石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』
「ファイナルファンタジーIII ピクセルリマスター」は疲れている時でも楽しい! その懐かしさと今時の仕掛け
2025年8月28日 16:04
何も考えずに遊べるゲームが欲しい時もある
『フリーランスにお盆休みは関係ない、カレンダー通りで行こう』という筆者の希望は、お盆の3日間は子供を預かってもらえないという社会的ルール発動により却下された。
『おばあちゃんに会いに行ける!』と勝手に決めている息子のため、片道500kmのドライブ。到着後もあちこち出かけて、土日も含めて5日間フル稼働。帰路の500kmドライブの後、翌日月曜から仕事開始である。親にお盆休みという概念はない。
こんな状態だと何もやる気が起きないのだが、それでもゲームをやりたいと思ってしまうのがゲーマーである。とはいえ集中力の要るアクションは嫌だし、頭を使うシミュレーションも無理。何も考えずにやっていても楽しげなゲームをやりたい……ということで起動したのは「ファイナルファンタジーIII ピクセルリマスター」だ。
シリーズの方向性を印象付けたファミコンの名作
「ファイナルファンタジー ピクセルリマスター」シリーズは、本連載で既にIとIIを紹介済み。6作セットで半額セールになることが多く、筆者はセット購入済みなので、続編も期を見て紹介していきたい。
「ファイナルファンタジー」は、多くの方には説明不要な、日本を代表するRPGシリーズの1つ。エニックスの「ドラゴンクエスト」と、スクウェアの「ファイナルファンタジー」は、日本のRPGの2大巨頭として知られていたが、今は合併してスクウェア・エニックスになっている。本作のファミコン版が発売された1990年当時、両社が1つになるなんて言ったら、きっと狂人扱いされたであろう。
その人気シリーズの中でも、本作を印象深く感じている方は多いと思う。シリーズ初のジョブチェンジシステムを採用(「I」でもクラスチェンジはあったが自由ではなかった)。ファミコン用ソフトとしては最大級のボリュームや美麗なグラフィックス、プレイ感やバランス調整の良さなど、全面的にクオリティの高い作品だった。
筆者は中学生の頃にファミコン版をクリア後、2006年発売のニンテンドーDS版も購入したものの、仕事に追われて途中で放置。数年前に存在を思い出し、育児に追われながらも睡眠前の僅かな気力がある時に少しずつ進め、約17年かけてクリアした。ちょっとずつやるには最高の作品なのである。
ちなみにDS版は3Dグラフィックスでリメイクした作品で、「ピクセルリマスター」は2Dベースのリメイクなので、移植作品でありながらも兄弟的な存在だ。ファミコン版に近いのは「ピクセルリマスター」のほうである。
ジョブシステムで生まれるリプレイ性の高さ
ゲーム内容はファミコン版と大きく変わってはいない。4人の少年が度胸試しにやってきた洞窟でクリスタルと出会い、光の戦士に選ばれる。悪ガキ風の少年たちが、クリスタルの啓示を受けたとたん、世界を救う旅に出る決意をしてしまう流れに、『クリスタルってちょっと怖いね……』と感じた覚えがある。
やるべきことは素直なRPGで、ゲームの流れに沿って目的地を攻略していき、物語を進めていく。前作の「II」は経験値の概念がなく、いきなり高難易度の場所に行けるなど、自由度(と言っていいのか)も高かった。本作は目的ががっちり決められた1本道の展開になるので、ゲームとしてはわかりやすい。
最初に選べる職業は、攻撃系や魔法系など6つ。多くの方は回復役の「白魔道師」と、攻撃魔法役の「黒魔道師」を選ぶと思うのだが、何度もやっている筆者は回復と攻撃の両方の魔法を使える「赤魔道師」を選択。器用貧乏のようなジョブなのだが、強力な専用武器「ワイトスレイヤー」が序盤に手に入るので、使ってみたかった。
本作のリプレイ性の高さは、このジョブシステムにある。初プレイではやらなかったジョブを次のプレイで試しているだけで、プレイ感覚が全然違う。手軽さと効率を考えると最終職業は「ナイト/忍者/賢者/賢者」でほぼ決まりなのだが、2度目以降はあえて別のジョブに縛って遊ぶと、それだけでとても楽しくなる。
何度目かのプレイなら許せる?「ブースト機能」
とはいえ現在の筆者は心身とも疲労状態で、ゲームを縛りプレイでがんばりたい気持ちなど全くない。ましてやプラットフォームは違えど、過去に2度クリアした作品だ。手間はかけずに気楽にやりたい。
ここで「ピクセルリマスター」シリーズの「ブースト機能」を使う。本作では経験値とギル(お金)の獲得量、およびジョブごとの熟練度の上昇率を、それぞれ最大4倍にできる。これなら普通に進めるだけでレベル上げやお金稼ぎを意識しなくていいし、ジョブごとに独立していて上げるのが大変な熟練度も簡単に上がる。
途中のボス戦で詰まったり、ギリギリの戦いを潜り抜ける楽しみも、本作には確かにある。そういう楽しみ方を否定するつもりは決してない。だが今の筆者の気分は、とにかく楽して遊びたいのである。道中の敵をそこそこ倒して進むだけで、ボス戦も苦労しない。
加えてバトルでも楽をする。本作には前回の行動を繰り返し実行するオートバトル機能があり、ボタン1つで発動できる。ボス戦以外の敵はこれで倒してしまえば、ほとんど何もしないで撃破できる。しかもオートバトル中は、バトルの進行速度も少し上がる。そうしているうち、レベルもどんどん上がって敵を倒すのも楽になっていく。良い循環である。
アレンジ版の新要素を堪能するためだけに遊んでも楽しい
『そんな遊び方で楽しいの?』と言われそうだが、素直に楽しい。筆者は本作をプレイ済みとはいえ、「ピクセルリマスター」の新要素を楽しめるからだ。
音楽はアレンジ版が収録されており、ファミコン版よりも格段に豪華になった。全て知っている曲だからこそ、アレンジ版を聞く楽しみがある。しかもオリジナル版をファミコンで聞いたのはもう30年以上前になるので、懐かしさもひとしおだ。
映像もいい。「ピクセルリマスター」という名前のとおり、2Dドット絵でのリメイクだが、背景の大半が真っ黒だったファミコン版とは違い、スーパーファミコン以上のビジュアル表現になっている。画面もワイド表示で、ファミコン版の記憶がある筆者には、見た目の古臭さは全く感じられない。
音楽は「サウンドプレイヤー」機能で好きなだけ聴ける上、オリジナル版との切り替えにも対応している。また「ギャラリー」では天野喜孝氏が本作のために描いた多数のイラストを鑑賞できる。この辺りの資料もリメイク作としての価値を高めている。
本作はファミコン版などをプレイ済みの方が、思い出とともに遊ぶのがよい作品ではある。しかし現在まで続く「ファイナルファンタジー」シリーズの系譜を今なおPCで体験でき、人によっては生まれる前の作品を遊べることにも、また大きな価値があると思う。
1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/
PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。