柳谷智宣のAI ウォッチ!
ググる時代は終わるのか ~AIが自分で考えて超深掘調査する「ディープリサーチ」時代の到来
「ディープリサーチ」機能が氾濫している[後編]
2025年4月23日 09:00
最近、ChatGPTやGemini、Claudeといった生成AI御三家をはじめ、検索特化のPerplexity AIやGenspark、日本発のFelo、さらにはイーロン・マスク氏率いるxAIのGrokなど、さまざまな生成AIが「ディープリサーチ」と呼ばれる機能を搭載している。
ディープリサーチは、AIがユーザーの指示に従って、インターネット上から膨大な情報を自動でかき集め、分析し、要約して、まるで専門家が書いたような詳細なレポートを作成してくれるというものだ。
これまで何時間も、場合によっては何日もかかっていた情報収集や分析作業が、AIを使えばわずか数分から数十分で完了してしまう。もはや、自分でひとつひとつ検索エンジンで調べる時代は終わりを告げるのだろうか。
今回は、そんな最新AIのディープリサーチについて紹介する。主要7サービスにおけるディープリサーチ機能の特徴や強みもチェックしてみよう。
まるで専属リサーチャー! ディープリサーチが切り拓く情報収集の新時代
ここ最近、生成AI業界はまさにディープリサーチの発表ラッシュとなっている。
GoogleのGeminiが2024年末に「Deep Research」をリリースし、2025年2月からOpenAIのChatGPTやAnthropicのClaudeなどがサポートし始めた。さらには、検索特化型生成AIサービスまで、こぞって同様の機能を打ち出している。
ディープリサーチを使うと、一言でいえば、まるで自分専属の優秀なリサーチャーを雇ったかのような出力が得られる。例えば、新規事業を立ち上げるために「〇〇市場の最新動向と競合分析レポート」が必要になったとする。これまでであれば、高いお金を払って外注するか、長い時間をかけて自分で調査する必要があった。
しかし、ディープリサーチにプロンプトを入力するだけで、AIが指示を理解して調査計画を立てる。その計画にもとづいてネット上を自律的に駆け巡り、関連するニュース記事や業界レポート、統計データ、企業のプレスリリース、SNS上の評判など、何十、何百という情報源を読み込む。そして、集めた膨大な情報を整理・分析し、矛盾点がないかチェックしたり、重要なポイントを抽出したりしながら、最終的に構造化された、引用元付きの詳細なレポートとしてまとめてくれるのだ。
この一連の作業を、ディープリサーチはわずか数分から数十分でこなしてしまう。人間が同じレベルの調査をしようと思ったら、検索し、閲覧し、メモをしながら整理、執筆……と、膨大な時間と労力がかかることは想像に難くない。
仕事柄、日々Webでの調査を行っている筆者も、Google検索の頻度が激減した。基本はPerplexityやFeloを使っており、ちょっと詳しく調べたいときは各サービスのディープリサーチを利用している。
実際、Google検索のシェアは生成AIの影響で低下しており、今後もこの流れは続くだろう。GoogleもGeminiにおいてWeb検索機能やディープリサーチを提供しており、どんなビジネスモデルを展開するのか注目されるところだ。
AIは「どうやって」深掘りしてる? ディープリサーチを支える技術
ディープリサーチは自律型のAIエージェントと言ってよい。
AIは単に指示されたタスクを実行するだけでなく、目標達成のために自ら計画を立て、必要な情報を収集し、状況に応じて計画を修正しながらタスクを遂行する能力を持っているのだ。
マルチステップ推論・思考の連鎖
ユーザーからの指示(プロンプト)を受け取ると、ディープリサーチ(AIエージェント)は「どんなキーワードで検索すべきか」「どの情報源が信頼できそうか」「集めた情報をどう整理・分析するか」といった一連のステップを自律的に考え、実行していく。また、批判的な思考も適用し、情報を受動的に受け入れるのではなく、積極的に分析・評価する。
この技術は「マルチステップ推論(Multi-step Reasoning)」や「Chain-of-Thought(思考の連鎖)」と呼ばれる。複雑な問題に対して、AIが一足飛びに結論を出すのではなく、人間が考えるように段階的に思考を進め、その過程を記録しながら最終的な答えを導き出す手法となる。
例を挙げると「市場規模を調べる」と指示すれば、「主要プレイヤーを特定する」→「各社の戦略を比較する」→「将来性を予測する」といったように、AIが論理的なステップを踏んで調査を進めるのだ。
RAG
もうひとつ、多くのディープリサーチの基盤となっているのが「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」という技術だ。
これは、AIが回答を生成する際に、事前に学習した内部知識だけでなく、外部のデータベースやリアルタイムのWeb検索結果から関連情報を「検索(Retrieval)」し、その情報を「補強(Augmented)」材料として利用しながら回答を「生成(Generation)」する仕組みだ。
リアルタイムのWeb情報を大量に検索し、その内容をもとに回答やレポートを生成する。これにより、AIの知識が古くなるという弱点を克服し、常に最新の情報にもとづいた回答を提供できるようになった。もちろん、出典が明示されるため信頼性も高い。
個性派ぞろい! 主要7サービスのディープリサーチ
一口にディープリサーチ機能といっても、サービスごとに得意分野や特徴はかなり異なる。前編ではChatGPTの「Deep Research」を紹介したが、他のAIサービスについてもチェックしておこう。
ChatGPTの「Deep Research」
OpenAIが提供するChatGPTの「Deep Research」モードは、高度な推論能力とマルチステップでの自律調査が際立つ。数百サイトを自動調査し、数万文字の詳細なレポートを生成する能力は圧巻だ。
Web上のテキストだけでなく画像やPDFまでも解析対象とし、ビジネス分析や学術調査など、専門分野の深掘りに強みを発揮する。ただし、利用するには現状、月額20米ドル(約3,000円)からの有料プランへの加入が必要な上、Plusプランでは、月10回まで、という制限がある。
筆者が契約するProプランでも、月に120回まで、と制限があるほど、リソースを必要とする機能なのだろう。レポート生成に時間がかかる(10分~30分程度)こともあるが、その分、質は非常に高い。
Geminiの「Deep Research」
GoogleのGeminiは「Deep Research」機能を、有料プランであるGemini Advanced(月額2,900円)の中心機能のひとつとして提供している。ユーザーの質問から調査プランを自動生成し、それをユーザーが確認・修正できる点がユニークだ。
Googleの強力な検索技術と100万トークンという巨大な文脈処理能力を活かし、70以上のサイトを分析して、Googleドキュメント形式などで整理されたレポートを出力する。Workspace連携も可能で、大容量ファイルの解析にも対応する。
最近は生成品質も高くなり、競合分析や市場調査、学術リサーチ、日常の意思決定支援まで幅広く使える。無料版でも限定的に試用できるようになった。
Claudeの「Research」
Anthropicが提供するClaudeの「Research」機能は、Web検索機能とGoogle WorkspaceのGmailやGoogle Docsなどとの連携が大きな特徴。公開されているWeb情報だけでなく、ユーザー自身の社内データや個人ファイルを参照しながら、統合的な分析レポートを作成できる。
最大200kトークンという長大な文脈を扱えるため、大量の資料読解も得意。信頼性の高い情報源からの引用も重視する。ただし、いまのところMaxプラン(月額100米ドル~)やTeamプラン、Enterpriseプランといった上位プラン限定のベータ機能であり、利用ハードルはやや高い。
また、ディープリサーチという名前は付いていないが、最近、Claudeに搭載されたWeb検索機能と、Claude 3.7 Sonnetの拡張思考「じっくり考える」を併用すると、同様の動作になる。ChatGPTやGemini同様、処理計画をユーザーに尋ねてくる点も同じだ。
Gensparkの「Sparkpage」
Gensparkは、複数の専門AIエージェントが協働して動的な要約ページ「Sparkpage」を生成するのが特徴だ。
「ディープリサーチ」では事実収集、文脈解釈など、役割分担されたエージェントがリアルタイム検索を行い、広告などを排除したクリーンな情報から、出典リンク付きの構造化されたレポートを作成する。Sparkpage上でチャットし、さらに深掘りすることも可能だ。
幅広い調査全般に利用可能で、特に多方面からの客観的な情報収集に強みを発揮する。こちらも最近新機能がリリースされ、一気に出力クオリティが高まった。
Feloの「ディープ」モード
日本発の検索特化型生成AIサービスであるFeloは、「ディープ」モードを搭載している。人間のような5W2Hの視点で質問を深く分析し、通常検索の数倍のソースを同時検索・統合する。
日本語に強く、多言語サイトの情報も日本語で要約してくれる。生成された内容をもとに、ブラウザー上で編集可能なスライド資料を自動作成する機能はクオリティが高くお勧めだ。
Perplexity AIの「リサーチ」モード
Perplexity AIの「リサーチ」モードでは、数十回の検索と数百の情報源読解を反復し、数分という短時間で出典付きの包括的なレポートを生成する。
あくまで筆者の体感だが、参照するWebサイトの質が高く、その分、出力のクオリティも高い。ただし、長文の出力はまだまだ苦手だ。
Grokの「DeepSearch」「DeeperSearch」
xAIが開発したGrokは、X(旧Twitter)プラットフォームとの統合が最大の特徴だ。「DeepSearch」機能では、X上のリアルタイムな投稿とWeb検索結果を組み合わせ、最新の時事問題やSNSトレンドに関する分析を行う。
また「DeepSearch」と「DeeperSearch」という2つの機能を用意しているのがユニークだ。もちろん、「DeeperSearch」の方が高機能。Grokの「DeepSearch」は生成が早い分、出力品質もそれなりなので、他のAIのディープリサーチと比較するなら「DeeperSearch」を利用するとよいだろう。
以上のように、各サービスの「ディープリサーチ」はそれぞれに強みを持っている。
レポートの詳細さならChatGPT、企業のデータ連携ならClaude、GoogleエコシステムならGemini、客観性と無料利用ならGenspark、スライド生成ならFelo、速度と手軽さならPerplexity、SNS連携ならGrok、といった具合に、自分の目的や予算に合わせて最適なツールを選ぶことが重要だ。
専属リサーチャーのようなディープリサーチと賢く付き合おう
ディープリサーチとはいえ、AIなのだからハルシネーション(幻覚)のリスクはゼロではない。通常の生成AI活用時と同じく、出力を人間がチェックする作業はなくならないので要注意。出典が明示されていても、その解釈が正しいとは限らないのだ。
また、そもそも情報の信頼性も担保されていない。AIが参照する情報源の質は玉石混交だ。信頼性の低い情報や偏った意見をもとにレポートが作成される可能性もある。特にGrokのようにSNS情報を活用する場合、その情報の真偽を見極める必要がある。
AIは、既存の情報を効率よくまとめるのは得意だが、真に新しいアイデアや独創的な視点を生み出すことはまだ難しい。リサーチの出発点としては有用だが、最終的な価値創造は人間の役割ということは肝に銘じておこう。
とはいえ、ここまでの性能を持つディープリサーチは、ビジネスのさまざまなシーンで活用されることになるだろう。市場調査や競合分析、新規事業のフィージビリティスタディ、業界トレンドレポートの作成、顧客の声分析、営業提案資料の作成補助など、あらゆるシーンで真価を発揮するはずだ。
学術や研究分野でも、文献のレビューや関連研究の動向調査、研究テーマの探索、実験データの予備分析、論文執筆のサポートなど、カバーできるリサーチ業務は多い。もちろん、旅行や趣味に関する情報を深堀りしてもらうなど、個人ユースでも役立ってくれるに違いない。
ディープリサーチの登場は、単なるツールの機能進化に留まらず、私たちの知識獲得や意思決定のあり方に大きな変化をもたらす可能性を秘めている。各社が競い合うように機能を向上させている現状を見ると、この流れは今後さらに加速するだろう。
将来的には、AIはより高度な推論能力を獲得し、テキストだけでなく画像、音声、動画といったマルチモーダルな情報をシームレスに統合して分析できるようになるだろう。
また、特定の産業や学術分野に特化した、さらに専門性の高いディープリサーチも登場するかもしれない。Gensparkのようなエージェント連携や、Claudeのような業務システムとの統合も進み、AIが単なる情報提供者から、予約や購入といった具体的なアクションまで実行するAIエージェントに進化するのはもはや確実だ。
ディープリサーチは、間違いなく知的生産性を飛躍的に向上させるポテンシャルを持っている。その力を最大限に引き出すためには、各ツールの特性を理解し、目的に応じて使い分け、そして何よりもAIの限界を認識した上で、自らの思考を深めるための補助線として活用していく姿勢が大切になるだろう。
これからのビジネスパーソンは、情報収集のゲームチェンジャーともいえるディープリサーチと、どう向き合っていくかよく考える必要がある。兎にも角にも、まずは触ってみて、興味のあることについてディープリサーチに調べてもらうところから始めてみてはいかがだろうか。
著者プロフィール:柳谷 智宣
IT・ビジネス関連のライター。キャリアは26年目で、デジタルガジェットからWebサービス、コンシューマー製品からエンタープライズ製品まで幅広く手掛ける。近年はAI、SaaS、DX領域に注力している。日々、大量の原稿を執筆しており、生成AIがないと仕事をさばけない状態になっている。
・著者Webサイト:https://prof.yanagiya.biz/