石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』
フニャフニャキャラ×物理演算で全年齢対象の格闘ゲーム「Gang Beasts」
子供から大人まで幅広い人が雑に遊べるアバウトさが魅力
2024年3月22日 12:07
PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。
子供も遊べるPC向けの格闘ゲームはないのか?
筆者は根っからの対戦ゲーマーである。他のゲームも好きだが、例えばリズムゲームをやっていると、『コンピュータの手のひらの上で遊ばされている』と感じる時がある(必ずしもそれが嫌なわけではない)。
しかし対戦ゲームは、対戦相手によって遊び方が常に変化する。相手がいる限り、どれだけ遊んでも究極的なゲームの終わりはない。対戦相手がいなくなるか、ゲームの本質的な部分に飽きない限りは永遠に楽しめる。加えて、対戦相手とのコミュニケーションがあるのも楽しいし、多人数のチーム戦となればさらに楽しい。
我が家の息子は7歳になって、そろそろ対戦要素があるものにも興味が出てきた。しかし対戦ゲームはCEROなどのゲームのレーティングが上がりやすい。対戦は暴力行為につながりやすいし、最近は映像も美しくなってリアリティが増した結果、より暴力性が高いと見られやすい。
いま人気の対戦ゲームといえばNintendo Switchの「スプラトゥーン3」があるが、撃ち合う弾をインクにし、勝敗条件を撃破数とは別に置き、キャラクターをイカにして、殺伐としがちなアクションシューティングでありながらCERO A(全年齢対象)を実現した。見事な設計だ。
ただ残念ながら「スプラトゥーン3」はPCで遊べない。PCで年齢制限なしに遊べる対戦ゲームは何かないかと探してみると、「Gang Beasts」という作品を見つけた。ベースは格闘ゲームなのだが、一目見て普通の対戦格闘ゲームではないとわかる。
ゲル状のキャラによる格闘ゲーム
本作の最大の特徴は、プレイヤーキャラクターがフニャフニャなところ。ゴムかゼリーか、人型をしたゲル状の何かを操作して戦うゲームである。なぜこんなキャラクターなのか、なぜ戦うのか、といった説明は一切ないので、気にしないでいこう。
操作は、キャラクターの移動とジャンプのほか、左右独立したパンチ、キック、ヘッドバットが使える。また人や物を掴んだり、持ち上げたりもできる。ゲル状のものがぷるんぷるんとした動きなので、パンチに威力があるようには見えないのだが、ちゃんと意味はあるので安心して欲しい。
ゲームの勝敗条件は、相手に攻撃して倒すことではなく、相手をフィールド外に落とすこと。体力ゲージなどはなく、とにかく最後までフィールドに残り続けた人が勝利となる。
相手を外に落とすには、掴んで引っ張る、あるいは持ち上げるという動きが重要になる。簡単に言えば、担ぎ上げた相手をフィールド外に落とせば勝ちになるわけだ。ただし担ぎ上げられた方も、相手を掴むことで落下を防いだり、道連れにして落としたりが可能だ。
そこで重要なのがパンチなどの攻撃だ。これがうまく相手にヒットすると、気持ちのいい効果音とともに相手が倒れて動けなくなる。その隙に相手を掴んでフィールドの外に投げ捨てればいい。倒された方はボタン連打(に意味があるのかは不明……)で急いで起き上がり、落とされないよう相手にしがみつく。
適当にパンチを連打しているだけでもそれっぽく戦えるが、相手に攻撃を当ててダウンさせることや、掴んで投げることを理解すると勝ちやすくなる。この成長の流れは格闘ゲームそのものだ。
真面目な物理演算でアバウトな仕上がり
もう1つ重要なのは、本作は割と真面目な物理演算を採用していることだ。フニャフニャな体は物理演算で伸び縮みし、動きの勢いをそのまま伝える。
本作には相手を掴んだり持ち上げたりという動作はあるが、実は投げるという動きはない。そのため、ただ相手を持ち上げても、そのままではその場に取り落とすだけになる。相手を抱え上げたら、歩いていってステージの端で離すと、その勢いで落とせる。
他にもステージ内にある装置をうまく使って相手を飛ばしたり、動きを制限したりもできる。仕掛けの中には勝手に上下するエレベーター、プレイヤーに噛みついてくるサメ、全てのプレイヤーを空中に吹き上げる巨大ファンなどさまざまなものがあり、それらも物理演算にのっとった動きを考え、活用していく。
他にも細かいテクニックはあるのだが、見た目のアバウトさのとおり、雑に遊んでいるうちが一番楽しいように思う。少なくとも小学生でも操作に戸惑うことはないし、見た目の残虐さもなく格闘要素を楽しめる。
また対戦だけでなく、協力プレイも可能。CPU相手に力を合わせて勝ち抜いていくモードもあるので、慣れないうちはこちらで練習していくのもいい。CPUもなかなか賢く、協力プレイだけでもかなりやり込める分量がある。
ともかく本作は見た目の暴力性を極力排しつつ、格闘ゲームのエッセンスを味わえるという点で、子供向けのゲームとしてよくできていると思う。ローカルでも最大4人で遊べるので、子供だけでなく大人のパーティゲームとしても十分楽しめる。
遊んでもらえるとわかるが、まず思ったところに攻撃できない。当たったのも狙った感じにはならず、命中エフェクトも出ず(命中音はある)、当たった方はぐにゃっと倒れ込む。全体的に判定がとても理不尽で、ゲーマー的には納得がいかない。だがそのアバウトさのおかげで、子供から大人まで幅広い人が楽しめるゲームになっているのもわかる。見た目どおり、何とも不思議な味わいのある格闘ゲームだ。
なお、今回本作をプレイするにあたり、GeForce RTX 4060を搭載したマウスコンピューター製ノートPC「G-Tune E4」を使用した。本作は3Dグラフィックスを使用しているものの、比較的動作は軽量。解像度をフルHD、グラフィックスのクオリティを最高に設定しても、極めて快適にプレイできる。
著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)
1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/