石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』
放置ゲーっぽいのに『時間が溶ける』無料作品「Upload Labs」
ビジュアルプログラミング風の外見からは想像もつかない高い中毒性
2025年10月17日 16:21
放置ゲームじゃないの?
「Upload Labs(アップロードラボ)」というゲームがSteamで無料配布されている。ビジュアルプログラミングのように、ノードを置いて接続していくことでゲームを進めていくという内容で、かなり地味で難しそうに見える作品だ。
しかし実際にやってみると、ルールはとても簡単で、基本的にはお金を際限なく稼ぐことが目的。日本語化もされており、丁寧なヘルプも用意されているので、とても遊びやすい。
ゲームとしては、仕掛けを作ると勝手にお金が増えるという感じで、「クッキークリッカー」を思い出させるもの。ということは、ちょっと遊んで、あとは放置して作業の裏で走らせておくのが良さそうだ。
……と遊び始めの頃には、誰もがそう思うだろう。しかし本作の評判を見てみると、多くの方が口をそろえて『時間が溶ける(長時間ゲームに没頭してしまう)』と言っている。放置しておくゲームならそれほど時間は取られないはずだが、なぜこんな評判になってしまうのか?
アップロードしてお金を得るゲーム
本作でまず何をやるか、実際のゲーム画面を見ながら解説していこう。最初はチュートリアルが用意されている。
画面は方眼のマップがただ広がっている。そこにネットワークと書かれたノードが置かれている。ネットワークにはダウンロード速度とアップロード速度が表示されており、初期値はたった8bpsと書かれている。
ダウンロード速度の右側には、丸いマークがある。そして隣には、テキストダウンローダーのノードが置かれている。ネットワークのダウンロード速度と、テキストダウンローダーのネットワーク速度を接続すると、テキストダウンローダーによってテキストファイルのダウンロードが始まる。
これは、ネットワークのノードの持つダウンロード速度を、テキストダウンローダーに渡すことで、テキストをダウンロードするという行為が完成した、ということだ。言葉で説明すると難しく聞こえるが、映像的には同じ色、同じ形のマークを繋ぐだけだ。また各ノードの左側が入力、右側が出力というルールもある。
次は、アップローダーというノードを新たに設置する。アップローダーには、アップロード速度の入力と、『ファイルを入力してください』という入力がある。アップロード速度にはネットワークのアップロード速度を接続し、ファイルはテキストダウンローダーのテキストファイルを入力する。
これが完了すると、クレジットの出力が発生する。クレジットはお金のこと。ファイルのアップロードにより報酬を得た、というイメージだ。「Upload Labs」というタイトルのとおり、本作はネットワーク上で何かをアップロードすることで報酬を得る、というのが基本となる。
ここで新たに収集器を設置。『通貨を入力してください』とあるので、先程得たクレジットと接続する。これでクレジットを収集器に移動させ、収集器ノードの下部にある[収集する]をクリックすると、自分のお金として手に入る。
またこの時点で、テキストファイルのダウンロードとアップロード、クレジットの回収という一連の作業が自動で行われる回路が完成している。あとは収集器から回収するだけで、少しずつクレジットが増えていく。
お金で設備を強化して、またお金を増やす
手に入れたクレジットは、一部の設備のアップグレードに使える。最初にアップグレードするのはネットワーク。クレジットを消費してアップグレードすると、ダウンロードとアップロードの速度が11bpsへ(たった3bps)増強される。
これによりファイルのダウンロードとアップロードが高速化され、クレジットの入手量が増える。これを繰り返して、収入をどんどん増やし、設備をアップグレードしていく。
アップグレードは既にある設備の性能向上だけではない。画面右下にあるアップグレードアイコンから、報酬のブースト機能や、新たな設備などを開放できる。ファイルは画像や音声など、よりリッチで大容量なメディアが使えるようになっていく。ファイルサイズは大きくなるので通信量も膨大になるが、報酬もぐっと増える。
設備のアップグレードと新設備の開放を続けて、どんどん報酬を大きくしていく。お金が貯まるまで見ているだけの、いわゆる放置ゲームとして遊べるのも、この辺りで理解できる。
売れるもの、やれることが多い
最初はテキストを売っていたのが、画像や音声なども売り始め、ダウンロードするファイルを切り替えていく。そのくらいはノードの差し替えだけで済むので大したことはない。しかし、本作の要素はもっといっぱいある。
ネットワークに続いては、CPUが使用可能になる。CPUは処理能力自体をネットワーク経由で売れるほか、ウイルスやファイル整合性のチェックを行うことでファイルの価値、つまり値段を上げられる。
コンピューターを使いそうな処理には、CPUの処理能力が頻繁に求められる。こちらもアップグレードで性能を強化していく。こちらも最初のクロック速度はたった100Hzしかない。
さらにGPUも使えるようになると、暗号通貨をマイニングして売れるようになる。またGPUのクロック速度をCPUのものに変換し、処理をサポートするという使い方もできる。その時々で、限られたリソースを何にどれだけ割り振るのが効率的なのか探りながら、さらなるアップグレードに励んでいく。
その先には、特殊なテクノロジーをアンロックするデータラボや、企業や国家にハッキングを仕掛けて取引を有利にするハッカー、プログラムで回路の性能を最適化するコーディングと、次々に新しい機能が出てくる。
これらの新機能は、それぞれ独立して動作する。データラボで稼ぐリサーチ、ハッカーが稼ぐデータや機密、コーディングで得るポイントは、クレジットとは別のもの。それらを使って最終的にはより多くのクレジットを稼ぐのが目的にはなるが、そのための回路は別途用意することになる。
つまり、ネットワークを強化しながら、CPUやGPUを駆使して、データラボやハッカー、コーディングも、同時並行でメンテナンスしていくことになる。制限時間はないのでマイペースに遊んでもいいのだが、各種リソースを無駄にせず適切に使用し、より良い回路を組もうと考えると、ずっと作業の手が止まらなくなっていく。
放置しておいてもゲームは進行するし、デメリットはないのだが、真面目に遊ぶほど放置する暇はなくなる。良く言えばマイペースに遊べるが、悪く言えば常に忙しくて止め時がない。『時間が溶ける』という感想が出るのも納得である。
そして本作には、ポータルという転生のようなシステムもある。データラボによるリサーチを一定以上行うと、各種リソースにボーナス倍率が付いた状態で最初からプレイできる。リソースで開放できる要素の一部は永続するため、周回プレイを前提とした設計になっている。ますます止め時がない。
美しいレイアウトを作る楽しみも
見た目はどこまで言ってもノードを繋ぐ線の絵だけだが、多数のノードが設置され、さまざまな線が有機的に結ばれている様子を見ると、街づくりシミュレーションに通じるような達成感や満足感がある。特定の機能をうまくまとめて、ノードと配線を見やすく美しいレイアウトにできた時には気持ちいい。
それだけに、こだわり始めると本当に止め時がなくなる。機能的に実装・改変していくだけでも大変なのに、見た目まで綺麗にと思うと、時間がいくらあっても足りない。ソースの美しさにこだわるプログラマーなどは本作を楽しく遊べそうだが、仕事が手につかなくならないようご注意を。
ちなみにゲームを起動していない間は処理が停止するが、その間は休憩時間としてカウントされ、その長さに応じて再開時にゲーム速度を5倍にするボーナスタイムが提供される。ボーナスタイムはスイッチでON/OFFでき、ログインしてすぐ発動するわけではないので安心だ。
ゲーム的にはちょっとした目的が提示される場面があるのだが、筆者は今のところ、その目的を達成する手段が見つかっていない。果たしてクリアと呼べるものがあるのかどうかはわからないが、たとえ明確なゴールがなくとも十分面白いのは間違いない。
最後に1つ。本作は無料で提供されてはいるが、開発者への寄付が可能。ゲーム内の六角形のアイコンをクリックすると、寄付のメニューが表示される。数ドル払うとかなり強力なブーストが得られるので、より手軽に遊びたい方はお試しを。
ただし寄付にはサポートレベルなるものがあり、寄付額によってさらに上位メニューが開放されそうにも見える。それも本作らしいと感じてしまうのが、「Upload Labs」という作品の世界観を表している。サポートレベルを上げるとどうなるのかご存知の方はぜひツイートを。
1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。
・著者Webサイト:https://ougi.net/
PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。