柳谷智宣のAI ウォッチ!

生成AIからAIエージェントへ ~目標達成のために自律的に動作する「AIエージェント」が世界を変える

来たるAIエージェント時代に備える[後編]

 本連載「柳谷智宣のAI ウォッチ!」では、いま話題のAI(生成AI)を活用したサービスを中心に取り上げていく(基本的に1サービスにつき前後編を予定)。今回は、AIエージェントが抱える課題と活躍する未来を考える。
もしかしたら今年中にAIエージェントが同僚になるかも!?

 2025年は「AIエージェント元年」になる。

 すでに、いくつものAIエージェントがリリースされ、注目を集めている。前編で紹介したOpenAIの「Operator」もAIエージェントだ。

 AIエージェントが活躍する未来は先のことではなく、もう今年中に広まり始めることは間違いない。今回はAIエージェントの解説から、事例、将来について紹介しよう。

AIエージェントとChatGPTのような生成AIとの違い

 「AIエージェント」とは、特定の目標を達成するために、LLMを活用して周囲の状況やユーザーからの入力を知覚し、計画を立ててアクションを実行し、データの収集と判断を行っていくAIシステムのことだ。このアクションを、AIが考えて決めて動く、というのがポイントとなる。

 AIエージェントは、業務やタスクの自動化が得意で、複数のタスクを自律的に処理する。一方、生成AIは、主にコンテンツ生成に特化しており、ユーザーからの指示にもとづいてテキストや画像を生成する。AIエージェントは自律的に行動するのに対し、生成AIはユーザーの入力を必要とする点が異なる。

 例えば、ネット広告を打つ場合では、生成AIで画像やキャッチコピーを生成できる。AIエージェントなら、広告を作った上で、広告キャンペーンのスケジュール調整や出稿、進捗管理などを行える。

 まるで未来の話に聞こえるが、すでにAIエージェントは多数登場している。

 例を挙げると、OpenAIから「Operator」と「Deep Research」が登場している。前編で紹介した「Operator」はWebブラウザーを操作するAIエージェントだ。ブラウザーの画面キャプチャーを定期的に撮り、それを「ChatGPT-4o」で分析することで、どんな状態になっているかを把握し、目的を遂行するために次の操作を考え、実行するのだ。

目的を指示するだけでブラウザーを操作してタスクを実行する「Operator」

 2月3日にリリースされた「Deep Research」はリサーチ特化のAIエージェントだ。レポートを作るようにプロンプトを入力すると、足りない情報をヒアリングした上、多数のWebサイトを検索し、その結果を分析して統合してくれる。10分前後の作業時間がかかるものの、人間であれば半日以上かかるような数万文字のレポートを生成してくれるのが凄い。

 現在は「ChatGPT Pro」ユーザーのみが利用可能で、それも月に100回までという制限があるものの、筆者はあまりの性能に日々ヘビーユースしている。新規事業やビジネスモデルを考えたり、ガジェットのスペック比較をしてもらったり、特定業種への理解を深めたりとアイディア次第で、ものすごく濃い情報を手軽に入手できる。筆者のような執筆業はもちろん、リサーチャーやマーケター、コンサルタントなどの仕事にとても大きな影響を与えそうだ。

広範囲のWebサイトを調査し、高度な推論機能で詳細なレポートを作成する「Deep Research」

さまざまな業種でAIエージェントが活用されるようになる

 すでにAIエージェントはビジネスで使われ始めている。

 NECやパナソニック、IBMなど多くの企業では、AIエージェントが顧客の問い合わせに対する自動応答システムを構築し、業務の効率化を図っている。

 SalesforceもAIエージェントサービス「Agentforce」を提供しており、営業活動において、AIエージェントが顧客からの問い合わせに自律的に対応し、アポイントの設定や情報提供を行っている。法人向けフードサービス事業を手掛けるezCaterはこの「Agentforce」を導入し、複雑なケータリング手配をAIエージェントが自動化し、顧客のニーズに応じた迅速な対応を実現した。

Salesforceの自律型AIエージェント構築サービス「Agentforce」

 金融業界では、AIエージェントがトレーディングやバックオフィス業務の自動化で活躍するようになる。すでに、株式や為替市場で自律的に売買を行うAIトレーダーが実用化されつつあり、複数の市場指標をリアルタイムに分析して最適な取引判断を下している。

 銀行の経理業務では、請求書処理や支払い確認などの定型作業をAIエージェントに任せ、人間の担当者は戦略的な財務分析に専念するといった取り組みも始まっている。また、顧客向けには、資産状況やリスク許容度に応じて投資ポートフォリオを提案するロボアドバイザーも登場している。

 また、医療分野では、診断支援やバーチャルヘルスアシスタントとしてAIエージェントが用いられている。患者の症状を入力すると適切な診療科や対処法を提案してくれる問診チャットボットや、医師が撮影したMRI・レントゲン画像を解析して異常を検出する診断支援AIが実用化されている。まだ医師そのものを代替できるわけではないが、医師不足や医療費高騰といった課題の解決に貢献できると期待されている。

 製造業では、生産ラインの最適化や予知保全にAIエージェントが活用される。例えば、AIエージェントが工場内の機械を常時監視し、センサーデータや稼働履歴からメンテナンスが必要となるタイミングを予測し、壊れる前に保守を行うことができる。ほかにも、生産プロセス全体を分析してボトルネック工程を特定し、リアルタイムで最適な生産指示を現場に提案するAIエージェントを導入し、納期遅れを削減することもできる。

 教育分野でも、AIエージェントが学習支援に活躍している。AI家庭教師は、生徒が放課後に出した質問に対して24時間体制で回答し、個々の生徒の理解度に応じたヒントや解説を提供する。また、生徒の解答データを分析して弱点を発見し、適切な練習問題を出題する学習プランナーや、カリキュラムを動的に調整して個別最適化するシステムも登場している。

 例を挙げると、リコーはEdoとイトーキが開発した対話型AIサービス「ぐりん」にAIエージェントを提供し、生徒の学習を支援している。GPT-4oをベースにRAG技術を使い、音声での素早いコミュニケーションができるのが特徴だ。

リコーはEdoとイトーキが開発した対話型AIサービス「ぐりん」にAIエージェントを提供。生徒の学習を支援する

 セキュリティ領域では、AIエージェントがサイバー攻撃の検知・防御に使われている。高度な侵入検知システムにおいて、ネットワーク上の膨大なトラフィックをリアルタイム解析し、人間では見落とすような僅かな異常パターンを検知して潜在的な攻撃を素早く発見する。また、発見した脅威に対して自動的に一時的なアクセス遮断やシステム隔離を行う自律型レスポンスAIエージェントも登場しており、サイバーセキュリティの自動化が進んでいる。

AIエージェントが抱える課題と解決策

 メリットに目が向きがちなAIエージェントだが、社会浸透させるには課題が山積している。

 まず、学習に用いられるデータに偏りが含まれる場合、AIエージェントが不公平な判断を下す可能性が高まるという問題がある。特定の人種や性別に不利な結果を導くケースは実際に報告されており、データの選定と監査を怠ると社会的な不平等を助長しかねない。LLMによっては開発元の国に有利な情報を出力する例も確認されており、利用するAIを吟味する必要がある。

例えば、中国の生成AI「DeepSeek」に尖閣諸島のことを聞くと、中国固有の領土だと断言してくる

 また、AIエージェントの活用にはセキュリティリスクが常に伴う。外部システムと連携しながらタスクを遂行するため、データ漏えいや不正アクセスの危険性が無視できないのだ。

 特に機密情報や個人情報を扱う現場では、堅固なセキュリティ対策を講じなければ重大な損害を引き起こすリスクが高まる。厳重なガードレールの設定や定期的な脆弱性診断、アクセス権限の厳密な管理などが求められるが、直近はクリティカルな業務には適用しないという対応もありだろう。

 AIエージェントの意思決定プロセスがブラックボックス化しやすい点にも注意が必要だ。医療や金融といった分野において説明責任が求められる場面では、どのような根拠で結論に至ったかを明示できないと信頼性が著しく低下する。これを回避するには、説明可能なAI技術の導入や、ユーザーが判断過程を理解できるインターフェイスの提供などが必要となる。

出力の過程をトレースする機能が求められる。画面は「Deep Research」の推論過程の画面

 また、AIエージェントに頼り切ることで、人間のスキルが低下するという意見もある。

 日常業務や判断をAIが支援してくれるのは便利だが、必要な場面で人間が同じタスクをこなせなくなるリスクがある。というのだが、これは論じても詮無きことだ。ワープロによって漢字を書けなくなったとか、ネット検索に依存することで記憶力が弱くなるとか、交通機関が発達して歩かなくなったといった技術の進歩による変化は枚挙にいとまがない。

 職を失う、というのも同様だ。

 たしかに、AIエージェントはホワイトワーカーの一定割合の仕事を代替する可能性は高い。しかし、AIを使う新しい仕事も登場するし、より付加価値の高い業務に移行するしかない。この第4次AIブームは、産業革命並みに社会変革が起きるので、「自分がどう生きるのか」というのはしっかりと考えなければいけない時に来ていると言ってよいだろう。

今年中にもAIエージェントと一緒に働く社会が実現する

 今後、AIエージェントはマーケティング用語のようになり、昔の「AI搭載」のように、ありとあらゆるところで使われるようになるだろう。

 しかし、その中で“本物のAIエージェント”もどんどん登場してきて社会浸透が進むはず。まだ出たばかりではあるものの、この数年のAIの進化具合を見るに、近い将来、とかではなく今年中に広まるはずだ。

 OpenAIのサム・アルトマン氏もブログに「私たちはAGIの構築方法を知っていると確信しています。2025年には、最初のAIエージェントが『労働力に加わり』、企業の成果を大幅に変えることになると考えています」と記している。

将来はAIエージェントと一緒に働くのが当たり前になってくる

 企業としては、吊るしのAIエージェントでは業務に合わないことも多いので、自社独自の開発が必要になるだろう。その際、社内にAIスキルを持った人材がいないと、使えないAIエージェントに大金を支払う羽目になる可能性がある。しかし、リスクを避けてお見合いを続けていると茹で蛙のようになってしまう。AI人材の育成・確保は急務といえる。

 ビジネスパーソンとしては、仕事で使えそうなAIエージェントがあれば積極的に使ってみることをおすすめする。適当なLLMにラッピングしたようなもので、自分でも作れそうなものなのか、それとも本当に業務効率を向上させてくれるようなものなのかを見極めよう。そのためのAIスキルを身につけるためにも、普段からAIに触れておくことが重要になる。

 もう目の前に来ている、AIエージェントの波に乗り遅れないようにしよう。

著者プロフィール:柳谷 智宣

IT・ビジネス関連のライター。キャリアは26年目で、デジタルガジェットからWebサービス、コンシューマー製品からエンタープライズ製品まで幅広く手掛ける。近年はAI、SaaS、DX領域に注力している。日々、大量の原稿を執筆しており、生成AIがないと仕事をさばけない状態になっている。

・著者Webサイト:https://prof.yanagiya.biz/

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