の王国を作ることを計画。参謀役であるローズマリーが集めた情報をもとに、ハグレの勧誘に向かうところから物語は始まる。

 公称プレイ時間は50時間程度とシナリオもダンジョンも大ボリュームの作品だが、その中でもフリーゲームとしては……などと前置きするまでもなく規格外と言える数を誇るのが、デーリッチにより王国へ勧誘され、パーティメンバーとなるキャラクターの数。ネタバレを避けるため詳細は伏せるが、“数十名”といって差し支えない数のキャラクターが実際に戦闘へ参加する仲間となる。本記事の冒頭に掲載したタイトル画面はゲーム開始直後のものだが、最終的にはこの画面がキャラクターでいっぱいに埋まると言えばイメージが伝わるだろうか。

 獣人や幻獣、妖精、悪魔、果ては神様まで、種族も出自もバラバラなハグレ達それぞれの個性が、メインシナリオでの活躍に加え多数のサブイベントなどで存分に描かれる。サブイベントはコント調のものが中心で、天真爛漫でボケ役としてセンスを発揮するデーリッチ、思慮深い苦労人でネタ会話ではツッコミを一手に引き受けるローズマリーを筆頭に、誰も彼もが自己主張が激しいか、さもなくばいじられ役として引っ張り回されるか……いずれにせよ王国はいつもいい意味で騒がしい。オリジナルのイラストも豊富に用意されており、これだけの数が居ても埋もれるキャラが一人も居ないと言えるくらい、皆キャラが立っている。

デーリッチ達の勧誘に応じた者のほか、自分から王国を訪ねてくる者、戦った結果なんやかんやで仲間になる者など、ハグレ達が王国に参加するきっかけもさまざま
特定キャラクターの加入など条件を満たして拠点で休息するとサブイベントが発生。キャラクター達の掛け合いを楽しめる
ダンジョン探索中にもところどころで会話イベントが挟まれる

 本作を開発したのは、ダンジョン探索RPGの名作「らんだむダンジョン」の作者であるはむすた氏。テンポのよいハック&スラッシュライクなダンジョン探索、多彩な攻撃を仕掛けてくるやり込みがいのある強敵、コント調の会話からアイテムの説明文までユーモアにあふれたテキストなど同作から受け継がれている要素も多いが、今作では前作以上にシナリオ面が充実。集う仲間たちと共に楽しく冒険しつつ、ときには王国に訪れる危機を力を合わせて乗り切ったり、召喚というシステムや世界そのものの謎に触れたりと、波瀾万丈の物語が展開する。

 コメディをベースとしつつも、そんな中で培われた仲間との絆を感じさせる展開に胸を熱くしたり、そして不意打ちのように挟まれる、ハグレへの差別をはじめとしたシビアな現実にはっとさせられたり。楽しいだけではなく喜怒哀楽すべての感情を揺さぶるシナリオはときにシニカルでもあるが、笑いと真心、自由な発想と機転により危機を乗り越えていくデーリッチの“小さな王様”ぶりと、それぞれのスタンスで彼女を慕い、支えていく仲間達の姿は本作の大きな見所だ。

案外この世界に馴染んでいるようにも見えるハグレ達だが、異世界から召喚されたということは当然、家族や友人を残してきた者も居る。そんなことに気付かされる場面も
見た目は幼いが、これでも一国を預かる身。ときにその言葉は王としての重みを持つ

 ゲームの基本的な流れは、王国の会議で探索場所の提案を受けることで新たなダンジョンが出現し、これを攻略しつつシナリオが進行。クリアすることで新たな探索場所が提案される……という繰り返し。ダンジョンには前作「らんだむダンジョン」と同様に、至る所にアイテムが落ちており通過するだけで取得可能。エンカウント方式も同じくシンボルエンカウントで、フィールドを駆け回って敵を倒しつつ(あるいは避けつつ)山ほど配置されたお宝をゲットしまくるというハック&スラッシュを十二分に堪能できる。

フィールド上の光る点を通過することでどんどんアイテムを入手できる
一部のダンジョンではランダムイベントも発生

キャラクター交代が肝となる8人パーティバトル。挑戦しがいのある強敵がざくざく!

キャラクター交代を駆使した8人総力戦が特徴
シナリオ上のボス戦など、一部の戦闘ではローズマリーによるアドバイスがもらえることも

 本作の戦闘システムは、ターン制のコマンド選択型。MPの他に戦闘中の行動で増える“TP”を使用するスキルがあるなど基本は本作の制作ツールである「RPGツクール VX Ace」の標準的なものだが、キャラクターが多い本作ならではのシステムが“戦闘中のメンバー入れ替え”だ。パーティは基本的に8人編成で、このうち4人が前衛として直接敵と戦うが、毎ターンの開始前に残りの4人と自由に前衛メンバーを入れ替えることができる。

 とくにボス戦はこのシステムを前提にバランスが組まれているようで、敵の攻撃はなかなか激しい。傷付いた仲間を下がらせる、回復役を温存するなど、キャラクター交代が戦術の肝となるだろう。とはいえ、後衛に下げたからといってHPが回復するわけではないし、ターン経過で回復する状態異常が直ることもない。仲間がピンチの時、ただ交代するだけではジリ貧になっていくところを、どう立て直していくかもポイントだ。

 各キャラクター専用のスキルなども特徴的なものが揃っているが、本作ならでは、と言えるのがデーリッチがTPを最大まで溜めた時に使える奥義“オープンパンドラ”。自分以外の前衛を戦闘不能状態から復活させ、さらに能力強化も付与するという起死回生の技となっている。戦闘不能により後衛に下げていた仲間をまとめて復活させ、一気に戦線を立て直すことも可能というわけだ。

 こうしたシステムを駆使して立ち向かうことになるボス戦、とくにゲーム進行に必須ではない“寄り道”として用意されているやり込み系のボスは、ただ弱点を突いたり状態異常へ備えたりするだけでは到底勝てないものも多い。行動パターンを見極めて敵の大技の後の隙を狙う必要があったり、適切なタイミングで特定の行動を取らないとダメージが全く通らなかったりと、ボスごとの仕掛けに応じた攻略法を考えるのが醍醐味となっている。

 ほかにも戦闘開始から終了までずっと回復が封じられたり、戦闘中に突然クジを引かせて結果に応じた攻撃を仕掛けてくるなど、ネタ系も含めターン制バトルで実現可能なアイデアをとことん詰め込んだ、ユニークなボス戦の数々を堪能できる。

 また、ボス戦では“敵を倒す”以外の勝利条件が提示されることも。さらに16人で2パーティを編成して遊撃と本隊の連携作戦に出るなど、物語の進行に応じてさまざまな特殊戦闘も発生。システムによるシナリオの表現という点でも熱い展開が待ち受けている。

 各ダンジョンには推奨レベルが明示されており、これに沿ってキャラクターを強化しながら進めていけば進行に行き詰まることはまずないだろう。一方で、各ボスにも推奨レベルが設定されており、これ以下で撃破すると経験値ボーナスが得られる。ハクスラによるキャラ強化を存分に行うもよし、苦労してボスを倒し一気にレベルアップを狙うもよしと、進め方はプレイヤー次第だ。

ダンジョンには敢えて倒す必要はないオマケ的なボスも多数登場
一部のダンジョンには、そのダンジョンの推奨レベルでは勝つのが非常に難しい“超強敵”も配置されている。強くなってから再びここを訪れてもいいし、死力を尽くしてぶつかってみるのもまた一興

大所帯の管理に伴う煩雑さを最小化するプレイアビリティの妙

 スキルやステータスなど、戦闘面でも個性的な多数のキャラクターを使いこなすのが楽しい作品だが、その分、多くのキャラクターを育て、状況に応じてパーティを編成し、装備を整えるのは少々骨が折れるのも事実。そこで、こうした負担を最小化するさまざまな支援機能が備わっているのも本作の特徴だ。

 まず、パーティ編成の変更は拠点だけでなくダンジョンの節目やボス戦前にも行うことができ、敵の傾向や想定されるボスの特性に応じた編成へ組み直しやすい。さらにこの際、パーティメンバー以外の装備を一括で解除できる仕組みがあるため、メンバー交代に伴う装備交換の手間を最小限に抑えられる。

キャラクターの特性一覧は説明用アイテムという形で入手でき、アイテム欄から閲覧できる
メニュー専用の回復スキルを持つキャラクターが居れば、フィールド上から一発で全回復が可能

 またボス戦、とくにやり込み系のボスなど強敵と戦う際は、キャラクターごとに異なる属性や状態異常への耐性などもパーティ編成の際に十分考慮する必要があるが、数十人に及ぶキャラクターすべての特性を完全に把握するのはなかなか難しい。そこで各キャラクターの特性を簡潔にまとめたテキストを一覧できる仕組みが備わっており、これを見ながら戦略を立てることが可能となっている。

 育成面では、比較的早い段階に拠点へ建てられる施設“道場”により、定期的にパーティメンバー以外へ経験値が入るようになる。流石にパーティへ入れ続けているキャラクターとは差が付いてしまうが、しばらく使っていなかったキャラがレベル不足で全く役に立たない、という事態を防ぐことが可能だ。

 そのほかプレイアビリティという点では、できるだけ有効なスキルを自動で使ってくれるオートバトルも便利。戦闘高速化も可能で、レベルアップや装備の拡充によりこのダンジョンの敵はもう怖くないな、と思ったらオートに切り替えていけば進行が楽になる。ボリュームのある作品だけに、戦略を練って全力で戦う場面と、力を抜いて流す場面のメリハリを付けられるのがありがたいところだ。

 加えて、フィールドではキー一発で全体回復スキルの使用画面を呼び出せるため戦闘後の回復が一瞬で済むなど、煩雑さを抑えるための気遣いが随所に感じられる。

王国運営シミュレーション的な要素も。キャラクターの魅力が存分に詰まった大作

 シナリオにダンジョン探索、戦闘といったRPGならではの魅力が詰まった「ざくざくアクターズ」だが、これらに並ぶ本作のもう1つの柱と言える要素が王国の運営だ。探索場所の提案を受ける“王国会議”では、もう1つ重要な議決事項として仲間達から施設の開設といった提案を受け、これに出資するというものがある。

 前述の道場もこうした施設の1つで、他にも収入が得られるもの、特殊なアイテムを入手できるものなど施設の種類はさまざま。効能があるだけでなく、店舗運営の様子が会議で報告されるなど、キャラクターの魅力を表現する場にもなっている。

 会議では他にも、活動内容の報告という形でさまざまなイベントがランダムに発生。ある施設が別の施設の売上げに影響するなどちょっとした経営シミュレーション的な要素もある。残念ながら紙幅の都合により最小限の紹介になってしまったが、本作の魅力のうち、王国を作り、広げていくという面を一番強く感じられる部分なのは間違いない。

王国会議では活動内容の報告としてさまざまなランダムイベントが発生。アイテムやお金、経験値を取得したり、次の会議までイベントに関連のあるキャラクターが一時強化されたりといった効果もある
運営している施設を見て回ることができるマップも。王国の発展をじかに感じられるのがうれしい

 こうして2人だけで始めたハグレ王国も多くの仲間で賑わうようになっていき、『辺境に住み着いたハグレの集団』から『人間の帝都からも一目置かれる勢力』へとその姿を変えていく。しかしそれは同時に、王国の存在を疎んじる勢力や、利用しようとする勢力が現れることも意味していた。物語はときに人間とハグレ、各勢力間の大きな戦いにも発展。都市防衛戦など、戦略レベルのシナリオが展開するのも見所の1つだ。

 なお、冒頭で公称プレイ時間は50時間程度と書いたが、強敵とのバトルなどさまざまなやり込み要素にも手を出した結果、筆者のプレイ時間は本編クリアまでに100時間を超えている。プレイ時間はプレイスタイルによっても大きく変わるとは思うが、いずれにせよ圧倒的なボリュームを誇る作品であることは間違いない。

 その中でも特筆すべきはやはり数多くのキャラクター達で、数十時間にわたって物語を眺め、拠点で交流し、そして実際に操作してきたハグレ達への愛着はひとしおだ。そんな仲間達の想いと力をデーリッチが受け取り、デーリッチなりの“王道”を見せてくれる終盤の展開には胸を熱くさせられた。すでに正式版リリースから1年近くが経過しており前作同様人気を博している作品だが、とくにキャラクターの魅力に重きを置いたいわゆる“JRPG”のファンや、戦闘が面白いRPGを求めている人で未プレイであれば、ぜひ十分に時間を確保して触れてみてほしい。

ソフトウェア情報

「ざくざくアクターズ」
【著作権者】
はむすた 氏
【対応OS】
(編集部にてWindows 7/8.1で動作確認)
【ソフト種別】
フリーソフト
【バージョン】
1.05c(15/09/14)

(中村 友次郎)