柳谷智宣のAI ウォッチ!

ChatGPTの「Deep Research」のつかいかた ~レポート作成に「包括的に/詳細に」プロンプトが超絶便利

「ディープリサーチ」機能が氾濫している[前編]

 本連載「柳谷智宣のAI ウォッチ!」では、いま話題のAI(生成AI)を活用したサービスを中心に取り上げていく(基本的に1サービスにつき前後編を予定)。今回は「ChatGPT Deep Research」を取り上げる。
今回は「ChatGPT Deep Research」について紹介する

 昨年2024年末から、いろいろな生成AIサービスに「ディープリサーチ機能」が搭載され始めた。単にチャットで会話するだけでなく、必要に応じてWeb検索を行い、それらの情報もまとめてレポートを生成する機能だ。複数のステップを経て、どんな情報をどのように収集するのかを自律的に判断し実行するAIエージェントともいえる。

 ディープリサーチ機能は大量のデータを分析し、必要な情報を抽出したり、人間では見つけることの難しいインサイトを発見できるのが特徴だ。これまでであれば、大量のWebページを大量のタブで開いて、コピペで情報を収集して取りまとめていた作業を、AIが短時間で処理してくれるようになるのだ。

 この機能は、2024年12月にGeminiが搭載し、2025年1月にFelo、同年2月になってChatGPTやPerplexity、Grokなども対応した。一通り使ってみたが、なかでも高性能だったのが“ChatGPTのDeep Research”だった。

「ChatGPT Deep Research」で2万文字超のレポートが一撃で出力された

 ChatGPTのDeep Researchは、月額200米ドルのChatGPT Proプランでは月に120回、Plusなどそれ以外の有料プランでは月に10回まで利用できる。添付ファイルとして画像やPDFをアップロードすることも可能だ。

 まずは、OpenAIのWebサイトで公開されていたプロンプトを試してみた。

 ディープリサーチ機能を使う際は[Deep Research]ボタンをオンにすればよい。マウスポインターをボタンに合わせると、ディープリサーチ機能を使える回数とリセット日がポップアップする。

 プロンプトを入力すると、国リストの出し方や統計の詳細、想定ユーザー層などを逆質問してくる。これは、ユーザーが求める最適な出力を生成するために利用するもの。今回は「任せるので、いい感じにまとめてください」と投げてみた。

【プロンプト】
GDP上位10位の先進国と発展途上国上位10位の国について、過去10年間のiOSとAndroidの採用率、別の言語を学習したい人の割合、モバイル普及率の変化を調べてください。この情報を表にまとめ、統計を列に分け、ChatGPTが現在活動している市場に焦点を当てて、ChatGPTの新しいiOS翻訳アプリでターゲットとする市場に関する推奨事項を含めてください。
ChatGPT Deep Researchにプロンプトを入力すると逆質問してくる

 ChatGPT-4o(GPT-4o)と出力を比較してみよう。

 ChatGPT-4oはそれぞれの数値をざっくりと羅列しただけ。そもそも2025年の情報はまだ集計されていない。さらに、先進国は10カ国を挙げたが、発展途上国は9カ国しか出さなかった。

 とはいえ、最有望市場としてブラジルや日本など5カ国を抽出し、その理由を解説。その他の考慮点として「発展途上国では、オフライン機能や軽量版アプリの導入がカギ」など4ポイントを上げた。考察はそれっぽく見える。

 しかし、ディープリサーチの出力は半端ではない。出典の文字も含まれるがトータル2万7,400文字を一撃で出力した。

トータル2万7,400文字のレポートが生成された

 例えば、表組のアメリカ部分は、

国名:米国(US)
① iOS対Androidシェア推移:iOSシェアは2013年頃~50%から現在約58%に増加、Androidは約50%から42%に低下(iOSが過半数維持)。
② 他言語学習ニーズ:外国語学習熱は低め。K-12の外国語履修率は約20%と欧州より少ないが、Duolingo利用者数は世界最多。スペイン語習得など一部需要あり。
③ モバイル普及率の推移:スマホ普及率は2013年約56%から2022年には約82%に拡大(成人の91%がスマホ所有)。

 などと詳細に記載されている。2013年から2023年の情報をチェックしたようだ。もちろん先進国と発展途上国のそれぞれ10カ国について詳細な情報が調査されている。人の手でさまざまなサイトから、20カ国の情報を調査するのはとても時間がかかる作業だ。

 そして圧巻なのは、実際に欲しいレポート部分だ。

 調査の結果から、ChatGPTの新しいiOS翻訳アプリでターゲットとする市場に関する推奨事項を知りたいのだが、深い分析を行ってインサイトを提示してくれた。有望市場に関しては5カ国中4カ国がChatGPT-4oと同じで、ChatGPT-4oのフィリピンが、Deep Researchではアメリカ・カナダになっていた。

 以下が、推奨事項部分のテキストになる。ちょっと長いが、読んでみると注力するならこの5カ国だな、と納得してしまう。

【出力】
ChatGPTの新しいiOS翻訳アプリでターゲットとする市場に関する推奨事項

上記の比較から、スマートフォンOSシェア・語学学習ニーズ・モバイル普及率の観点で各国市場を整理すると、次のような特徴が見られます。

・iOSユーザー比率が高い市場:日本、米国、カナダ、英国、オーストラリアなどの先進国ではiOS利用者が多く、新規にリリースするiOS専用翻訳アプリとの親和性が高い。特に日本はiOSシェアが約69%と突出しており、アプリ提供の即時到達範囲が広い。一方、中国・インド・インドネシアなどはスマホ人口こそ巨大ですが、iOS比率が5~25%と低めで、iOSアプリ単独では潜在ユーザーが限定されます。

・語学学習ニーズが高い市場:中国やブラジル、インド、日本などでは英語習得熱が非常に高いことがデータから窺えます。中国では3億人以上が英語学習中、ブラジルでも95%以上が英語を話せず学習の潜在需要が大きい。インドも英語は公用ながら流暢に扱える層は一部で、国内最大級の語学アプリユーザー基盤があります。日本も英語教育歴が長い割に習熟度が低いため、社会人の「やり直し英語」需要が旺盛です。対照的に欧州北部など既に多言語運用者の多い地域では、語学アプリは趣味・旅行用途が中心で“必要性”は相対的に低くなります。

・スマホ・モバイル普及の進展:新興国におけるスマホ普及率の急伸により、モバイル経由で語学学習や翻訳ツールを利用できる人口が爆発的に増加しました。例えばインドのスマホユーザーは過去10年で0.5億人未満から6億人以上へと増え、ブラジルもこの10年でスマホ普及率が倍増しました。これらの国々ではPCよりスマホで学習・情報取得する層が大半であり、モバイルアプリによるサービス提供が効果的です。先進国でもスマホは生活インフラとなっており、新規iOSアプリの受け入れ態勢は整っています。

以上を踏まえ、ChatGPTがリリースする多言語対応のiOS翻訳アプリのターゲットとして特に有望な市場は以下の通りです。

・日本:最重要ターゲットの一つです。iOSシェアが非常に高く、英語学習ニーズも突出しています。スマホ普及も成熟しており、ChatGPTの知名度・利用も日本では高まっています(日本語版ChatGPTの存在やAI翻訳への関心が高い)。英語以外にも中国語や韓国語学習への潜在需要もあり、多言語翻訳アプリの訴求ポイントが大きい市場です。

・ブラジル:人口規模が大きく、語学アプリ利用者数世界3位と示されるほど語学学習熱があります。Android主体の国ですが約18%(2千万台超)はiPhoneユーザーで、その多くが都市部の若年層・教育志向層です。ChatGPTもブラジルでは広く利用可能で、英語学習やスペイン語翻訳ニーズに応えることで大きなユーザー基盤を獲得できるでしょう。

・インド:iOS比率こそわずか5%程度ですが、絶対数では3千万台以上の潜在ユーザーが存在します。英語習得は収入向上に直結するため需要が高く、また多言語国家であるインドではヒンディー語と英語間、あるいは地域言語間の翻訳ニーズもあります。ChatGPTも規制なく利用できる環境であり、早期に市場参入してユーザーベースを築く意義は大きいでしょう。

・米国・カナダ:英語話者が多い先進国ですが、スペイン語など他言語話者や移民層へのアプローチで潜在需要があります。米国ではスペイン語を母語とする人が多く英語翻訳ニーズが存在するほか、英語圏ユーザーにも旅行・留学時の翻訳や語学学習(例:日本語やフランス語学習)の需要が一定あります。何よりiOS市場規模が最大で、ChatGPTの既存ユーザーも多いため、新アプリを展開しやすい土壌です。

・メキシコ:ラテンアメリカで英語学習意欲が高い国の一つです。スマホ普及が進み、iPhoneユーザーも数百万規模います。スペイン語圏であるため英語との双方向翻訳ニーズが高く、ChatGPTベースの高精度翻訳は歓迎されるでしょう。ブラジル同様に今後の有力市場として注目できます。

・(慎重な検討)中国:中国は英語学習ニーズ・iPhoneユーザー数ともに世界最大級ですが、ChatGPT自体が中国本土でアクセス制限されている現状では直接の市場展開は難しいです。ただし、規制が緩和されるか、中国向けにカスタマイズした提供(現地企業との提携など)が可能になるなら、見逃せない超大規模市場です。現時点では香港や台湾など中国語圏の開放市場を先に狙う戦略が現実的でしょう。

以上の分析から、新アプリは「iOS利用者が多く、かつ多言語学習・翻訳ニーズが顕著な国」を優先ターゲットとするのが有効です。具体的には、日本を筆頭に、ブラジル・インドなどの新興大国、そして北米や一部欧州諸国が有望です。これらの市場では、ChatGPTが既にサービス提供・利用されていることから受け入れもスムーズであり、ユーザーが求める「高精度かつ学習ニーズに応える翻訳ツール」として大きな支持を得られると期待できます。

プロンプトに「包括的に」と「詳細に」をとりあえず入れておこう

 ほかにもいろいろ試してみたが、びっくりするほどの成果物が出てくる。一般的な使い方と異なり、あまりプロンプトで細かく指定すると内容が引きずられるので、シンプルに指示するほうがよいだろう。

 例えば、ロボティクス分野について学び、今後の研究テーマや参入領域を検討するためのレポートを生成してみよう。

 年代を指定して検索範囲を絞りつつ、包括的に調査して詳細にレポートしてもらった。「包括的に」と「詳細に」をとりあえず入れておけば、広範囲を細かく押さえてくれるので便利なワードだ。Deep Researchの逆質問に関しても、「包括的にお願い」と返すだけで問題がないことも多い。

 今回は1万4,987文字のレポートが生成された。とりあえずサンプルで試しただけなのだが、読み込んでしまうほど勉強になる。

【プロンプト】
2020年以降のロボティクス分野における強化学習の進展について包括的に調査し、主要なブレークスルーと未解決課題を詳細にレポートしてください。インライン引用を削除したバージョンを提供してください
【出力】
はじめに

強化学習(Reinforcement Learning, RL)は、ロボットに試行錯誤による学習能力を与える技術であり、明示的なプログラミングなしに複雑な動作戦略を獲得できる可能性から注目されています。特に深層学習と組み合わせた深層強化学習は、シミュレーション環境やゲーム分野で大きな成功を収めてきました。しかし現実のロボットへの適用には、データ収集の非効率や安全性の問題など、多くの課題が伴います。2020年以降、この分野ではこれらの課題を克服するための技術開発が加速し、シミュレーションから実機への転移(Sim2Real)やメタ強化学習、階層型強化学習、人間のフィードバックを活用した強化学習(RLHF)といった新たなアプローチが登場・発展しました。また、産業や学術の両面で強化学習を用いたロボットの実世界応用例が増え、ドメインランダム化などによりシミュレーションと実環境のギャップを埋める試みも進んでいます。本レポートでは、まず主要な技術的進展を概観し、次に実世界での応用事例を紹介します。その後、依然として残る未解決の課題や制約について述べ、最後に今後の展望と研究動向を考察します。

技術的進展
~略

検索できる「ディープリサーチ」はいろいろ活用できる

旅行プランの検討

 ディープリサーチ機能は検索できるので、旅行プランの検討にも使える。

 ワイン好きにおすすめの海外観光地を紹介してもらったところ、ワインに関する情報だけでなく、グルメ関係や文化、アクティビティなどを絡めたレポートを生成してくれた。このままガイドブックやコラム記事に使えそうなクオリティだ。

 なお、レポートは1万文字以上あるので、ここでは紹介しない。興味のある人は以下の共有URLからチェックしてみてほしい。出力はChatGPT-Proを使っているが、表示するだけなら無料プランのユーザーでもOKだ。

【プロンプト】
2025年にワイン好きが行くべき最適な旅行先として、海外旅行で人気が高い観光地トップ5とその特徴を詳細にレポートしてください

金融情報の分析

 金融情報の分析もお手のもの。例えば、株式会社インプレスホールディングスの株価について分析してもらおう。

 あっという間に、株価の動向から市場センチメント、財務分析、業績見通しと決算予想、そして、長期的なリスクとリターン評価まで行ってくれた。これまでは金融のプロが時間をかけて分析したレポートが、あっという間に誰でも手に入るようになった。

【プロンプト】
次回の四半期決算に向けて、株式会社インプレスホールディングスの株価動向と市場センチメントを包括的に分析し、長期的なリスクと利益について評価してください

「ChatGPT Deep Research」の解説記事

 最後に、ライターとして試さねばいけないことがある。

 「ChatGPT Deep Research」の解説記事を執筆してもらおう。筆者が生成AIで下原稿を書かせるときは、執筆ルールなどを作り込んだプロンプトを使うのだが、今回は1行のみ。

 数分で約2万文字の原稿が完成した。

【プロンプト】
「ChatGPT Deep Research」について包括的に調査し、解説記事を執筆してください。その際、インライン引用を削除したバージョンを提供してください

 もちろん、このまま媒体に掲載できるレベルではないが、それでも凄いクオリティだ。下原稿どころか、完成度80%くらいあるのではないだろうか。凄腕の編集者であれば、ライターなしで原稿を作れそうなレベル。

 ライターである筆者は、本当に社会が激変しているのを肌で感じている。この流れは止まらないので、これからどう仕事と向き合うのか、どう生きていくのか、きちんと考えていく必要があると考えている。

著者プロフィール:柳谷 智宣

IT・ビジネス関連のライター。キャリアは26年目で、デジタルガジェットからWebサービス、コンシューマー製品からエンタープライズ製品まで幅広く手掛ける。近年はAI、SaaS、DX領域に注力している。日々、大量の原稿を執筆しており、生成AIがないと仕事をさばけない状態になっている。

・著者Webサイト:https://prof.yanagiya.biz/

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